6

 ひたすら愚痴り続けていた愛子だったが、酒の酔いも回ってか、徐々に呂律が回らなくなっていた。


「ほいでさ・・飯田の馬鹿に言ってやったんたお」


 その話しはもう聞いた。

 ペシペシと割り箸をテーブルに叩き、リズムを取りながら愚痴り続ける愛子。

 こんなくだらない話しを聞いているフリして相槌を打つ自分。

 こんな時、内心くだらない話しの中で、僕も僕でくだらない事を考えている。

 例えば、どうして小休憩の事を昔の人は一服と言うんだろうとか考えていた。


 一通り愛子様が喋った後、頃合いを見計らって僕は告げた。


「お、おい・・愛子大丈夫か?」


「らいじょーぶ、だいじょーぶぅ」


 言いながら手に持った割り箸をパタパタと振る愛子。


「くしゅん」


 くしゃみと一緒に鼻水を出す愛子。

 酒に酔った愛子は恥ずかしくないだろうが、僕は恥ずかしくなった。

 ティッシュを渡し、僕が羽織っているコートを肩に掛けようとした。


「寒くない!!」


 叫ばないでくれ。


「そっか」と小さく返し、席に戻ったが暫くして、


「やっぱ寒い!」と、どくれた顔で愛子が言った。


 あぁーウザい。

 事故って死んで欲しいわぁ。

 

 

 周りの視線も気になってきたので「もう帰ろうか」と尋ねた。


「んー、わがったぁ」


 不満そうに愛子は言ったがホッとした。

 駄々をこねられなくて良かったと安堵したのも束の間ーー・・・・


「愛子?」


 返事が無い。


 眠っていた。

 何度か声を掛けるも小さく「んん」とか言って起きる気配はない。


 仕方なくお勘定を済ませ、愛子を肩車の形で店を出た。

 周囲の客からの視線が恥ずかしかった。

 とうぶんは手塚屋には寄れないな。


 しかし重いな。

 デブではないが、体を鍛えている訳ではない僕にとっては拷問でしかない。


 何かの罰ゲームなんじゃないか?


 少し歩いた先のタクシー乗り場にて愛子を乗せ、運転手に愛子の自宅付近を伝えた。

 愛子は家族と一軒家に住んでいて、場所もここから2キロ程度だが、昨日よりも酔っていて危ないのでタクシーを頼った。


「おやしゅみー」


「起きたか」


 タクシーのドアが閉まり、窓越しに愛子は手を振っていた。

 小さく僕も振り返した。

 なんだかんだで、2日連続で彼女に振り回されている。


 明日は土曜日で仕事は休み。

 だが、高校の友達との飲み会がある。

 場所は違えど3日続けての居酒屋だ。

 その翌日の日曜日には、憂鬱な結婚式の打ち合わせである。

 実に多忙なスケジュールに悲観的になる。


 帰り道をとぼとぼと歩きながら絶望していた。


 寒い。眠い。面倒くさい。


 断れない性格だからとはいえ、こんなにも毎日が面白く感じないとは・・・


 明日の飲み会も断りたい。

 だけど僕の結婚の前祝いというテイになっている為に不参加は無理だ。

 前祝いというのも口実で、言い出しっぺの牟呂ムロが、ただ皆で集まって飲みたいだけなんだろうな。


 僕を含む野郎六人のむさ苦しい飲み会。

 とりあえず二次会とかなく、出来れば早めにお開きとなって欲しいなぁ。


「はぁ~」


 最近、毎日のようにため息を吐いている。

 気分が滅入る事ばかりあるからだろう。

 普通に考えれば、久しぶりに旧友との飲み会にテンションも上がるところなのだろうが一切上がらない。


 何にそんな不満を抱えているのか?


 日常が退屈で、仕事が苦痛で、愛子と会うのも億劫で、こんな生活望んでない。


「はぁ」


 また、ため息がでた。

 精神的にまいっているのだろう。

 完全に癖になっているな。



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