第5話 陶子④

 それからしばらくは、仕事や家事に専念する日々を送っていたのだが、マリアの近況は絵梨からのメールでちょこちょこ知るようになった。

 無論、絵梨も子供の世話などで、マリアに直接には会ってないらしいが、写真付きのLINEやアプリを使ったビデオ通話などで随分距離が縮まったらしい。メールには、

`マリアのマンション都内の分譲の八階だって、すごくない?`

とか

`チビ達の写真見せたら、マリア超会いたがってさー。今度、うちの汚いアパートに来てもらうことにした(笑)`とか。

「陶子もおいでよ」

と誘われたが、勤務日だったので無理だった。


 その日は月末に向けての図書資料整理の日で、絵梨達が会っていた日だったのは、私はすっかり忘れていたのだが、クタクタで家に帰り、夫の哲郎は飲み会なので、スーパーで買った惣菜で夕食を簡単に済ませていると

`緊急!!!`というLINEが入っていた。

勿論、送信者は絵梨だ。何にでも、大袈裟にいう絵里のことだからと放置していると着信音が鳴り始めた

「なーに?今食事中なんだけど」

つっけんどんな私の対応にも、かけてきた相手がわかっているからこその対応であることは、絵梨も充分わかっているが気持ちが先走っているのが、スマホ越しにも感じられた。

「ねえ、陶子お〜。マリア、やばいよ」

主語と形容詞だけの呪文に似た絵梨の台詞に、尋常ではないことを知る。

「何が?」

箸を置き、長電話を見越して一つ一つ聞いていく。

「どうやばいの、今日マリアと会っていたんでしょう?」

「どうって言われると言葉にできないんだけど・・・」

「けど?」

「空気?雰囲気?なんかこないだあった時とは違うの。とりあえず、写真と動画送る」

 一旦切られ、数秒後に吹き出しに添付された写真と短い動画は、絵梨の子供と笑うマリアが、加工された白っぽいフィルターの中で動く猫耳やキラキラしたスタンプの中ではしゃいでるものだった。

 こちらからかけ直すと「見た?」と不安げな絵梨の声が返ってきた。

「別に普通じゃない?っていうか、この画像じゃーね・・・。ちょっと化粧が濃くなった?・・・くらいの変化じゃないの?」

私の返答に絵梨は

「やっぱ、写真じゃわかんないかー。本当に変わっているのよ、マリア。大丈夫か不安で」

「そーおー?」

相槌もそろそろきつくなってきた、食べかけの煮物の冷たくなっている。

「とにかく陶子も一度マリアに会って。ね?」

いつもは、ペラペラと抑揚をつけて話す絵梨が、不安そうに沈んだ声でお願いしてきたので

「わかったわ、都合をつけて会ってみる」

と返信すると

「よかったー」

と心からの安堵の声を絵梨は出した。

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