第2章 悠人の苦悩編

第1話 

 玄関のドアを開けると雪はすっかり溶けていた。

悠人は昨日の朝のことを思い出していた。



◇◇◇◇◇◇◇◇



「うわぁ~」

玄関のドアを開けた悠人は、思わず声をあげていた。

まだ薄暗い外の風景が一夜にして一変。

目の前には昨夜から降り続いた雪が積もっていた。

「まいったなぁ」

寒さに身震いしながら、悠人は困惑していた。


 ここ近年は、悠人が住んでる地域ではほとんど雪が降ることはなかった。

ちらつく程度の雪は、たまにはあったが積もるほどではなかった。

悠人が新聞配達を始めてから初めての積雪だった。


(10センチ、いや、15センチは積もっているか?)

(ヤバいなぁ、新聞配れるだろうか……)


悠人は、たちまち不安になった。

幸い、新聞販売所はすぐ隣だった。


「おはようございます」

悠人が、新聞販売店のドアを開けると、奥から主人が顔を出して、

「おぉ~、おはよう、悠人か、早いな、すごい雪だよ。参るな。今日は自転車での配達は危ないからおじさんが車を出すから手分けして配達しよう」そう言ってくれ、悠人は内心ホッとしたのだった。


 お陰で、その日は自転車で配達することはなく、販売店の主人の車に乗せてもらいながらの配達で助かった。

が、車から降りてから何件かは歩いて配っていったので、雪を踏みしめながら1件1件ポストに新聞を投函する作業は容易ではなかった。

全てを配り終えた時は、クタクタだった。

家に着くと、倒れるように横になった。



◇◇◇◇◇◇◇◇



(あんな雪はもうごめんだな)

そう思っていただけに、今朝は雪が綺麗に溶けていることにホッとした。

新聞配達を始めて約1年。

雨の日や風の日や眠たくて体がだるい日やいろんな経験をして、辞めたいと思ったことも何度もあった。

その度に、始めた時のことを思い出し頑張ってきたのだった。


「さ~て、今日も頑張りますか」

悠人は、自転車にまたがり、まだ薄暗い中、自分が担当しているエリアに向かって自転車を走らせて行った。


 


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