第33話 残り二人

 ベッドを落としたダニエルはマライアに詰め寄った。


「マライアさん、これは結婚前の擦り合わせでは?」

「そんなわけないでしょ。なんで私のロランをあの愚物の娘にあげなきゃならないのよ。そんな事よりもっと大変な事になってるのよ!」


 そこで呼び鈴が鳴り、バイアラン帝国皇帝となったグレイが姿を見せた。


「来たぜ~。大事な話ってなによ?」

「「「グレイ!?」」」

「おん?」


 これで神が力を与えた六人が一同に会した。そして改めて二人も交えて厄災について話す。


「おいおい、マジかよ。五年後っていったらすぐじゃねぇか」

「な、なんと……! 私に隠された力があったとは……!」


 マライアが二人に向け口を開く。


「グレイ、バイアランの方はあなたがいなくても大丈夫そう?」

「んぁ? おぉ、妹のクリスが張り切っててよ。俺は毎日ハンコ押すだけの仕事しかしちゃいねぇよ」

「……飾りじゃないの」

「俺は細かい政治とか嫌いなんだよ」

「はぁぁ。では、イリア様?」


 マライアは呆れた様子で溜め息を吐き、次はイリアに話し掛けた。


「なんだ?」

「イリア様にも厄災に向け鍛練して欲しいのですが」

「それは構わない。だが……私は自分でいうのも何だが弱いぞ」

「それは大丈夫です。ある程度まではロランについてレベルを上げてもらいますから」

「二人きりでか!?」

「いえ、回復役にセレナもつけます」

「……そうか」


 目に見えてがっかりした様子を浮かべるイリアだった。


「そしてアレン、ジェード。あなた達にはすぐにでも東の果てにある島国に飛んでもらいたいのだけれど」

「クルル・ヤガミ探しか。本当にそこにいるのか?」

「わからないわ。ジェードの知識しかあてにならないし……、そもそもどんな人かもわからない。最後の一人についてはわからないことだらけなのよ」

「無駄足になる予感しかしないのだが……」


 そこでアレンは考えた。


「なんかこう……対象を呼び出す方法はないのだろうか?」

「呼び出す?」

「ああ。できれば名前だけでここに呼び出すギフトが望ましいな」

「そんな都合の良いギフトなんてあるわけないじゃないの」


 そこに元気な声が響いた。


「ただいま~! お兄ちゃんお兄ちゃんっ!」

「リリー? それに父さんと母さんも……? どうしたの?」


 その問い掛けに母親が答えた。


「あなた、妹の誕生日忘れたの? 今日はリリーが儀式をする日だったのよ」

「あっ! ご、ごめんっ。忙しくて忘れてたっ!」

「えぇ~っ! お兄ちゃん酷いっ!」

「ごめんって、リリー」


 ぽかぽかと叩いてくるリリーをなだめつつ、ロランはリリーにどんなギフトを貰ったのか尋ねた。


「知りたい?」

「うん」

「じゃあ何かプレゼントくれる?」

「プレゼント? 別に構わないけど」

「じゃあ教えてあげるね~。私がもらったギフトは~……」


 ロランはドキドキしながら溜めるリリーの言葉を待つ。


「私のもらったギフトは【指名手配】ですっ」

「……な、なにそれ?」

「んとね~……この世界のどこに誰がいるか全部わかるんだって! でも名前知らなきゃ使えないの……。私の知り合いって全部この町にいるし~……。あ、もう一つはね~──」

「「「「「それだっ!!」」」」」

「ひゃんっ!? な、ななななにっ!?」


 ロランはリリーの肩を抱き尋ねた。


「頼むリリー! リリーの力で人を探して欲しいんだっ!」

「え? ええ?」

「頼むよリリー。後で何でも買ってあげるからさ」

「何でも? じゃあ……新作ワンピとか……」

「店ごと買ってあげてもいいから頼むよっ!」

「そんなにいらないよ!?」


 そしてロランはリリーに探し人の名前を伝えた。


「クルル・ヤガミだね。じゃあ今から探すよ~」


 リリーはギフトを使った。リリーの前に詳細な世界地図が現れる。


「凄いわね……。こんな正確な地図は初めて見たわ……」

「今ある世界地図と若干違いますね。これを模写しただけで一財産築けるのでは……」


 マライアとダニエルは地図に関心を向けていた。


「指名手配! クルル・ヤガミ!」


 リリーがそう言うと地図上に赤い光が点滅し始めた。


「あ、出たっス!」

「ここにいるのか?」

「マライアさん、ここどこかわかります?」


 マライアは地図を見ながら言った。


「隣の大陸ね。確かここは……ちょっと拡大できる?」

「はいですっ」


 どうやら地図は細部まで確認できるようだ。その拡大された場所を見てダニエルが呟く。


「ここは闘技場のある都市【ラス・ベガース】ですな」

「ああ、やっぱり……。ギャンブル都市じゃないの。世界中のあらゆるギャンブルが集まっている都市ね」

「な、なんっスかその夢のような町はっ!?」


 ジェードの目が輝いている。


「ここなら近いわね。クルル・ヤガミがどんな人物かもわからないし、ここはロランに行ってもらおうかしら」

「僕ですか?」

「そ。リリーちゃんと二人で行ってきなさい」

「え!? リリーと!?」

「リリーちゃんのギフトは人を探すのに最適よ。ラス・ベガースはかなり広いし、治安も悪いわ。ジェードは仕事放棄して遊びそうだし」

「酷いっス!?」


 この提案にリリーは大層喜んだ。


「お兄ちゃんと旅行! 行くっ!」

「人探しで旅行じゃな……」

「良いじゃない。二人ともあまり一緒に居れなかったでしょ? この機会に妹孝行してあげたら?」

「妹孝行って」


 チラリとリリーを横目で見るとジェード以上に期待で瞳を輝かせていた。


「わかりました。じゃあリリー、僕とクルル・ヤガミを探しに行こうか」

「やったぁ~! 旅行だ旅行~! 楽しみ~!」


 そして翌朝、ロランはリリーと並び門の前でマライアに挨拶をする。


「マライアさん、行ってきます」

「気をつけてね。見つけたらすぐに帰ってくるのよ? やることは沢山あるんだからね?」

「はい。できるだけ急ぎます」

「ええ。じゃあ気をつけてね」

「はいっ!」


 ロランはリリーを背負いバンドで固定する。そして空へと浮かび上がった。


「わわっ、空飛んでる!?」

「リリー、ナビゲート頼むよ」

「う、うんっ! あっちの方角だよっ」

「わかった。それっ!」

「ひにゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 ロランは凄まじい速度で北東へと向かうのだった。

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