第19話

夏休みに入ったある日。

待ちに待った放送部の親睦会で彩たちは海に来ていた。


早速、『海の家』の更衣室で水着に着替えると

「わぁ~、海だぁ」

「やった~」

「泳ぎまくるゾ」

部員たちは思い思いに海に向かって走り出した。


 彩と美玖はこの日の為に水着を新調していた。

彩はピンク地に小花が散りばめられたフリルが可愛いワンピース、美玖は紺地に白い大きな花柄模様のちょっと大人っぽいワンピースだ。

水着に着替えるとお互いに日焼け止めをたっぷり塗りあってビーチウェアを羽織ると由紀と春香と一緒に海に向かった。

すでに男子達は泳ぎ始めていた。制服姿と違って水着姿の先輩たちは彩には眩しく映った。自分の水着姿を晒すのも照れ臭かった。でもこの海の開放感からかいつの間にか恥ずかしさも消えてみんなと一緒に海で泳いでいた。


 4人位乗れそうなボート型の浮き輪を部長が用意していたのを借りて彩は美玖と一緒にその浮き輪に寝そべって波に揺られながらプカプカ浮かんでいた。

すると、そこに悠人と亮がやってきて

「俺達も乗せてよ」と返事を待たずに強引に乗り込んできた。


「きゃあ、ひっくり返っちゃうよ」

慌てて起き上がりボートにしがみついた彩の腕に乗り込んできた悠人の腕が触れると彩はドキっとした。4人が乗っていると密着度が半端ない。でもみんなきゃあきゃあ笑って気にもしてないみたい。


 いつの間にか、部長、由紀、瑛太、春香は浜に上がってビーチボールで遊んでいる。彩は海に浮かぶボートの上で砂浜で遊ぶ4人を眺めていた。


(みんな笑顔で楽しそう。こんな仲間に出会えて良かったなぁ)


と思っていると急に身体を押されて突然海に突き落とされた。


彩は必死にもがいて海面から顔を出すと美玖が手を差し伸べてくれた。

ボートには美玖だけが乗っていた。


「彩、大丈夫?私が彩の仇をとって悠人先輩も亮先輩も海に突き落としたから」

と言うので周りを見ると


「ごめん、ごめん」と悠人。

「俺までとばっちりを食ったよ」と亮。


海にプカプカ浮んだ悠人を「もぉ、死ぬかと思ったんだから」と彩は睨みつけた。


(ユート先輩がいい人と思ったのはやっぱり気のせいだったんだ。もう、口も利かないから)


「美玖、あっち行こ」と彩は美玖と一緒に2人から遠ざかっていった。




「ユート先輩、彩に気があるんじゃないかな」と美玖。


「いやいや、だったらあんな意地悪しないでしょ」


「男の人ってそういうとこあるから、まだ子供なのよ」


「美玖って男の人に対してクールだけど好きな人いないの?」


「私?う~ん、いない事もないけど」


「えっ!いるの?」


「それがね、中学1年の時、付き合ってた人がいたのよ、1年先輩の人、その人が中学卒業してからは自然消滅してたんだけど、1ヶ月位前に偶然会って懐かしくてちょっとお茶してライン交換して連絡取りあうようになったのよ、学校が違うからたまにしか会えないけど」


「わぁ~、それで付き合っているんだ」


「付き合おうってお互い言ってないけどまぁ、いいお友達かな」


「ふ~ん、いいね、そんな人いたんだ、私にはそんな人現れそうにないなぁ」


「彩は夢見る少女だからね、王子様みたいな人がいいんでしょ?そんな人待ってても来ないよ」


「やだ、私、そういうのもう卒業したよ、前は『大和様』とか『部長』とか思ってたけど今は全然そんなんじゃないから」


「おぉ、やっと卒業できたんだね、彩も成長したね、安心したよ」


「でも彼は当分出来そうにないよ」


「そんなに焦らないでも、恋は突然やって来るかもよ。その時の為にも自分を磨いとかなきゃね、あっ!みんなが呼んでるから行こっか」


彩はいつの間にか、彼がいた美玖に驚きながら、


(美玖は入学した時から目立ってモテていたので当然だよな、それにしても中学校の時、すでに彼がいたとは)


今だ恋も未経験の彩は羨ましく思うのだった。

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