第8話

 新入部員の美玖も彩も次第に放送部の活動に慣れてきた。

そこで、落し物の校内放送を彩が初めてやってみることになった。

彩は始め躊躇っていたが、部長が

「大丈夫、松本さんなら出来るよ」と軽く肩を叩かれると、頬を赤く染め照れながらも気合を入れたようだった。

深呼吸してスタンバイした。


――― ピンポンパンポーン ―――


「全校生徒の皆様にお知らせします。Y・Kとイニシャル入りのピンクの……」


彩は放送の途中で固まってしまった。

次の言葉が出てこない。

副部長が、すぐに機転を利かし続きの言葉を続けていった。

(ナイスフォロー)

と悠人は心の中で思いながらも彩が落ち込んでいるのを見ていると居たたまれず思わず、彩に

「俺なんか、途中でわかりませんって言ったことがあるぜ」と言ったが、彩は泣きそうな顔になっていた。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 それから何日かして悠人は、『アン』からの手紙を配達中に受け取った。

いつものようにポストにわかりやすく留めてあった。

逸る心で家に持ち帰り封を開けてみた。


 悠人は、彩が校内放送で失敗したことで落ち込んでいることを綴りながらも、部長さんの前ではいいとこを見せたかったと書いてあるのを読んで、ガ~ンとなった。


(そうか、彩ちゃんは部長のことが好きなのか)

(そうだよな、部長は頭もいいしイケメンだし、男の俺から見ても文句の付け所はないし……叶わないな)


知りたくないことまで知ってしまった悠人の方こそ、落ち込んでしまった。

しばらく、茫然としていたが、


(そうだ、俺は『マシュウおじさん』なんだ、こんな時こそ、彩ちゃんの力にならなければ)


そう思い直して、沈んだ心を奮い立たせて、渾身の想いを込めて返事を書いた。


(うん、我ながら上出来だ!)

(なんてたって俺は彩ちゃんを影ながら支える『マシュウおじさん』なんだから)



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