第17話 意見という名の要求

 あと一つ……。


 疲れているので早く終わらせたいのは山々だけど、どうしても聞いておきたい事がある。




「ルーザリア嬢のことはどのように?」


「それは……彼女の事……そうねぇ。……今日はもう遅いし、また後で話し合いましょう」


「あとで、ですか?」




 ものすごく嫌な予感がして念を押すようにくり返したが、王妃殿下はフイっと横を向いてしまう。




 これって、クラウン殿下と私の婚約解消をさせる気が無いってことかしら?


 まさかだけど、彼女を愛妾あいしょうにとか言い出さないわよね?





 気が遠くなりそうな私の横で、ずっと聞いていただけのヴィクターが口を挟んだ。




「では、公務で欠席していたはずの殿下が、学園で目撃された事については?」


「えっ? そそそ、そんなこと、あるはずがないでしょう?」


「まさか……いや、そんな大胆な事はしないと思いますから、私の杞憂きゆうでしょうね?」




 ヴィクターは何を言い出したのだろう。


 さっき私が変だと言った時、彼は誤魔化ごまかしたかったように見えたけど……どうして今?


 さっぱり理解できなくて、彼と王妃殿下を交互に見る。


 ヴィクターが薄笑いなのに対し、王妃殿下は真っ青だ。


 私は慌てて声をかける。




「どうなさいました? お加減がよろしく無いのでは? ──誰か……」


「大丈夫です!」


「でも……」




 これは絶対ヴィクターが何か知ってて困らせてる。


 そこまでは私も分かったが、その先が分からない。


 だいたいこの話がどう転べば有利になるのか想像も付かないから、私は大人しく見ているしかない。




「いいえ。本当に、大丈夫よ」




 人を呼ぼうとするのをかたくなに拒んだ王妃殿下は、震える手で慎重に冷めてしまったお茶を飲む。


 そしてギロリとヴィクターを睨んだ。


 先が見えずハラハラする私には構わず、王妃殿下が口を開く。




「どうすれば宜よろしいのかしら?」




 聞かれたヴィクターは動じる事なく微笑ほほえみを崩さない。




「どうするも何も……私は何もしませんよ?」


「本当に?」


「ただ少し……。公務で違和感があったとか、時々テストの出来がもの凄く良いとか、噂が立ってましてね」


「まぁ、そんな噂が? オホホ……」


「えぇ、噂です。もしそれが本当だったら、大変な事になってしまいますからね」


「そうね。きっと見間違いとか、勘違いとか、妄想とか……噂などそういうものです」




 嘘臭くきれいに笑った王妃殿下がそう言って、ヴィクターも深い笑みを返す。


 でも私は怖くて笑えない。


 どう考えてもクラウン殿下の影武者がいて、王妃殿下はそれを知ってて隠したいのだろう。




 これが何を意味しているのか?


 誰が関わっているのか?




 王家と縁を切りたい私は、これ以上秘密を知りたくなかった。




「大丈夫です。私も噂が広がらないようにしますよ」


「それを信じろと?」


「噂が広がっても、何の得にもなりませんから」


「あなたは……。いえ、良いでしょう。それで……どうすると噂が消えるかしら? あなたの要求意見を聞きたいわ」




 

意味シンに言ってヴィクターの顔色を伺う王妃殿下は怖いくらい真剣だ。




「では。殿下の希望通り、グレイシア嬢との婚約をなさったらいかがです?」


「え?」

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