エタイノシレナイ

双葉 琥珀

邂逅

1

 12月20日、PM22:30


 職場付近にある安居酒屋。


「だから流樹リュウキが部長に直接言ったらいーのよ!」


「そんな事・・言える訳無いだろ」


「なっさけないなぁ~」


 彼女の愛子アイコと二人、仕事終わりにここへ来た。

 正直今すぐ帰って早く布団に入りたい。


 愛子とは同じ職場で知り合って、向こうから告ってきた。特に何も思って無かったけど、なんとなくで付き合ってもう五年目になる。


 人目を気にせず大声で笑う愛子の姿に嫌悪する。

 

 僕と愛子は来月、結婚する事になる。


 美人でもブスでもない愛子と結婚。

 性格も大雑把で、短気な愛子と結婚。


 中小企業とはいえ、僕と愛子の給与なら決して貧しい暮らしにはならない。

 酒やギャンブルも全くと言っていいほどやらないので、なし崩しに貯金は貯まっていき今年で28歳になる。


「そろそろ帰ろっか?」


 頃合いを計って僕は言った。


「りょ~」


 大きく手を挙げ愛子は言った。

 大分酔ってらっしゃる。


 帰り道、手を繋いでいる訳だが、ブンブンと手を振るのは止めて欲しい。


「今日流樹の家行っていー?」


「あぁ、うん・・どうだろうか」


「やっぱ止めとく」


 ムスリとした口調で愛子は言った。

 酔っていても、曖昧な返しに勘づいたのだろう。


 こんな時は具合が悪い素振りを見せて、その場を逃げるのがいい。


「頭・・痛いし、なんか寒気するから」


「マジ?大丈夫?」


「帰って安静にするよ」


 嘘だけど、苦笑混じりに僕は返した。

 

「日曜日は式場の打ち合わせだよ?・・当然来れるよね?」


 愛子の言った事にため息が出そうになった。

 僕の体調を心配している訳では無いと分かったからだ。

 まぁ・・嘘付いた僕もアレだけど悲しくなる。

 

「なんとか治す・・よ」


「はぁ?何それ!?」


「いや・・しょうがなくね?」


「流樹にとって結婚なんかどうでもいいんでしょ!?」


「何でそうなるんだよ!」


「だったら・・どうしてそんな事言えるのよ!?」


「仕方ないだろ!飲んでる途中辺りから、なんか、その、あれだ!・・熱っぽいなぁってなったんだから!」


「面倒だから・・嘘なんでしょ!!」


「違うわ!」


 お互いが声を張り上げる。


「絶対嘘よ!」


「・・んな訳ないだろ!?」


 こんなくだらないやり取りをしている自分が惨めだ。


「もういい、知らん!!」


 手を振りほどき愛子は早足で歩き出した。


「危ないぞっ?」


 千鳥足気味な愛子に言ったが、正直介抱する気にはなれない。


 無視して歩く愛子に、「頭痛いから・・じゃあな!」と告げた。

 かまって欲しいのだろうと分かってはいるが、相手をするのが面倒だ。

 夜道を帰る愛子の背中を見て目を細める。

 ふらふらと危なげであるが、向かう気にはなれない。


「・・・疲れる」


 呟き、僕は家へ帰る。

 






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