第5話 カミングアウト side 駆流

(今まで必死に隠してきたのに……!!)


 秘密を思い切って話した直後、駆流は春果の反応を見ることなく、また先ほどと同じようにうなだれていた。


(何でこうなるかなぁ!)


 まさかこんな間抜けな形でバレてしまうとは思いもしなかった。

 そして、色々とやらかしてしまった少し前の自分を思い切り殴りたかった。

 駆流は心の中でぐしゃぐしゃに頭をかきむしる。目の前に机や壁があれば、両の拳と頭を何度も叩きつけたいくらいだった。


 最初にうっかり口を滑らせたのがいけなかった。

 もちろんその後は散々で、前言撤回なんてできるはずもないのに、さらに口を滑らせてしまう。望んでもいないのに、自らどんどん墓穴を掘っていく最悪のスタイルだった。


 春果が小説の原稿だと思っているうちはまだよかった。

 その程度ならば「将来小説家を目指してるんだ」などと、適当に嘘で誤魔化して笑っておけばどうにかなったはずだ。

 しかしその後に、つい漫画の原稿だなどと訂正してしまった。

 そこで春果の瞳の輝きが増したせいで引っ込みがつかなくなって、


(これ以上はもう無理だ。隠しきれない)


 そう悟った、いや悟るしかなくなって、結局本当のことを話すことになってしまったのだ。


 だが同人誌の原稿だと告げた直後、春果の表情が一瞬固まったような気がして、駆流はいたたまれなくなった。


(やっぱり……か)


 春果から顔を背けて小さく嘆息しながら、言わなければよかった、とすぐに後悔した。

 もしかしたら理解してくれるかもしれない、と心のどこかでそんな淡い期待を抱いていた。

 こういう反応が返ってくることは最初からわかっていたことだ。そう自分に言い聞かせる。

 あとは少しでも早く話を切り上げて、これ以上詮索されないようにしよう。まずは何とかして口止めしておかないと、などと考えていた時だった。


『もしかして、さっきの、フラ☆プリオンリーって……』


 頭の後ろから聞こえた春果の呟きに、思わず振り返ってしまった。

 まさか記憶がない時に、そんな大変なことを口走っていたとは思わなかった。もはや、ミスという言葉で簡単に片付けられるものではない。


(俺の人生、詰んだ……)


 もううなだれることしかできなかった。

 このまま、また真っ白な布団の中に潜り込んで、何もなかったことにしたかった。

 けれどすでに過ぎてしまった時間は巻き戻せないし、ここまで知られてしまっては、もうただの同人作家という肩書きだけでは誤魔化せないことも、心のどこかでよくわかっていた。

 同人活動をしているという事実ですら、誰にも知られたくなかったのに。


 力を落としたままで数秒の間逡巡するが、この場を切り抜ける術はただ一つしか思い浮かばなかった。

 そうして駆流は渋々ではあるが、すべてを吹っ切って春果に本当のことを打ち明ける決心をしたのである。




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