閑話二

近づく友人との再会


『瑞樹、どうされたのですか?』

『椎名! なんで! 俺はこんな事を!』


 目の前にいるのは幼い頃の友人の姿――。


『望んでいなかった……と?』


 友人は俺の真意を確かめるように目を覗き込もうとする。


『……!』


 あまりにも突然だったので俺は思わず後ずさりしてしまったが、友人の表情は何も変わらない。

 そもそも、こいつはいつも何が楽しいのかニコニコと笑顔を浮かべていた。


 しかし、それは決して「俺と一緒にいるのが楽しい」とかそういった事ではないという事を俺は知っている。


 ――まるで「笑顔が張り付いている」様にしか見えない。


 椎名はいつもニッコリとした「笑顔」を浮かべていて、それが印象的だった。


 ――最初でこそ「俺と一緒にいても笑ってくれる人」だと思っていたけれど。


 ここ最近は、それが普通ではないという事に気がついていた。しかも、俺が怒っている今でも何も変わらない異常さに俺は思わず冷や汗を流す。


『瑞樹。あなたは自分で言ったではありませんか。それがたとえ負の感情だとしても、人間の感情である事には違いないと。それを無視されるのはあまりにも悲しい事だと』


 ――言った。確かに言ったけれど!


 俺は思わず拳をグッと握り込む。


『俺はただそれが無視されるのが嫌なだけで、だからと言ってその負の感情を爆発させて復讐だなんて……』


 ――そんな事は言っていない!


『ああ、瑞樹は優しいですからね。コレはあくまで僕が独断でしただけですので、瑞樹は気にしなくていいのですよ』

『きっ、気にしなくていい……って、だからと言って。許されるはずがないだろ!』


 大きな声で訴えかける俺に対し、椎名は笑顔を浮かべたままだったが、突然俺にズイッと顔を近づける。


『なっ、なんだよ』


 突然近づけられた事に俺は思わず驚いたが、近づいてきた事により椎名の特徴的な目がよりハッキリと分かった。


『ふふふ、どうやら分かっていないようですから』

『え』

『あなたは僕に利用されたのですよ』

『……え?』

『僕ではこれだけの怪異を集められませんからね。いやぁ、あなたに出会って良かったです』


 俺から離れた椎名はいつもの笑顔に戻っていたが、友達だと思っていた椎名に利用されていた衝撃の事実を知り、俺はその場で腰を抜かした。


『残念ながら怪異のほとんどは祓われてしまいましたが、邪魔な方は葬る事は出来たので、それは良しとしましょう。それでは』


 手をついて下を向いたままの俺に、椎名は耳元でそう呟いてそのまま去って行った。


『……え』


 そんな椎名に、俺は……何も言う事が出来ず、そのまま涙を流すことしか出来なかった――。


◆  ◆   ◆   ◆   ◆


「っ! はぁ、はぁ……はぁ。痛ぇ」


 どうして突然こんな夢を突然見たのだろうか。


 ――ここ最近は、夢を見ることもなくグッスリだったのに。


 それはただ単純に忙しかっただけなのだが。


「はぁ」


 目を覚ました俺の目に写っているのは見慣れた天井……なのだが。


「……暗いな」


 どうやら電気が点いていないらしく、とりあえず総じて暗い。真っ暗というワケではないらしいが。


「あら、起きた?」

「姉貴」


 パチリと電気を点けて入って来た姉さんに、俺は思わず声をかける。


「俺、どうして寝ているんだ?」


 そう尋ねると、姉さんはしばらく流れた無言の後に「はぁ、呆れた」と言ってため息を零す。


「覚えていないの?」

「は?」

「全く、ああでも。その状態なら納得が出来たわ」

「何がだよ」


 正直、どうしてついさっきまで寝ていたのかそうなった経緯が全く分からない。


 ――今日は何かをしようと思っていたのは覚えているんだが。


 しかし、どうやら今は既に日が落ちてしまっている。それを考えると、俺は相当長い時間寝ていたのだろう。


「あんたは……まぁいいわ。とりあえず今日あった事を話すわ」


 姉さんは終始ため息が止まらなかったが、とりあえず説明をしてくれた――。


◆  ◆   ◆   ◆   ◆


「……何か言いたい事は?」

「すみませんでした」


 一通り説明を聞いた後。俺はすぐに姉さんに謝罪すると、姉さんは「如月ちゃんにも謝っておきなさいよ」と付け加えた。


「ああ、もちろん」


 そう言うと、姉さんは「ふぅ」と軽く息を吐く。


 実は俺はこの件を「何か怪しい」と思ってはいた。だからこそ、この件に如月を同行させずに一人で解決しようと思っていたのだ。


「でも、まさか」


 椎名が関わっていようとは。


「まぁ、正直ちょっと予想通りとも思っちゃったけどね」

「……どういう事だ」

「あんたも少しは不思議に思っていたでしょ? 私が帰国した理由」

「ああ、ってまさか」


 確かに今回突然姉さんが帰国して来た事には驚いた。そこから「その可能性」を考えなかったワケではなかったが……。


「そのまさかよ」


 そう言って姉さんが取り出して見せたのは一枚の写真。それはどうやら隠し撮りをしたモノの様だ。


「! 姉貴、コレって」

「ええ、だから私は帰国したの」


 その写真には、成長はしているがあの頃と変わらず笑顔で写っている椎名の姿だった――。

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