第7話 アレン・ジャスパー

 これは後の七英雄が一人アレン・ジャスパーの生い立ちである。


 アレン・ジャスパーはジャスパー男爵家の八男として生まれた。貴族家でも八男ともなれば当然家督を引き継げるわけでもなく、将来は自立しなければならない。


 両親や兄弟との仲は悪くないが、いつまでも実家で親の脛をかじって生きていては世間から後ろ指をさされてしまう。


 そんなアレンの得たギフトは【掃除屋】だった。アレンもロラン同様に儀式の際に笑い者にされたが、後にこのギフトの本質を知る。


 ギフト【掃除屋】は万能ギフトの一つだった。鍛えた末には掃除と名のつく行為において右に出る者はいなくなる。そして掃除は清掃行為だけには留まらない。よく世界に巣くう悪を掃除すると言うが、この掃除もギフト【掃除屋】が万能といわれる由縁だ。


 このギフトを所有した者が敵認定したものは漏れなく掃除されてしまうのである。今はまだギフトの力が目覚めてはいないが、いずれ覚醒した暁には自分の限界値より五割増しの力を発揮できるようになる。


 しかしアレンはこのギフト【掃除屋】の真価に気付かず、ただの暗殺系ギフトだと勘違いしたままだった。このギフトがその価値を見いだすのはまだまだ先の事であり、ギフトの概要にもこの事実は記されていない。


 そしてアレンにはもう一つギフトヶある。そのもう一つのギフトは【器用貧乏】だ。このギフトもまた破格のギフトであり、本来のギフトほどではないが全てのギフトを七割まで使いこなせるようになるのである。


 しかし、このギフトを真に使いこなすためにはたゆまぬ努力が必要であり、努力しなければ一生真価は発揮されないままである。


 これがアレン・ジャスパーであり、将来英雄ロランの右に並ぶ者の現在の姿だ。


 そして入学翌日、学校は休みで授業はないが、朝から訓練場にロランとアレンの姿があった。


「くっ! もう一本だっ!」

「良いよっ、何回でも付き合おうっ!」

「いくぞロランッッッ!!」


 訓練場に鉄がぶつかり合う音が響き渡る。そしてその訓練を陰から校長のアリエル・サーチェスが観察していた。


「あれはマライアの所のロランか。そしてもう一人は確かジャスパー家の八男……。ふっ、さっそく切磋琢磨しあえるライバルを見つけたか。ダニエルの話だとロランの力はまだまだ荒削りだが目を見張るものがあると聞いたが……。どうやら眉唾ではないらしいな」


 そして時刻は昼、二人は訓練場にあるテーブルで食事をとりながら訓練について語り合った。


「なあロラン。ロランから見て俺に足りないものはなんだと思う?」

「足りないもの? う~ん……」


 ロランはギフトに頼りきった力のため、アレンに何が足りないかさっぱりわからない。言うほどロランには戦闘経験がない。


「教えてあげましょうか?」

「「え? あ、こ、校長!」」


 アリエルが二人の前に姿を見せた。そんなアリエルにアレンが問い掛ける。


「あの……どうしてここに? 今日は休みでは?」

「確かに学校は休みでも教師に仕事がないわけではないからね。校長ともなればなおさら」

「そうでしたか。ではなぜ訓練場に?」


 そう尋ねるとアリエルはロランをの手元を見た。


「サンドイッチかしら。自作?」

「え? あ、はい。料理は全部自分でやってます」

「そう。そっちは……屋台で買ったものね」

「あ……はい。俺、料理はまだ少し……」


 アリエルはロランのサンドイッチを一つつまみ口に運んだ。


「あ! 僕のサンドイッチ!?」

「あら、美味しい……。これを毎日食べられるマライアが少し羨ましいわ。えっと……君はジャスパー家の八男ね?」

「アレンです」

「ではアレン。あなたにはまだ自覚が足りないようですね」

「じ、自覚が?」


 アリエルはアレンに向かい諭すように言った。


「執事を目指すなら例え不味くても自分で作りなさい。そういった積み重ねが自分を成長させるの。特にあなたのギフト【器用貧乏】はその典型ね。器用貧乏は努力なしではただのゴミギフトよ。そして貴方達はまだスキルの存在を知らないようね」

「「スキル?」」

「そう。スキルはギフトの下位。例えばそうね……剣の技術を鍛えていけばやがてスキル【剣術】を得られるわ」

「スキル【剣術】? それはギフト【剣術】とは違うものなのですか?」

「違うわ。けど、鍛えた先ではギフト【剣術】に見劣りしないものになるわ。ギフトは神が人に与えしものだとすれば、スキルは人が自分の努力で掴み取るものなのよ」


 そう言いながらアリエルの手が再びロランのサンドイッチをつまむ。


「ん~、美味しいっ」

「だからなんで僕の!? あと一個しかないじゃないですか!?」

「だって美味しいんですもの。あとで調理室開けてあげるからアレンに料理を教えてあげなさいな」

「料理を?」

「そう。貴方達、なぜ世の母親達がギフト【料理人】を持っていないのに美味しい食事が作れるかわかる?」


 するとアレンは気付いたようだ。


「まさか……スキル【調理】?」

「そうよ。ギフトはないけどスキルは得られるの。スキルは鏡には映らないけれど【鑑定】で見る事はできるわ。アレン、二年間必死に努力しなさい。お手本はもう隣にあるのだから」

「ロラン……ですか」

「そうよ。ロランはこの養成校で細部を詰めるだけで今いる王城の執事よりはるかに高みにいけるわ。それこそダニエルよりもね」

「ダ、ダニエル先生より!?」

「そうよ。私の【神眼】はロランを見抜いているもの。そしてアレン、君の持つ二つのギフトも努力次第で化けるわ。努力さえ惜しまなければね」


 そしてアリエルは最後のサンドイッチを口に運んだ。


「僕の……」

「これは授業料ということで……ね。じゃあついてきなさい。調理室開けるから。材料は好きなもの使っていいから」


 スキルの事を知ったアレンはロランに頭を下げた。


「ロラン、俺に料理も教えてくれっ! 頼むっ!」

「うん、良いよ。そうしなきゃ僕のお昼ご飯ないし。行こうアレン」

「ああっ」


 アリエルは二人の先を歩きながら調理室へと向かう。


(ああ……もっと食べたいわ……。今度マライアの屋敷に行こうかしら。マライアばっかり毎日あんな美味しいご飯食べられるなんてズルいわ!)


 そうして調理室についた後、アリエルは仕事に戻り、ロランはアレンに一から料理を教えていくのだった。

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