逃走者

 勇者パーティーが王都にたどり着く少し前の出来事。


 ノーマはいつものように王都で情報を集める。


 珍しく人から声をかけられた。


 顔なじみの男剣士だった。


「ノーマさん。今冒険者ギルドでCランク以上の冒険者全員が勇者パーティーに招集されてますよ」


 勇者パーティーの招集だと!


「そうか、だが俺は今王命で動いている。今回はパスだな」


 俺は冷静を装て答える。


「流石ノーマさん!頑張ってください!」


「ああ、そっちも気を付けてな」


 剣士が立ち去ると俺は大きく息を吐いた。


 あぶね!賢者の仕業だな!


 危なかった。王命が無ければアウトだったぞ。


 王命に感謝せねば。そして早く逃げる。


 すぐに王都を出る。


 俺は急いで防壁の門に向かう。


 防壁の門を潜り抜けようとすると門番に止められた。


「ノーマさん。すいませんが通すことは出来ません。勇者パーティー権限で『ノーマを通すな』と言われてるんです」


 名指しだと!


「待ってくれ!俺は王命で動いているんだ」


「王命なら正式な文書を持ってきてください」


「この任務はお忍びで大事な緊急任務なんだ!通してくれ!」


「無理です。通りたければ王命の正式な文書を持ってきてください」


「分かった」


 俺は引き下がる。


 くそー!やられた!


 賢者だな!絶対賢者の策略だ!


 王にお願いに行くか?いや、ダメだ!もし『勇者の言う通りにしろ』と言われたらアウトだ。


 防壁の上を通って逃げ出す!


 俺は防壁を回って手薄な場所を探す。


「隠密!」


 斥候のスキルで気配を消す。


 そして防壁の壁を蹴って防壁を登り、王都を抜け出し、急いで王都を離れる。


 俺は今王命を受けている。


 迅速に王命をこなすため強引な手も致し方ない。


 って言い訳する事に決めた。





「は、、ははは!逃げ切った!逃げ切ったぞ!」


 ノーマ 男

 ジョブ スーパーノービス


 ジョブスキル

 剣術        Bランク

 全魔術       Bランク

 斥候        Bランク

 魔物使い      Bランク


 ノーマルスキル

 全ステータスアップ Sランク

 全回復力アップ   Sランク

 状態異常耐性    Sランク

 逃走        Dランク



 斥候や逃走を続けることで、『逃走』スキルはFランクからDランクに上昇していた。


 逃走スキルの効果は、逃走時のスピードをアップし、更に逃走時のスタミナ消費を抑え、最適な逃走ルートを選択する直感力をもたらすものだ。





 ◇





 勇者パーティーは、情報を集め、ノーマを逃がした事実を知る。


「遅かった」


「本当に逃げたのか」


「ノーマが王命を貰っていたのが敗因ですね」


「仕方ない。しばらく王の依頼をこなす」


「それと、ノーマの進言だと思うんですけど、王から100名の兵を部下が与えられました、私が兵士長になっちゃいました」


「ノーマが居なくても、勇者パーティーが機能する為の兵士100人。ノーマは勇者パーティーから完全に抜けた気になってる」


 それだけではなく、兵士の配置を決めるなどの足止めも兼ねているのだろう。


 ノーマは出来る事なら1つの動きで1つ以上の効果を狙う人間だ。


 ノーマならそのくらいの事を考える。


「依頼を全部終えたら、ノーマを連れ戻す。今は依頼を終わらせるぜ」





 勇者パーティーの部下についた兵がひそひそと話をする。


「ノーマさんは、自分じゃ器用貧乏って言ってるけど、ただの器用貧乏が賢者を出し抜けるのか?」


「違うな。あの人はオールラウンダーだ。頭の良さも含めてな。だから逃げ切れたんだよ」


「しかも、斥候もこなして、盗賊のアジトも簡単に突き止めたらしい」


「そんなにできる人なのに何で逃げ出したんだ?」


「分からんが予想はつくぞ」


「予想を聞きたい」


「勇者パーティーの依頼は過酷だ。辛くなったんだろ。それと、何もわかって無い奴がノーマさんの事を『村人職』とバカにするだろ?頑張って魔物を討伐して帰ってきたら馬鹿にされる。これじゃやる気も出ない」


「確かに、報われないよな」


「ノーマさん、今何してるんだろ?」


「王命を受けて、国を見て回ってるらしい。ノーマさんが見回るんだ。恐らく、これからたくさん依頼が舞い込むぞ」


「だから勇者パーティーの下に俺達100人の兵が組み入れられたのか」


「それもノーマさんが王に手紙で伝えたらしい」


「俺は勇者パーティーの中でノーマさんが一番凄味があると思うんだ。うまく言えないけどな」


「分かるぞ、ノーマさんは戦場の中に小さい子供が剣を持ってケロッとしているような不気味さがあるよな」


「そう!まさにそれだ!」


 ノーマが知らないうちにノーマのうわさは広まっていく。


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