第31話 戦後のロランたち

 戦から半年後、ロラン達は再びマライアの屋敷で執事として働きつつ、ダンジョンに通い続けていた。半年休まず通い続けていたアレンとジェードは半年前のロランに並ぶ強さを手に入れていたが、セレナの成長だけが今一つ伸びていない。


「魔物が強くて倒せない?」

「うん。聖なる刃が効かなくなってきてるのよ」

「う~ん……。セレナ、今のレベルは?」

「350かな」


 普通に考えたら有り得ないレベルだ。この世界ではレベル100もあればかなり強い部類に入る。敵を倒せないと嘆いてはいるが、常人に比べたら強すぎる力がある。それでもセレナは仲間に離されていく事が我慢ならないようだった。


「ダンジョンで新しい武器とか拾ってない?」

「ぜ~んぜんよ。やっぱりヒーラーじゃこの先無理なのかしら。はぁ……」


 セレナは置いていかれた感じを受け、やる気を失っていた。


「なんかなかったかなぁ……」


 そんなセレナのためにロランはマジックバッグの中身をゴソゴソと漁る。三人よりはるか先へと進んでいるロランは三人よりレアな物も多く持っている。中でも便利な物は魔法具【鑑定眼鏡】だ。これで他人のギフトやレベルを覗き見る事ができる。加えてアイテムの鑑定も可能だ。


「そうだなぁ……これなんてどう?」

「なにそれ?」

「これはサモナーロッドって言って、全魔力の半分を消費して自分のレベルと同じ従者を呼び出す事ができる杖なんだよ」

「へぇ~……え? じ、じゃあなに!? 私と同じレベルのアタッカーが出るの!?」

「いや、何が出るかはランダムだから必ずアタッカーが出るとは限らないかな」

「呼び出した従者はずっと出たまま?」

「一日経てば消えるみたいだよ。それか所有者が戻って良いって言ったら消えるみたい」

「なるほど……。今の杖より良いわね。それちょうだいっ!」

「うん、あげるよ。これで頑張ってみて」

「はぁ~いっ」


 新たな杖を手に入れたセレナはさっそくその杖を抱えダンジョンに向かった。


「よ~し、じゃあさっそく……えいっ!」


 杖を振ると目の前に煙が広がる。


「こいこいこいっ!」


 やがて煙が晴れると大きな白い獣が姿を見せた。


《ワレは神獣フェンリル。ワレを呼んだのは主か?》

「フ……」

《ふ?》

「フェンリルきたわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

《ふぉんっ!?》


 セレナはいきなりフェンリルに抱きつきモフリングを始めた。


「可愛いぃぃぃぃぃっ! あ~んもうっ! モフモフ最高~!」

《あ、主っ!? あぉぉぉぉぉぉぉぉんっ!?》


 小一時間徹底的にモフると杖に変化が起きた。


「ほぇ? なんか表示出た!」

《わぅぅぅ……》


 杖の先端が光りウィンドウが現れた。そしてそこにはこう記されていた。


・神獣フェンリル……親愛度100%(常時選択召喚可)


「親愛度……? もしかしてこれでいつでもワンちゃん呼び出せるの!?」

《ワレは犬ではなぁぁぁぁぁいっ! 誇り高き狼だぁぁぁぁぁぁぁぁっ!》

「狼だって分類上は犬じゃん?」

《……》


 フェンリルは絶句し、以後犬として扱われるようになった。


「よぉ~し! シロッ、凍える吹雪よっ!」

《ウォォォォォォォォォンッッッ!!》

》》


 扱いはともかく、フェンリルの強さは本物だった。フェンリルを仲間に加えたセレナは停滞していたエリアを越え、ガンガン先へと突き進んでいく。それもそのはず、セレナのレベルが上がればフェンリルのレベルも上がるのだ。


「この杖最高っ! ワンちゃんも最高~!」

《ガフッガフッガフッ!》


 最初は威厳たっぷりだったフェンリルだが、魔物を狩るたびに最高級肉を与えてやったら簡単に犬に成り下がっていた。


「これ食べたら帰ろうね~」

《アオンッ!》


 そうしてかなりレベルを上げ、セレナは屋敷に戻った。


「たっだいま~」

「お帰りセレナ。杖の感じはどう?」

「最高っ! 見てロラン! これ、私が呼んだの!」

《あ、ああああ主!? こ、こここ……この方は!?》

「へ?」


 フェンリルはロランを見た瞬間に怯え、カタカタと震え始めた。


「おー……おっきい犬だね! 名前あるの?」

「シロっていうの! 親愛度100%になったからいつでも呼び出せるんだって!」

「へぇ~。凄いじゃないか。しかもなかなか強そうだ」

「強いよ~。戦ってみる?」

《あるじぃぃぃぃぃっ! 勘弁してくだされぇぇぇぇぇっ! 白い毛が赤くなってしまうぅぅぅぅっ!》

「シロ? なんでそんなに怯えてるの?」


 フェンリルはロランを見て言った。


《あの方のギフトの数! 普通は一個や二個なのにっ! あの方のギフトは百以上ありますっ! それだけ神に愛されているということっ! ワレは神獣! そんな神獣より多くのギフトを持っているなどありえない話なのですっ!》

「へぇ~。僕のギフト見えるの?」

《それはもうっ! ワレの眼は神眼と同じ効果を持つ神獣眼ですから! あなた様は……使徒様では!?》

「「使徒??」」


 ロランとセレナは首を傾げた。


《えっと……。ギフトを授かる時に神から何か伝えられませんでしたか?》

「え? う~ん……」


 ロランは儀式の時を思い出す。


「特に何も……」

《へ?》


 ロランは何一つ覚えていなかった。だが覚えていないだけで確かにロランに語り掛ける声があった。しかしその声はどうやらロランには届いていなかったらしい。


《い、いやいや。神の声を聞いたでしょう?》

「さぁ……。ちゃんと覚えてないかも?」

《で、ではなぜそんなに鍛えておられるのですか?》

「大事なものを守るためかな。ギフトだけあっても使いこなせなきゃ意味ないでしょ?」

《う……むむむ……》


 フェンリルはうなりセレナに言った。


《主、少しワレを戻してくれます?》

「どしたのシロ?」

《ちょっと神に確認したい事があって……》

「仕方ないなぁ~。戻っていいよ~」

《ではっ!》


 フェンリルはなぜかロラン頭を下げ、元の世界へと戻っていった。


 そしてここは神のいる神界。ここに全ての人の運命を司る神がいる。


《神様~! 神様どこですか!》

《おや?》


 神界で吠えるフェンリルに気付いた神がフェンリルの前に姿を現す。


《どうかしましたか、フェンリルよ》

《あ、神様! 大変です!》


 フェンリルは神にロランの事を話した。


《な、なんですと? ロランは使命を覚えていなかった?》

《はい。あのギフトの量……やはり使徒様なのですよね?》

《……むむむ、チャンネルがズレていましたか。まさか私の声が届いていなかったとは……》


 神は頭を抱え悩み始めた。


《ん? 待ちなさい。あなた、ロランに会ったのですか?》

《はい。仲間の女に呼び出され……偶然に》

《なるほど。ならば私からの言葉を伝えてもらえますかね?》

《はい! 一語一句正確に伝えます!》

《すみませんねぇ。私はギフト以外であまり下界に干渉できないので。では彼にこう伝えて下さい》


 神はフェンリルにロランの背負った使命を伝えるのだった。

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