第12話 真向否定

 せっかく緊迫した雰囲気で始めた断罪劇のはずが、今や弛緩しかんした空気が漂い騒めき始めている。


 これに腹を立てたのはクラウン殿下だ。


 彼は忌々いまいましそうに口元を歪め、不機嫌そうにフールに命ずる。




「もう良い! 毒だ! 毒の説明をせよ!」


「はい!」




 これって聞く必要あるのかしら?


 だって、その毒入りトウモロコシを食べたのって、ニワトリですわよね?



 そう言いたいが、ヴィクターが止めるので大人しくしていよう。




「飼料のトウモロコシに毒を混入させた人物を僕は確認しています」


「それは誰かな? この場に居るのだろう?」




 クラウン殿下がフールから、欲しい言葉を引き出していく。




「そこに居る、グレイシア様でした!」


「私ですの? 本当に?」




 念押しするとフールは一瞬ひるんだが、ルーザリアの視線を感じて背筋を伸ばす。


 そこへ台本通りなのか、わざとらしくクラウン殿下が進み出て来て。




「お前が毒を混ぜたのだろう?」


「いいえ。先ほどから申し上げているのですが、私ではありません」


「何を言う! 僕はちゃんと見たんだ! あなたが餌に何か混ぜて……その直後に異変が起きたんだ!」


「本当の事を言え。今この場で正直に言うなら、侯爵家や縁者まで咎められないよう手を打つが?」


「やってないものは認められませんわ」




 私はここに来てようやく、クラウン殿下に顔がよく見える位置まで進み出る事ができた。


 するとさすがに違和感を覚えたようで、クラウン殿下はオヤっというように目を見張る。


 最近まともに顔さえ見ていないから、私の顔など忘れてしまったのかしらと意地の悪い事を考えていたら……。


 殿下の頬に赤味が走る。




 え? 


 まさか、顔を見ただけで怒りが増すほど私を疑っているの?


 それにしては目を合わせてくれないのが気になるけど、いったいなんだろう?




「フール、本当にグレイシアで間違いないのだな? 彼女は唯一放牧場に許可無く入れる人物だ。堂々と入って行って、その後すぐにチャボットが死んでは、自分が疑われると分からないほどバカでもない。それなのに彼女が毒を盛ったのか?」


「え? しかし確かにグレイシア様が……」




 おやおや?


 何だか雲行きが怪しくなってきたみたいね。


 やっぱり腐っても王太子殿下。


 何でもかんでも盲目に信用してはならないという、幼い頃に叩き込まれた帝王学が仕事をし始めたらしいわ。


 その調子でもう少し深く考えてくれたら、私が犯人だというのがおかしいと気が付きそうなんだけど……。




 私が成り行きを見守る中、ルーザリア嬢は忌々しげに私を睨み付けている。


 誰彼なしに喧嘩を売っていたら、いつかその内に叩き潰されるだろうに。




 あ。


 もしかして、されるまで分からない人なのかも……?


 おっと、うっかり同情しそうになったわ。




「どうしたフール、間違いではないのだろうな?」


「間違いはございません。僕は彼女が餌箱の中に手を入れているところを見たのです」


「それが本当に私だと、ご証明いただけますか?」

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