42.帰還


「こんなところに地下道があったなんて驚きですね」

「そうね。何かがありますって匂いしかしないわ」


 メロディアとクローレの会話。

 俺たちは今、例の隠し階段を使って地階へと足を進めていた。


 思ったよりも隠し階段が長く、地下にまで辿りついたのはいいものの、足場がかなり悪かった。


「二人共、足場が悪いから転ばないように気をつけろよー」

「それくらい分かってますよ。私たちはもう子供じゃないんで。ね、メロ」

「そうですよ! 子ども扱いしないでくださいっ!」

「わ、悪い……」


 俺からすれば二人とも子どもみたいなもんなのだが、そこは言わないようにする。

 にしても最近、メロディアがいつも以上に強気な感じがするのは気のせいだろうか?


 初めて会った時はすっごい奥手なイメージだったのに……


「おい、アレを見ろ」


 一番先頭を歩くボルが指を指す。

 すると、


「……おい、なんだよあれ」

「出口……?」

「何かの光……でしょうか?」


 地下なのにも関わらず、地上のように明るい場所が前方に見えてくる。

 しかも何だろうか、やけに胸騒ぎがする。


 若干だが、魔力も感じるし、もしかすると――


 俺たちは急ぎ足で先を進む。

 そして見えてきたのは……


「……お、おいこれって」

「お墓……ですかね?」

「しかもこんなにたくさんあるなんて……」


 光の先に進むと目に入ったのは何者かの墓石が大量に陳列されており、その石からは異様な光が発せられていた。


「光の正体はこれだったのか」

「でも、こんな墓石みたことないですよ。しかも何かこのお墓……」

「おい、レギルス!」


 突然、ボルの呼ぶ声がこの空間にこだまする。

 

 ボルはこっちへ来いと言わんばかりに俺を手招きする。


「どうした?」

「ここを見てみろ」

「は……? ここって……ん?」


 ボルの指を指すところを凝視すると、何やら薄く紋様のようなものが刻印されているのを見つける。

 

 しかもこの紋様……


「ま、まさか……」

「ああ、間違いない。これは俺たちの手の甲に押印された刻印と……」


 ――同じ紋様だ。


「でも、どうして? 此処は一体……」


 その時だ。

 急にその墓に印字されていた紋様と俺たちの手に刻まれた刻印が反応し、蒼白く光り輝く。


 それと同時に結界のような膜が俺たちを囲い込み、二人だけの世界へと隔離される。

 

 そして――


『どうやらここまでやってくることができたようじゃな。結構、結構』


(こ、この声は……)

 

 瞬間、俺の脳内に聞き覚えのある声が入ってくる。

 ボルもどうやら同じような現象が起きているらしく、戸惑っていた。


 俺はバル爺に問いかけるために、口を開こうとする。


 だが……


(……しゃ、喋れない!)


 喋ろうとしても口が全く開かず、まるで糸で口を縫い付けられたような感覚だ。

 ボルも同様に喋ろうと試みているが、やはり無理なようだった。


『レギルス、ボルゼベータよ。お主たちの成長は十二分に見せてもらった。戻って来るがよい』


(も、戻る……だと?)


 脳内に響くバル爺らしき人物の声。

 

 そして俺たちの刻印から発せられている光はさらに激しさを増し、俺たちの視界を奪っていく。

 

(どう……なってんだ……)


 俺たちはそのままその光に飲み込まれてしまうと、いつの間にか意識を失っていた。


 ♦


「う、うぅ……くそ、頭が……」

 

 激しい頭痛と共に目を覚ます。

 そして頭を押さえながら、周りを見渡した。


「……ここは」


 何だか懐かしい感じだ。

 久々に故郷に帰ってきたかのようなこの感覚、しかもこの景色……


「ぐぅ……我としたことが意識を失ってしまっていたか……」

「ぼ、ボル!」


 隣で寝ていたらしい竜人の男が俺の後に素早く目を覚ます。

 彼もまた、頭痛による影響があるのか頭を押さえていた。


「ここは、どこだ?」

「さぁな。だが見覚えは……」

「ほっほっほ、お主たちはもう賢界の景色を忘れてしもうたのか?」


「「……!?」」


 聞き覚えのある老人の声に俺とボルの身体がピクっと反応する。

 そしてその声の主はすぐ後ろにいた。


「ば、バル爺……!」

「やはりあの声はあんただったか。これはどういうことだ」


 バル爺改め大賢者バルトスクルムは地までつきそうなその長い顎鬚を触りながら、答える。


「ん、忘れたか? 試練の達成をしたら賢界へ戻すとの約束だったじゃろ」

「試練だと……? だが刻印は……」

「お、おいボル。刻印の刻まれた方の手を見てみろよ」

「は? 貴様は何を言っている?」

「いいから!」


 そういう俺の指示に従い、ボルは刻印の刻まれた方の手を一瞬だけ見る。

 すると、


「……き、消えているだと?」

「ああ、俺も今知って驚いた。起きたら綺麗さっぱり刻印がなくなっていたんだからな」

「ほっほっほ、お主たちも随分と人間味の溢れた者になったもんじゃの」


 驚く俺たちを見て笑うバルトスクルム。

 そんなバルトスクルムにボルはキッと睨みながら、


「なにがおかしい? それより説明しろ。なぜ俺たちを引き戻した?」


 バルトスクルムに威圧的な態度でそう問うボル。

 俺もあまりのあっけなさに少し疑いの念を抱いていた。


 数年もの間、別世界へと飛ばしたのにも関わらず、いきなり呼び戻すなんて……


 だがバルトスクルムは一瞬たりとも表情を変えずに答える。


「簡単な話じゃ。お主らにはもうあの世界に居る必要はないと踏んだからに過ぎない」

「どういうことだ?」

「どういうことも何も、元々お主たちを異界の地に飛ばしたのはお主たちの精神的欠陥の改善が目的じゃ。お主たちが過ごしたあの世界で過ごした数年間、ワシ等大賢者はずっとお主たちをこの賢界から見ていた。そしてつい先日に行われた定例会議で判断が下ったのだ。お主たち二人を賢界に呼び戻すとな。現に、そのための布石があったじゃろ?」

「……布石だと?」

 

 俺たちは過去を思い返し、じっと考える。

 

 確かに今までの経緯を辿ると、急展開な出来事ばかりだった。


 数年もの間、俺たちは刻印を消すという目的を持っていながらあの世界で当たり前のように過ごしていた。


 だがある時を境に、俺たちは様々な事件に巻き込まれることとなった。


 その堺とは――


(そうだ。あの二人と、メロディアとクローレ会った時から俺たちは……)


「貴様、まさか……」


 ボルもそのことに気がついたようで少し声が震えていた。

 そしてバルトスクルムはいつにも増して真剣な顔をすると、俺たちにこう言い放ったのだ。


「……そうだ。ワシがお主たちの運命を操作し、ここへ導いた。すべては、ワシたちの管理下にあったわけじゃ」


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次回で最終回になります!!

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