第23話 焦りとクールダウン。

そうして練習を続けること、早数日。 僕は早速焦りだしていた。


昔のように声が乗り切らないのだ。 それもそのはず、この数年趣味でも歌うことはなかったし、歌そのものとはかなり距離を置いていたから猶更だった。 先ずは過去の自分に追いつくことからがスタートなのであった。 


とはいえ、期間もそうたくさんあるわけではなかったし、僕は焦りながら練習を繰り返す。 何度も楽譜を見て、何度もテキストを見て、力の限り練習をしたけれど、あの声が出ない。


ちくしょう・・・・なんでなんだ・・・・なんで・・・・なんで・・・・


悩みこんでいると、頬に冷たい感覚が走った。 どうやらスポドリのようだった。見上げるとそこにはとわの姿がいた。


「あんた、しばらく寝ずに練習してたでしょ・・・・ とりあえず、これ飲んで休んでみたら?」


「あ、ああ・・・・それもそうだな・・・・ありがとう」


そう告げて、僕はスポドリの封を開け、喉へと流し込んだ。冷たく爽やかな味わいが染みる。 暫くスポドリを飲みながら、歌詞とにらめっこをする。 少しでも無駄な時間を作りたくないからだ。


すると、とわは、僕のおでこにデコピンをしてきた。


「っっ・・・・なんだ、どうした?」


「今は休む時間でしょ。 少しは頭を冷やさなきゃ」


「でも、時間を無駄にはできないし・・・・」


「急いては事を仕損じる・・・・って言うでしょ。 もちろん、制限時間は決まっているけれど、そこで熱くなりすぎて、大事なものを見失うかもしれないじゃない。休む時は休まなきゃ」



それも・・・・そうか。 そう答えて、とりあえず歌詞カードを棚に戻すと、再びスポドリをゆっくりと喉に流し込んだ。 流し込んでいる喉に微かなヒリヒリした痛みが浮かんできた。 そうか、あれからずっと休みなく歌い続けて、喉をずっと休ませていなかったな・・・・ 喉が命となる、歌をやっているのにケアを怠るなんて、僕はそんなことも忘れていたのか。 とわが言ってくれなかったら気づいていなかったかもしれない。


自己管理も忘れて、こんな醜態を晒すだなんて。 これから先が思いやられるな・・・・なんて思いながら僕はボソッと、


「ごめんな・・・・とわ」


そう呟いてしまっていた。


「何言ってるの。 そんな謝ることじゃないわ。 あなたをサポートするために私はここにいるんだからさ」


そう言って、とわはウインクをして見せた。 そして、暫く間を置いて、とわは僕に一つの提案をしてきた。


「ね、凛歌。ドライブに行ってみない?」

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