第22話

 彩は自転車通学なので駐輪所に向かおうとすると

「俺も自転車だから一緒に帰ろう。方向一緒だから」と言ってきた。


「えっ、私の家知りませんよね。私は大丸スーパーの近くなんです」


「……あぁ、知らないけど……以前朝日中学校って言ってたから……俺も朝日中だから大体方向一緒かなって」


「そうだったんですか?同じ中学校だったんですね。学年が違うからユート先輩見たことなかったな。  あっ!自転車のカギに付けてたキーホルダーが無くなってる」

彩はカバンの中をまさぐってみたが見つからなかった。

悠人も駐輪所の当たりを探してくれたが見当たらなかった。


「猫のキーホルダーで気に入ってたのにな。猫、大好きなんです」


「猫ちゃんかぁ、俺も気をつけて探してみるよ」


「ありがとう、でも家に落ちてるかもしれないから大丈夫です」


彩と悠人は二人並んで自転車を押しながら歩いて帰り始めた。

「そう言えば、ユート先輩、朝日中なら社会の佐々木先生、知ってますか?」


「佐々木先生、知ってるよ。俺2年の時の担任だったよ」


「そうなんだ、佐々木先生の授業面白かったですよね」


「そうそう、授業の半分は脱線して雑談だったよ」


「私、歴史が特に苦手だったけど佐々木先生の雑学はしっかり頭に入って歴史にも興味が持てるようになって成績も上がったんですよ」


「それあるよな、逆に苦手な先生の教科は成績落ちたり」


「あるある」


彩は今まで悠人とこんな風にゆっくり話すことがなかったが共通の話題が見つかり楽しかった。何でも話せそうな気がした。


「ユート先輩はどうして放送部に入ったんですか?」


「う~ん、たまたま友達の亮に誘われて入ったけど最初全然乗る気じゃなくて俺はアナウンスなんかは苦手だしと思っていたけど番組作りをするようになったら面白くなって興味が湧いてきて、そしたらみんなが感動するような番組が作りたいなって思うようになってきたんだ。だから今回の『創作ラジオドラマ部門』の作成はすごく楽しかった。こういう仕事も面白いかなって思ってる」


「すごい!将来の事もちゃんと考えているんですね。好きなことで仕事が出来たら最高ですよね」


「もっとも、仕事となるとそんなに簡単にはいかないと思うし、実際そういった仕事に就くかどうかはまだ分からないけどね。まだまだ色々やってみたいかな」


「そうですよね。私も最初、放送部に入るつもりはなかったんだけど美玖が放送部に入るって決めてて流れでいつの間にか放送部に入ってました。でも今は放送部で良かったって思ってます。今はコンテストに向けて頑張ろうかなって。なんか目標があるのっていいですよね」


「そうだね。大変なんだけどそれを乗り越えたら新しい自分も発見できる。彩ちゃんは自信ないなんて言ってるけど俺から見たら最近イキイキしてるよ」


「そうですかぁ」彩は悠人に言われて照れ臭くなった。


話しながら帰っているといつの間にか突き当りにある大丸スーパーまでたどり着いた。


「私、この道左に行ってすぐなんです。ユート先輩は?」


「俺は右だから」


「じゃあ、ここで、ユート先輩ありがとうございました。色々話せて楽しかったです」


「俺も楽しかったよ。又機会があったら一緒に帰ろう。じゃあ又明日」


「はい、また明日」


彩は暫く悠人が自転車で走り去る後ろ姿を見送っていた。


(また明日だなんて……まるで付き合ってるみたいじゃないの)


彩は口元が緩んでくるのを感じた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る