第15話 計画の行方

 クラウン殿下が頭の中で忙しなく考え事をしているらしいのが見て取れる。




「少なくとも王宮の外に出る時点で二人以上は付きますよね? 侍女も合わせたら少なくとも四、五人は一緒に行動するでしょう」




 城の中とは言っても屋外は広いし狙われやすい。


 この国はまだ内乱や政敵の暗殺が横行する時代から完全に抜け出した訳では無いのだから。




「では……」




 クラウン殿下は自分の間違いに気が付き呆然とした。




「クラウン様……私、二重に騙されてたのかも……」


「ルーザリア、キミは本当に嘘は言ってないんだね?」


「もちろんですぅ。だけどこれって、グレイシア様も被害者だったってことですよね?」


「そうか……そうだな。すまなかった。私はてっきりキミが嫉妬して、ルーザリアを陥れようとしたのかと勘違いしてしまったようだ」




 弱々しく微笑みゆるしを乞うように言われたからって、今日の出来事が無かったことにはならないのだけど。


 どうして分からないのかしら?


 それより。


 こんなに悠長な事やってられるのは、広間の扉がクラウン殿下の命により閉ざされているからだ。


 国王陛下夫妻や、殿下に都合の悪い宰相たちが入ってこられない代わりに、この広間からも出ても行けないようになっている。


 もうこの茶番を終わらせて、締め出しを食らってイライラしているであろう大人たちが入れるようにした方が良いだろう。


 私が事態の収束を促そうとしたその時。


 不意に視界の隅で何か動く気配がして思考が中断された。




 何?




 そう思った時には目の前はヴィクターの背でおおわれ、私は後ろ手にかくまわれた。


 意味が分からず気になって覗くと、フールがそっと動き出したのが見える。




「顔出すな」




 慌てて引っ込んだけど。




 これってフールが何かするかもってこと?




 ある意味密室状態だから、当然フールも逃げられず反撃して来ると思ったのだけど、どうやらそれは間違いだったようだ。


 私たちに気付かれたフールは駆け足に切り替えた。




「フールを捕らえよ!」




 何も指示しない殿下に代わりヴィクターが声を上げる。




「はっ!」




 護衛の騎士たちがフールを追うが、この茶番が始まってから周囲の人は端に寄っていて彼の周囲はガラ空き。


 取り押さえる者は群衆のさらに外側にいる為すぐには近寄れない。


 フールは逃げ放題だ。


 しかもここは一階。


 庭に出られる窓ならばいくらでもあった。


 フールは迷わずその一つに走っていく。


 きっとガラスを蹴破けやぶって逃げるつもりだろう。


 騒然とする会場を騎士たちが動く中、何かがシュッと飛んでいった。




「うっ!」




 フールの動きが一瞬鈍る。


 今度はシュッ、シュッと二回音がして、フールの足がもつれてそのままバランスを崩す。


 何かが彼の足に刺さったらしい。


 その好機を見逃すほど騎士たちが甘いはずはなく、フールはその場で拘束された。




「ヴィクター。あなたね?」


「何のこと?」




 隣を見れば、さも何も知らないとばかりに小首を傾げて微笑まれた。


 でも私は見逃さない。


 彼の胸ポケットにあった三本の生花が消えていて、フールのいた場所にはたくさんの花びらが落ちていた。


 どう見てもただの花ではなかったのだと思う。


 そういえばダーツが得意だったと思い出す。


 私はヴィクターを追求したかったが、会場内は騒然としていてそれどころではなくなってしまった。


 視界の端でガックリと肩を落としたクラウン殿下が見える。


 あぁ、やっと彼女が見た目通りの可憐な女性とはかけ離れた存在だと気付いたようだ。


 こんな衆人環視の中あれだけの失態を見せたのだから、きっと彼は終わりだろう。


 第一王子のクラウン殿下だけど、彼が消えてもこの国にはあと二人もスペアが居るのだから。


 私は殿下から婚約破棄を言い渡されて関係ないし、もうどうでも良いわ。


 そう思っていたのに……。

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