第21話 王都に潜んでいた悪人

 カフェにロランを残し、マライアとアリエルは大切な時間を邪魔してくれた悪人の親玉捜索に出た。


「これはこれは姉御、どうしたんですかい?」

「最近この辺りの治安が悪いみたいじゃないか。揃いも揃って舐められてんじゃないかい?」

「す、すんませんっ! 実は俺達も困り果ててまして……」


 ここはマライアが管理している裏の人間が集うアジトだ。表向きはどこにでもあるような酒場だが、裏ではこの王都周辺にいる裏の人間をここで一括管理している。


「アジトがわからない?」

「へぇ。治安が悪くなったのが一ヶ月ほど前で、あっしらも尾行したりしてるんですがね? 毎回上手く巻かれちまいまして」

「そう。いつもどの辺りで巻かれるの?」

「は、はいっ。今地図を出します!」


 男はテーブルに地図を開いた。地図には赤い✕印が記されている。


「赤い✕印があっしらの見失った地点でさぁ」

「ふ~ん……。なるほどね」

「何かわかったのかい、マライア?」


 マライアは地図を一目見て何かに気付いた。


「わからないのかい? この✕印がある地点には今は使われていない旧地下水道があるじゃないか」

「はっ! な、なるほど。よくわかったわね?」

「当たり前でしょ。行くわよ」

「えぇ……あまり行きたくない場所なんですけど……」

「はいはい。ならロランに一回だけお世話させてあげるか──」

「何してるの! 早く行きますわよっ! 悪人を野放しにしてはおけませんわっ!」

「……」


 アリエルはやる気満々でアジトを飛び出していくのだった。


 一方その頃、一人残されたロランは引き続き観光を楽しんでいた。


「いらっしゃい、誰かにプレゼントかい?」

「あ、はい。両親と妹になにかあげようかなと」

「ほ~。家族想いだねぇ。そうさなぁ……父親にはこの羽ペンとかどうだい?」

「あ、それ良いですね! 今期から執事養成校に通うので」

「ならこれに決まりだな。これは魔法具でなぁ」

「魔法具?」

「おお。この羽ペンはインクいらず! しかもインク切れもない優れものよ」

「へぇ~。凄いですね。じゃあこれ下さい」

「あいよ~。次は母親だな。これなんか……」


 そして母親には一生錆びず、欠けない魔法の包丁を買い、妹には器用さをアップしてくれるチョーカーを買った。


「まいどあり~」

「良い買い物ができたなぁ~。三人ともこれから授業とか大変だろうし、頑張ってもら──」


 そんな時だった。ロランの目の前でまたひったくり事件が起きた。


「や、野郎っ! ひったくりだっ! 誰か捕まえてくれぇぇぇっ! あの鞄には店の運営資金がっ!」

「ハッハー! いただきだぁっ!」

「待てっ!」


 ロランは逃げる男を追いかける。


「あぁん? なんだおめぇ、正義の味方気取りか? 今時流行らねぇぜっ」

「鞄を置いていけっ!」

「誰が置いてくかバーカ。加速っ!」

「あっ!」


 男は器用に人の間を縫い、ロランとの距離を開けていく。


「速いっ! 仕方ない、【マーク】!」


 ロランは逃げる男に追跡魔法を施した。やがて男の姿が見えなくなったが、追跡魔法がある限り見失う事はない。ロランは走るのを止め、男の足跡を辿る。


「地下? ここから地下に向かったのか。よっと」


 ロランは地面にあった鉄製の蓋を持ち上げ地下へと降りた。


「暗いな、【ライト】!」


 降りた先に灯りがなかったため、ロランは生活魔法で明かりを灯した。


「向かった先はあっちか。行こう」


 暗い地下水道を進む。永らく放置されているのか、蜘蛛の糸や埃が舞っている。


「これじゃあ火魔法は使えないな。粉塵爆発起きそうだし……ん? あれ? 行き止まり?」


 足跡を辿ってきたつもりだったが、目の前は行き止まりだった。そして追おうにもここで足跡は途切れてしまっている。


「えぇぇ? なんで??」

「見つけたわよっ!」

「へ?」

「もう逃げ道はないわっ! 諦めなさいっ!」

「マライアさんにアリエルさん?」

「「ロラン!? な、なんで!?」」


 行き止まりで立っているとマライアとアリエルが姿を見せた。ロランは二人に状況を説明した。


「するとここで犯人は消えたのね?」

「はい」

「ふ~ん……」


 マライアは辺りを注意深く観察する。


「あった」

「え?」


 マライアが退けた木箱の下に何やら見慣れた魔法陣が現れた。


「あ、これ!」

「転移魔法陣ね。ロランもダンジョンで使ったでしょ?」

「はい。でもなんでこんな所に……」


 アリエルは何やら考え込んでいた。そして口を開く。


「もしかしたら……人造ダンジョンじゃないかしら?」

「人造ダンジョン?」

「ええ。ギフトの中には【ダンジョン作成】というものもあるのよ。かなりレアなんだけどね」

「そんなギフトもあるんですね」

「ええ。このギフトで作られたダンジョンは通常のダンジョンと違い危険よ」

「そうなんですか?」


 アリエルは人造ダンジョンについて説明を始めた。


「ええ。人造ダンジョンは作成者の思うがまま、階層も魔物の配置もトラップもね。下手したら延々ダンジョンの中をさ迷う事になるわ」

「それじゃあ……追跡はここまでって事ですか?」

「ええ。これ以上の深追いは止めておいた方が良いわ」

「ダメですよ! それだと町の人達が……」

「それは大丈夫よ。ね、マライア?」

「え?」


 ロランはしゃがみ込んでいたマライアを見た。


「今魔法陣を上書きして転移先を城の地下牢に変更したわ。これで犯人達はダンジョンから出た瞬間即逮捕されるってわけよ」

「ま、魔法陣の上書き? マライアさんってそんな事もできたんですか!?」

「ええ。見直した?」

「尊敬の念しかないですよ! 本当に凄い……。僕なんてまだまだです」

「ふふっ、その内やり方を教えてあげるわ。さ、宿に行きましょ? 誇りだらけで早くお風呂に入りたいわ」

「はいっ! お世話させていただきますっ!」

「ロ、ロラン君? 私も一緒でかまわないかしら?」

「もちろんです! 僕じゃ解決できなかった事をこんなにアッサリ解決してしまうお二人のお世話をさせていただけるなんて光栄ですから!」

「はぅん……っ!」


 この数日後。


「ちくしょおぉぉぉぉっ! なんだここっ! ギフトが発動しねぇっ!」

「貴様が町を騒がしていた犯人だな? 私の足下ではしゃぎすぎたな?」

「ゲッ!? こ、ここここ国王!?」

「盗んだもの、全部出してもらおうか? 足りない分は犯罪奴隷として働いて返してもらうぞ? こいつを首に嵌めてな?」

「ギフト封印の首輪……! それだけは勘弁してくれぇぇぇぇぇぇっ!」


 こうして王都を騒がしていた犯人は無事確保され、町は平穏を取り戻した。そしてロラン達はマライアの屋敷に戻っていた。


「ちょっとアリエル。あなた学校行きなさいよ」

「うふふふ……、凄かったわぁ~……」

「これだから拗らせた処女は……。たかだか頭洗ってもらったくらいで……」

「うふふふふ……」

「だめだこれ……。壊れてるわ……」


 アリエルはロランの奉仕を受け数日間放心するのだった。

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