第9話:そんなこと言われたら恥ずかしいです

 翌日の月曜日、昼休みの教室。

 各々がグループや単独ソロで食事中。


 堅田かただは一人で、俺は親友であるイケメンリア充の谷町たにまち 遊助ゆうすけと二人で弁当を食べてる。


 なんということのない日常。

 もちろん堅田とは特に会話を交わすこともなく、今までどおりの関係を装う。


「なあ翔也しょうや

「ん? なに?」

「やっぱサッカー部入れよ」

「やだよ。何度も言ってるけどそんな気ないし。もう10月だし今さらなんて可能性はゼロだよ」

「そっか……残念だ」


 遊助ゆうすけは一年生ながらサッカー部のエースでイケメン。さらに優しくて女子から大人気。

 この世界の製作者がキャラ設定を間違えたんじゃないかってくらいのチート男子だ。

 ただし今のところ彼女はいない


 俺と遊助は小学生のサッカークラブから一緒にプレーした仲なんだけど、俺の方は中学の時にサッカーを辞めてしまった。

 そして高校でもサッカー部には入らずに、帰宅部として過ごしている。


 こいつと仲良くしてることと、ツッコミ会話術のおかげで、俺もリア充グループだと周りから勘違いされてる。

 実際には俺なんてコミュ障のニセリア充なんだけど。

 悪かったな、ほっとけ。(誰にキレてるんだ俺は?)


 堅田は一人で静かに弁当を食べている。

 気になって時々チラッと見てしまう。

 そして気づいた。

 制服のブレザー越しでもわかるくらい、おっp……いや胸が豊かなことに。


 今まで気づかなかったのが不思議だ。

 それだけ彼女はモブな存在だということか。


 俺たちのすぐ近くの男子グループの鈴木と佐藤が、揃って堅田の方を見てるのに気づいた。ヤツら、さっきからなんか下ネタを話してる。


「なあ佐藤。堅田って胸でっけぇよな」

「おう、鈴木。俺も思ってた。揉んでみてぇ」


 おいこら、声が大きいぞ。

 本人に聞こえてるんじゃないかとヒヤヒヤする。事実彼女は素知らぬフリで食事をしてるけど、肩が震えてるように見える。


 ──と同時に、なんかすっごく嫌な気分になる。


 自分の彼女──あくまで『ごっこ』のはずなのに──がはずかしめられてるような気分。


 このまま放っておけない。

 よし、普段のノリでツッコミを入れてやる。


 セリフは『お前らエロのダダ漏れかよっ!』。

 うん、コレで決まりだ。


「おま……」

「こらぁ、そこの男子! 失礼なこと言っちゃダメでしょ!」


 ──え?


 俺のセリフに被せるように女子の明るい声が響き渡った。

 

 声の主は品川しながわ 咲羽さきはさんだった。

 そう。──俺の憧れの人。

 ただし彼氏持ち。しかもその彼氏は一学年上のイケメンサッカー部キャプテンだから、俺なんか歴戦の勇者に対するスライムくらい相手にならない。


 明るい茶髪のミドルヘアの美少女。

 天真爛漫で明るく、誰からも好かれる性格もあって男子からも女子からもクラスの一番人気。エロなこととはまったく無縁な感じの存在だ。


 それにしても、彼氏持ちにも関わらず男子からも人気があるのが凄い。

 そんな彼女にたしなめられたら、彼らも言い返すことができない。


「あ、いや、えっと……」


 堅田が真っ赤になって震えてる。

 よっぽど恥ずかしかったんだろう。かわいそうに。


「ほらぁ。堅田さんが泣きそうになってるでしょ! ダメだよ男子。女の子はエッチな話は苦手なんだからっ」

「あ、ごめん……」

「ほらっ、ちゃんと堅田さんに向いて謝る! 佐藤君もだよっ!」

「ごめん、堅田さん」

「ごめんなさい、もう二度とあんなこと言いません」


 やっぱ品川さんってすげぇ。

 にこやかに明るく男子を叱ってるせいで、全然嫌味がない。

 男子二人も本当に反省した感じで謝ってる。


 堅田もホッとした感じだし、ホント良かった。


「堅田さん!」

「は、はいっ?」


 突然品川さんに名前を呼ばれて、堅田は声が裏返った。

 カーストトップの美少女にいきなり声をかけられたら、コミュ障なら誰でもそうなる。

 気にすんな堅田。


「大丈夫?」

「は、はい。あ、ありがと……」

「ほーんと、男子ってエッチで困るよね。女の子はエッチなのが一番嫌いなのにね」

「そ……そうですね」


 いや……昨日の堅田はすごくエロかった。

 それを思い返すと、今の真面目で清楚な姿とのギャップがかえって刺激的に感じて、心臓が高鳴る。


 向かいの席でことの成り行きを見守ってた遊助がポツリと呟いた。


「アイツらバカなこと言ってたよな。堅田さんみたいなものすごく真面目な子に、そんなエロいこと言ったらかわいそうだよ。エッチな話なんか一番苦手なタイプだもんな」


 いや、だから。

 昨日の堅田はものすごくエロかったんだって!

 表では真面目な顏をしてるけど、裏の顔は結構エッチなんだぞ!


 そう言いたいのを、もちろん心の内にグッと押さえ込んで、


「ああ、そうだな」


 俺は冷静にそう答えた。


 その時、品川さんがチラッとこちらを見た……ような気がした。

 なんだろ?


 ──あ、そっか。


 俺じゃなくて、一緒にいる遊助を見たんだよな。

 遊助はイケメンだもん。

 品川さんは彼氏いるけど、それでもやっぱイケメンには見とれることあるだろし。


 いかんいかん。品川さんは憧れの人だから、ちょっと自分の方に視線を向けられるだけで、俺を見てるって勘違いするなんて。


 自意識過剰すぎるぞ俺。

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