第41話:キミはエッチなことばかり

「いいか御堂君。美玖は私が買い物に行かせた。もう少ししたら美玖が帰ってくる。だから、さっきみたいにちゃんと告白しろ」


 愛洲あいすさんが美玖を買い物に行かせた……

 前にもこんなことがあった気がする。デジャブか?


「なんで愛洲さんがそんなことを言うですか?」

「実は美玖から、キミとはまだ付き合ってはいないと聞いた。『恋人ごっこ』をしてるだけだと」

「そう……なんですね」


 美玖はお姉さんにホントのことを言ったんだ。


「なのにキミはエッチなことばかりしようとするからな」


 ──いやそれは濡れ衣だ。エッチなことばかり考えてるのは、美玖の方ですけど!


「してません」

「してるだろ」

「なんでそんなことわかるんですか?」

「私には遠くのことがわかる特殊能力があるのだよ」


 やっぱこの人、盗聴器仕掛けてたな。


「とにかくキミが美玖のことをどう思ってるのか知りたかったんだよ。真面目な気持ちがあるのか、単なる身体目当てなのか」


 なるほど。

 愛洲さんとしても心配なんだな。


「真面目な気持ちです」

「うん。さっきの御堂君の言葉で、ホントはキミは純粋な気持ちで美玖を好きなんだってわかった。ならばちゃんと告白して、ちゃんと付き合え」

「なるほど。お姉さんがそう言うってことは……美玖も、俺を好きと思ってくれてるってことですか?」


 愛洲さんはなぜだかニヤリと笑った。


「それは知らん」

「は?」


 どゆこと?


「美玖の気持ちは聞いてない。単にキミにちゃんとした行動をしてもらいたいだけだ」


 そ、そうなのか?

 美玖も俺を好きだと思ったのはぬか喜びだった……


「じゃあなんで俺に告白しろなんていうんですか?」

「ふむ、なんでだろね? まあ私はキミを気に入ってるからだな」

「そうなんですか?」


 それは嬉しい。


「うん。筋肉がイケてるからな」


 結局筋肉ですか……


「冗談だよ御堂君。キミは以前から美玖を大切に想う気持ちもあるって思ってるんだよね。案外誠実そうだし」


 案外って言わないでくれ。


「でも愛洲さんは、俺とはここで一回会っただけですよね。なぜわかるんですか?」

「ふぐぅっ……いや、だからさっきも言ったよね。私には遠くのことがわかる特殊能力があるのだよ」


 それ、盗聴器という名の特殊能力ですよね?


 でも……俺の言動を知った上でそう言ってくれるなら、まあ嬉しくもある。


「まあとにかくだ御堂君。本気で好きなら、美玖がどう思ってるかなんて気にしないで男らしくイケ!」

「男らしく……ですか」

「そうだ。男ならしっかりと自分の気持ちを伝えるんだ。それとも何か? その筋肉は飾り物か? 股間に付いてるモノは飾り物か?」


 愛洲さん、せっかくいいこと言ってるのに、最後の方で台無しですよ。


 でもまあ愛洲さんの言うとおりだ。

 相手が受け入れてくれるかばかり気にするんじゃなくて、自分の気持ちをしっかり伝えることが大事だな。


「わかりました。でも恥ずかしいから絶対に覗かないでくださいよ」

「そんなことしないから安心しろ。私ほど信用できる女はいない」


 あなただからこそ、めちゃくちゃ不安なのですよ。

 俺は心の中で、そう呟いた。



***


「このままここで、美玖が帰って来るのを待ちなさい」


 愛洲さんはそう言い残して部屋から出て行った。

 美玖が戻るのを、まだかまだかとじっと待つ。

 ドキドキが止まらない。


 何度ドアに目を向けただろうか。

 やがてガチャリと音を立ててドアが開いた。


 この前一緒に買った可愛い服装だ。

 髪型もふわっとしてるし、メガネ以外はこの前のデート体験のまま。


 すごく可愛いくて、さらにドキドキが大きくなった。


「ふぇっ!? みみみ御堂君っ! なんでここにっ!?」


 俺を見た途端、美玖は大きくのけぞってひっくり返りそうになった。


「あ、おかえり美玖みく

「みみみ美玖っ!?」


 ──あ、しまった。


 さっき愛洲さんとのやり取りで何度も名前呼びして、つい癖になってた。


「あ、ごめん堅田かただ

「美玖でいいです! いえ、美玖がいいです! いやもう美玖以外考えられません!」


 なんかすっごく名前推ししてる。


「だって私と翔也君は恋人……ごっこですからね」

「あ、そっか」


 美玖も俺を名前呼びしてくれた。

 嬉しい。


 美玖は室内に入って後ろ手にドアをしめると、改めて俺を見た。


「で、なぜ御堂君がここにいるのでしょうか?」

「えっと……ちょっと美玖に話があって来たんだよ。お姉さんが部屋に通してくれた」

「あ、姉が……?」

「うん。突然来てごめん」

「いえ、全然大丈夫です」

「ところで体調は大丈夫? 風邪ひいたりしてないか?」

「はい、いたって快調ですよ」


 美玖は可愛くガッツポーズした。

 やっぱ風邪は愛洲さんの口から出まかせだったか。


「で、話って何でしょう?」

「えっと……あの……大事な話なんだ」

「はい」


 一度告白したんだから、もう一度するのは簡単だ。

 そう思ってたけど、なかなか言葉が出ない。


 念のためにドアをチラッと見た。

 しっかりと閉まってる。

 どうやら愛洲さんは、覗いてはいないようだ。


「その……俺と美玖って、『恋人ごっこ』の仲だよな」

「はい」


 その恋人ごっこを卒業して、本物の恋人同士になりたい。それが俺の願い。


「そのさ……恋人ごっこはもうやめにして……」

「あ……そういうお話なんですね……」


 あれ?

 美玖の顔つきがみるみる曇っていく。

 今にも泣き出しそうだ。


「わかりました。翔也く……いえ、御堂君がそう言うならそうしましょう。恋人ごっこ関係は、コレで解消ということで」

「いや、ちょっと待って! そんな悲しそうな顔しないで! 俺が言いたいのはそういうことじゃない!」

「……え? そ、そうなんですか?」


 美玖は相変わらず思い込みが激しい。

 でも今のは、確かに誤解しそうな言い方だった。反省。


「うん」

「じゃあ、どういうことなんでしょう?」


 まだ美玖は不安げな顔してる。


「あのさ……えっと……」


 よし、言うんだ!

 一世一代の告白をするんだ!

(二回目の一世一代だけどな……)


「俺は……もう『ごっこ』をやめて、美玖と本物の、こみびと関係になりたい!」

「えっと……こみびと関係って、何か新しいプレイですか?」

「うおおぅ、しまったぁ!」


 ここぞで噛んでしまった!

 死にたい……


 俺が後悔に頭を抱えて、ぐわんぐわん上半身を揺らしていたら、美玖が背中に優しく手を添えてくれた。


「落ち着いて。落ち着いてください翔也君。ゆっくりでいいですよ」

 

 背中に美玖の手の温かさが伝わる。

 告白する相手の女の子に励まされるなんて、情け無い男だ。


 次こそはちゃんと言おう。

 俺は大きく深呼吸をした。


「も、もう一度やり直していいか?」

「はい、もちろん」


 よし、やるぞ。


「美玖……俺はもう『ごっこ』をやめて、美玖と本物の恋人関係になりたい。だって俺……だって俺は……」


 美玖もドキドキしてる様子で、少し潤んだ瞳で俺の顔をじっと見つめてる。


「俺は美玖を本気で好きだからぁっっ!!」

「翔也……くん……」


 突然美玖の両目から、涙がぶわっと溢れ出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る