第42話 クリスマスの予定

クリスマスまであと一週間――。

 僕は、今日もキャンパスで教授の退屈な講義を聞いていた。

 黒板に残された真っ白なチョークで書かれたかくかくした特徴的な文字を、自分の文字でノートに落とし込んで、周囲の片づけを始めた。ノートをしまい、ペンケースをしまい、机の上に点々とする白と黒のマーブル模様になった消しゴムのカスを集めて席を立った。机の上に一旦置いたリュックをしっかり背負って、少しだけ出ている椅子を奥まで押し込みながら通りに出る。

 出入り口にあるごみ箱に消しカスを捨てて、ふと黒板の方に視線を動かす。向いた視線の先には、まだゆっくりと片づけをしている飛鳥の姿があった。

 ――飛鳥は今年のクリスマス、誰と過ごすのかな……

そんなことを気にしながら、僕は視線を外して独りで講義室を出た。

「ふぅ。今日も頑張った」

首に右手を置きながら、首を回してラウンジのオレンジ色の椅子に腰を下ろす。その時、机の上に置いたスマホが二回、短く振動した。

『クリスマスまであと一週間』

『私は今日も勉強頑張ってるよ!』

スマホを開くと、そんな健気なメッセージとともにテキストが写るように撮られた自撮りの写真が送られてきていた。

「お疲れ様」

「クリスマス、楽しみだね」

初期搭載されている無料のスタンプを添えて返信をすると、すぐにメッセージの隣に既読の二文字が付いて

『その前の授業もお願いします』

『日向先生』

と、あちらからは有料のかわいらしいスタンプが送り返されてきた。そのメッセージに僕は

「了解」

という簡素な無料スタンプで返事をした。

 前までは話が切れそうになれば別の話を切り出して、出来るだけ長く明里と話していたかった。それなのに今は、いかに早くやり取りを終わらせるかというところに注視してメッセージを送っている。本当に最低な彼氏だ……。

 少し寂しいメッセージ画面に真っ黒な蓋を被せて、スマホから視線を上げるとラウンジの入口の所に飛鳥を見かけた。視界に入る飛鳥は、イケメン揃いと名高いテニスサークルの中でも特にイケメンと評される同級生の――。なんとか君と話をしていた。内容は想像しかできないけど、きっと『クリスマス一緒に過ごそう』みたいな内容だろう。耳をそばだてて二人の会話を盗み聞きしようとしたけど、二人に悪いかなという自制心が働いて、僕はキャンパスを後にした。

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