第47話 王都へ

 レストランの朝は早い。ロランは明日から三日間ほど休む旨を伝え忘れた事を思い出し、まだ暗いうちからレストランに顔を出した。


「あ、ロラン!」

「え?」


 ロランの顔を見た先輩が駆け寄ってきた。


「聞いてくれよ! 俺あの後どうしても納得いかなくて店に乗り込んだんだけどさ」

「え?」

「それがよ、何か知らないけど顔を倍に腫らしたボーイ達に謝られてよ。もしかしてお前なんかした?」

「いや……僕は何も? 同じ被害にあった誰かじゃ?」

「なんだ、お前じゃないのか」


 ロランは数時間前何があったかすっかり忘れていた。慣れない酒を飲み大暴れまでしたのだ。覚えているわけもない。


「で? お前今日仕込みだっけ?」

「いえ、その……ちょっと休暇をいただきたくて」

「は? も、もしかして昨日の飲み会で嫌になったか?」

「違いますよ。ちょっとマリーベル商会の会長と王都に行かなきゃならなくて」

「はぁっ!? あのバカでかい商会の会長と!?」

「はい。なのでオーナーに三日間休むと伝えていただければ……」

「あ、ああ。わかった。オーナーもあの商会との約束があるなら無下にはしないはずだ。何をするかわからんが気をつけてな?」

「はいっ! ありがとうございますっ! では急ぐのでまた!」

「お、おぉ」


 ロランは急ぎマリーベル商会前に向かう。商会前にはすでに馬車が待機していた。


「きたわね、もう行け……ってちょっとお酒臭いわ」

「す、すいません。昨夜歓迎会でして」

「あらそうだったのね。なら移動中は寝てても良いわよ? 一応護衛も付けたし」

「すみません」

「気にしないで。無理言ってるのはこちらだもの」


 そうして馬車は日の出前にラス・ベガースを出発した。


「あの、エリシアさん。護衛はどこに?」

「御者よ。二人いるでしょ? どっちも腕利きの冒険者よ」

「冒険者……」


 ロランは親の事もあってか、あまり冒険者に良いイメージはなかった。


「どうかした?」

「いえ……。しばらく眠ります。もし何かあったら遠慮なく起こして下さい」

「ええ」


 ロランは眠りながらも警戒は解かない。一日の移動とはいえ、この道はギャンブル都市から王都へと繋がる道だ。加えてこの豪華な馬車、金を持っていると自ら宣言しているようなものだ。


 出発から半日が過ぎ空が暗くなった頃、事件は起きた。


「すいません。盗賊が現れたので馬車をとめます」

「ええ。急いでね?」

「はい」


 御者の二人が馬車をとめ、馬車の前後に立つ。すると林の中から盗賊がぞろぞろと顔を出してきた。


「へっへっへ。俺達の事は見たらわかるな? 金目のモン置いていきな」

「断る!」


 そう言い、冒険者は腰に下げていた剣を抜いた。


「そうかい。勇ましいところ悪いがよ、これで全員じゃねぇんだわ」

「なに?」


 冒険者が剣を抜くと林の中からさらに盗賊が出てきた。


「な、なんて数だ! おいっ、後ろは何人いる!」

「二十だ! そっちは!」

「こっちは三十だ!」


 合わせて五十人の盗賊が馬車を取り囲んでいく。


「こんなに出るなんて聞いてないぞ!?」

「ハッハー! 野郎共……殺れ」

「「「「ヒャッハー!!」」」」

「くっ!」


 冒険者に向かい一斉に盗賊が襲い掛かる。冒険者は当然応戦するかと思いきや、敵を掻い潜りながら林の中へと逃亡していった。


「や、やってられっか! 悪いが自分の命の方が大事だからなっ!」

「お、俺達は関係ねぇからなっ!」


 盗賊達は林の中へと消えた冒険者二人を指差し笑った。


「ひゃははははっ! なんだあいつら! くそだせぇな!」

「見たかよあのへっぴり腰よぉ~」

「どんだけ強いか知らねぇがこの数相手にできると思ってたんか?」

「よ~し、じゃあ中身の確認と行こうぜ。おい、誰か荷台を漁れ」

「へいっ!」


 頭の命令で盗賊が一人馬車の荷台へと近付く。馬は首を落とされすでに地面にふせっていた。


「あれ?」

「どうした?」


 荷台に近付こうとした盗賊が荷台から離れた場所でおかしな動きを見せた。


「なにしてんだ、早くしろ」

「な、なんか壁みたいなもんがあるんっす! これ以上近付けないっす」

「はぁ? おい、誰かあのグズと代われ」

「へいっ!」


 それから何人かが荷台に近付こうとするが、誰一人荷台まで到達できなかった。


「何やってんだてめぇら!! 退けっ!!」


 しびれを切らした盗賊の頭が前に出る。そして手下達がいう見えない壁を確かめた。


「……クソがっ、絶対防御結界か!」

「絶対防御結界っすか?」

「ああ。こいつはでかい戦で使われるような結界だ。どうやっても解除不可能なな」

「ど、どうしますか?」


 盗賊の頭は馬車に向かい叫んだ。


「おいっ、中にいるビビり野郎っ! 結界に守られてなきゃなぁんにもできねぇのか! おい、お前らも煽れ」

「なるほど。入れないなら出せば良いんっすね!」


 それから馬車に向かい罵詈雑言が飛び交った。馬車の中ではエリシアがプルプルと震えていた。


「な、何故にこの私があのような下劣な者達に罵られなければならないのですかっ! 逃げた冒険者めぇぇ……っ、絶対に許しませんわっ!!」

「……ん、ふぁぁ」

「ロランさんっ!」


 ようやく起きたロランはすぐに状況を理解した。


「囲まれてますね。冒険者達は?」

「とっくに逃げたわ! それより……奴ら五十人はいるわ。私達も何とか逃げないと」

「たった五十人でしょう? しかも軽くかけた結界すら破れないようですし」

「え? あ、ロラン!?」


 ロランは席から立ち上がり扉に向かう。


「ちょっと捕まえてきます。ここで待ってて下さい」

「つ、捕まえる?」


 その後、エリシアはロランの力を目の当たりにするのだった。

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