様々な火種

 ミントは俺の手を握った。


 ミントは金髪ロングヘアと青い瞳の美人エルフだ。


「久しぶりですね」


「そ、そうだな」


 ミントは俺の顔をじっと見た。


「聖剣を受け取って落ち込んでいるんですか?元気を出してください」


「俺の考えが分かりすぎだろ!」


「ふふふ、ノーマの考えはなんとなく分かりますよ」


 ミントはいつもノーマを目で追っていた。


 他の者よりノーマの事をよく理解していたのだ。


「すぐ来てくれ。勇者と賢者に会わせたい。今問題が起こっている」


「分かりました」


 ノーマの動きでミントは良くない問題が起こっている事を察した。





 俺の家で旧勇者パーティーが揃う。


 ミントは事情を聞き、明日には犯罪者を連れて王都に戻る事に決まった。


 俺はゴンに話をして、100の兵士を休ませる部屋の確保と兵士と犯罪者用の物資の補充もお願いした。


 更に賢者と一緒に鉄の手錠を作った。


 きゅうはゴンを追いかけて特訓に付き合う。


 そんな時、ゴンから不穏な話が耳に入った。


「今日になって見張りから不審な人影が何回か目撃されてるだよ」


「分かった。俺が捕まえる」


「頼むだよ」


 俺は村の周りを索敵する。


 明らかに隠れて村を監視している。


 俺は後ろから迫り頭を掴んで木の幹に打ち付けた。


 更に念のため腹を殴る。


 不審者を担いで村に戻るが、斥候の能力者は普通チームで動くがそれをしないのはおかしい。


 俺はすぐ賢者に捕らえた斥候を預けた。






 2人目も問答無用で捕まえて村に戻るが、1人だけで動いているので捕まえるのは簡単だった。


「ノーマ、この斥候はブラックギャング」


「やっぱりそうか。気になったんだけどこいつら1人だけで動いている。普通チームで動く」


「ソロで動くのはお前もだぜ」


「そうだけど、斥候ランクがBだったりアサシンなら一人で動くのも分かるが、こいつらの能力はそこまで高くない。結束が無いのか?」


「ノーマ、犯罪者の思考は論理で考えても、ダメな事がある」


「論理じゃない考えで動いているのか?それともワザと捕まって脱走することが出来るのか?」


「分からない。ブラックギャングのボスの性格は、分からない、でも、拘束は念入りに行っておく」


「考えても分からないなら考えても無駄だぜ」


「分かった。今は出来るだけ斥候を捕まえる」


俺は出来るだけ多く斥候を捕らえたが、1人で動いている分捕まえるのは楽だが、村との往復が多くなり、全員を捕まえることは出来なかった。


 目的が分からない。


 こいつら何がしたいんだ?


 捕まえて欲しいようにしか見えないぞ。


 俺はその日夜遅くまで斥候を捕らえ続けた。





 ◇





【ノーマの家】


 ミントはノーマの家でノーマを待った。


「ノーマは帰ってきませんね。久しぶりに会ったのに、話がしたいです」


 家にはきゅうとミントだけが居て、なにか手伝おうとしてもシャインとマギにしっかり休むようにと止められた。


 ミントはきゅうを撫でる。


 きゅうにノーマの匂いが残っているような気がして匂いを嗅いだりほおずりしたりする。


 お風呂に入り、サウナでゆっくりするが、常に外の物音に耳を傾けた。


 1階の椅子に座りテーブルに頭を置いてうとうとと眠りについた。


 シャインとマギが帰り、ミントはバッと立ち上がる。


「ミント、今日ノーマは帰らないぞ」


「ゆっくり、休む」


「そう、ですか」


 ミントは落ち込んだ。


「さあ、ベッドで眠る」


 マギはベッドに案内し、ミントを寝かせると布団をかけてミントの瞼をやさしく閉じる。


「ゆっくり、お休み」


「ふふふ、マギはお母さんみたいです」


 マギはミントの頬を撫でて部屋を出た。


 1階に戻ると、「外を散歩しよーぜ」とシャインに誘われた。


 2人は家を出て、ミントが眠る家を眺める。


「ミントは、ノーマとミーアの関係を知らないんだよな?」


「ミーアは、友達の家で、寝てもらった。ノーマは、今日帰らない。村人も、近づけないようにした」


 賢者はミントを休ませたいと巧みにミントから村人とミーア、そしてノーマを引き離した。


 ノーマとミーアの恋仲を悟らせないように動く。


 村人を守る為今ミントにショックを与えるわけにはいかなかった。


 ミントには無事に兵士を指揮し、犯罪者を連れて王都に向かってもらう必要があった。


 勇者と賢者は人の命を優先する。


 マギの心がチクリと痛み、シャインの手を握る。


 シャインはマギを抱きしめ、胸に引き寄せた。


「ノーマはミントと結婚すると思っていたぜ」


「ミーアもいい子、ミントもいい子、どっちも、幸せになって欲しい。でも、ノーマは1人だけ」


 シャインはマギを強く抱いた。


 ミントはノーマとミーアの関係を知らず、思いを寄せ続け何も知らぬまま次の日の早朝に犯罪者を連れて100人の兵士と共に王都に向かう。





 ◇





 その頃、ブラックギャングのボスはブルーカントリーの斥候を終えた幹部の報告を受けた。


 水晶球に村の様子が映し出される。


 水晶球の魔道具を使う事で、村の映像を映し出すことが出来る。


 ボスの命令で、ブラックギャングの斥候をおとりに使い村の女を出来るだけ写させ、更に村の様子も調べさせた。


 フォーに攻めさせた時も女だけは殺さないよう何度も念を押した。


 ボスにとって大事なのは『舐められない事』と『好みの女を捕まえる事』で、仲間の犠牲は気にしていない。


 ブラックギャングのメンバーは変えの効く道具のように思っているのだ。


 賢者マギの『犯罪者の考えは論理で考えても駄目』という意見は当たっている。


 ボスは映像の途中で叫ぶ。

「この女をもっと大きく写せ!」


 そこに映し出されたのはミーア。


「少し幼いが、上玉じゃねーか。今日の夜に全員で村を攻める!この女は殺すな!俺の女にする!全員に徹底させろ!」


 賢者の考えが当たり、ブラックギャングは論理とは関係ない思惑で動き、その事で村に危険が迫る


 ボスは口角を釣り上げ、不気味に笑った。

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