クラスの女子がべったり甘々に迫ってくるんだけど、俺には迫られたら困る事情があるから全力で拒否します ~みんなはオタク女子だと思っているけど、実はめちゃくちゃ美少女でした
第37話:真面目な女子がえっちなこと考えたらダメなの?
第37話:真面目な女子がえっちなこと考えたらダメなの?
彼女は両手で制服のネクタイをしゅるっと外した。
ブラウスの胸元がはだけて、日焼けした肌が目に入る。
品川さんのムワッとした扇情的な香りが鼻に届いた。すごくいい香り。頭がバカになりそう。
身体中が熱くなる。
品川さんはネクタイを外して、いったい何をするつもりだろう……?
もしかして……イイコト?
心臓の鼓動が跳ねる。
「ねえ御堂君……」
「な……なに?」
「両手を前に出して」
「え? なんで?」
「これで縛るんだよ。自由を拘束されて虐められるって興奮するでしょ?」
両手に持ったネクタイを目の前で見せて、品川さんは妖しく微笑んだ。
頭がボーッとして何も考えられないけど、確かにそれは気持ち良さそうだ……
俺は品川さんが言うとおり、両手を目の前に出す。
「御堂君って、私のこと好きなんだよね?」
「え……?」
「以前からキミが私をチラチラ見てたことを知ってるよ」
そうだ。俺は品川さんを好きだったんだ。
とっても美人で俺に好意を寄せてくれる品川さんがこう言ってるんだから、断わる理由はないよな。
ちゃんと言うことを聞いたら、品川さんは俺を好きでいてくれる。
俺が好きな女の子も品川さんなんだから、これってすごく幸せなこと……
「うん」
品川さんが嬉しそうに微笑みながら、ネクタイを俺の両手首にだらんと掛けた。
その時倉庫の入り口でカタンと音がしたような気がした。でも頭がボーッとしてるからよくわからない。気のせいかもしれない。
そんなことをぼんやりと考えてたら、頭の中で別の女の子の声が聞こえた。
『御堂君!』
これは実際に聞こえてる声じゃない。
俺の記憶の中の声だ。
『御堂君! 御堂君!』
俺を慕ってくれる女の子。
俺といると楽しそうにしてくれる女の子。
これは……堅田の声だ。
俺が好きな女の子って……ホントに品川さんだったっけ?
確かに以前はそうだった。
好きの一歩手前の憧れの人。
でもそれは自分には手が届かないってわかってたから気持ちをセーブしてただけで、もしも両想いになれるなら、それはもう完全に好きになっていた。
だけど今は?
あれ?
俺が好きなのは……品川さんじゃないよな?
じゃあ俺って堅田のことが好きなのか?
いや、それも違うはずだ。
だって堅田とはあくまで『恋人ごっこ』という関係だし、しかも彼女には他に好きな男がいる。
その点品川さんは俺を好きだと言ってくれた。
だったらやっぱり俺が好きなのは品川さん?
ああ、頭がこんがらがって、もうなにがなにやらわからない。
「ねえ御堂君。難しいこと、何も考える必要はないよ。私と、イイコトしよ?」
品川さんはネクタイを俺の手首にぐるぐると巻き始める。
両手首が締まる感覚。
──ん?
何かが引っかかる。
頭はぼんやりしてるけど、ちゃんと考えるんだ。
相手が自分を好いてくれるから自分も相手を好き。
相手は他の人が好きだから、自分は相手を好きにならない。
理屈としてはそれも間違ってはいない。
だけど何かが違う。
そうだ。考えるんじゃなくて感じるんだ。
もしも明日から会えなくなるとしたら、俺はどう感じる?
品川さんと会えなくなるとしたら。
堅田と会えなくなるとしたら。
品川さんは……会えなくなると残念ではある。でも今までもそんなに親しかったわけじゃない。
堅田は……
アイツと会えなくなったことを想像した瞬間、胸の奥がぎゅーっと苦しくなった。
嫌だ。堅田と会えなくなるなんて嫌だ。
嫌だ……嫌だ、嫌だ。
そっか。俺は……やっぱり堅田が好きなんだ。
今それがはっきりとわかった。
俺は両手を挙げて品川さんから一歩下がる。
そして慌ててネクタイを両手首からほどいた。
やばかった。
俺の脳に直接語りかけるような品川さんの囁きと手首のネクタイで、身も心も品川さんに縛られてしまうとこだった。
「どうしたのかな御堂君?」
「ごめん品川さん。俺……実は好きな人がいて」
「ふぅーん……」
品川さんは驚く風でもなく、極めて冷静いに俺の瞳を射抜くように見つめている。
「
「あ……うん」
堅田本人に言う前に、品川さんにカミングアウトしてしまった。
でもまあこれで品川さんもドSな攻撃はやめてくれるだろう。
いい加減やめてもらわないと、俺も身体が持たない。
だって品川さんの攻撃は、なんだかんだ言って凄く気持ちいいんだから……
「……いいよ別に」
「へ?」
品川さんは、今なんて言った?
いいよ別に……って?
いや、いくらなんでも聞き間違い……だよな?
「好きな人がいるのに他の女に溺れちゃう。……背徳感でゾクゾクしない? 葛藤に苦しむ、そんな御堂君を想像するだけで興奮しちゃう……私に溺れちゃえ」
品川さんはニコリと笑いながら、そんな背徳的なセリフを口にした。
なんてことを言うんだ。
ホントに溺れてしまいそうになる。
「ちょっと待って品川さん。キミって真面目な人だと思ってたんたけど……」
「ねぇ御堂君。真面目な女子がえっちなこと考えたらダメなの?」
──いえ、ダメじゃありません。
思わず反射的に、心の中で大きく同意してしまった。
なに考えてんだよ俺は。
真面目な女の子がえっちなことを考えるのはダメじゃないと思う。
だけど品川さんの言う通りにしたら、俺自身がダメになってしまう。それは間違いない。
そう、これは洗脳だ。
乗っかれば、とても幸せになれそうな気がする。
だけどそうなれば、自分を見失ってしまう。
それはダメだ。周りの大切な人を不幸にしてしまう。
「そんなことを言ってるんじゃないよ品川さん。君はとても魅力的な女の子だ。例ええっちなことを考えたとしてもね。だけど俺には、やっぱり守りたい気持ちがある」
品川さんは無言で俺を見つめる。
そしてとても残念そうな表情を浮かべた。
「そっか、わかった。今日の所は許してあげる。でもいずれこっちの世界にね……ふふ」
「じゃあまた。今日は手伝ってくれてありがとう」
これ以上品川さんと一緒にいたら、彼女に狂わされてしまうような気がして、急いで倉庫を出て、早足で先に帰った。
堅田には他に好きな人がいるけど、これでよかったんだ。
俺は自分にそう言い聞かせる。
ところで──堅田は俺との恋人ごっこを、いつまで続けるつもりなんだろう。
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【読者の皆様へ】
本作品の旧題は『真面目女子がえっちなこと考えたらダメなの? ~俺には迫られたら困る事情があるんだが?』です。
実は元々は、今話がタイトル回収回でした。
このセリフは品川さんのものだったのです。
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