いらない子同然の僕だけど、ヴァイオリンの才能を授かったので美少女だらけの異国に留学して無双します

命みょうが

第1話 無能な三男、腹違いの兄たちからボコられる

「やめてよ……っ!」


 ちゃんと土下座したのに、兄たちのパンチが僕の鼻先をとらえる。

 もんどりうって地面に転がる。


「ギャハハハハッ!」


 兄たちの笑い声が広大な庭に響く。

 あーあ。

 届いたばかりの高校の制服なのに。

 もう血まみれになっちゃったな……。


 情けない話だけど、これが僕の日常だ。

 「財閥の御曹司」というと羨ましがられるけど、実際はこれが現実。

 ただひたすら兄たちや義母からの暴力・暴言に耐え続ける毎日。


 漫画や小説に出てくる御曹司は大抵イケメンで、勉強だけでなくスポーツも得意で、英語もペラペラで、幼稚園から私立の名門に通い、友達や同級生もみんな政治家や医者や芸能人の子供ばかりで……そんな感じだけど、僕はというと、勉強も運動も全然ダメで、英語だって喋れないし、かてて加えて友達や恋人だっていないし、いわゆるカースト底辺のダメ御曹司なのだ。


 なんでこんなことになったのか?

 自分の無能ぶりを他人のせいにしたくはないけれど、やっぱり育った環境のせいもあると思うな。


 僕は鹿苑寺ろくおんじ財閥の当主・鹿苑寺まさしの三番目の息子としてこの世に生を受けたけど、母親は正妻じゃなかった。

 ようするに愛人の子なのだ。

 ヒチャクシュツシとか言うんだって。


 僕がそのことを知ったのは五歳の時。

 母さんが事故で亡くなり、父さんが黒塗りの高級車で僕を迎えに来て、この屋敷へと連れて来られたときだ。


「今日からここがお前の家だ」


 当然、歓迎されるはずもなく。

 貧しい母子家庭で育った僕には、豪邸での豪華な暮らしなど違和感だらけだったし、幼い頃から専属の家庭教師がついて英才教育を受けてきた兄たちとは比べ物にならないほどの差があったから、努力云々でどうにかなる状況じゃなかった。


 僕は次第に「自分は無能なダメ人間なんだ」という劣等感をおぼえるようになっていった。

 それに拍車をかけたのが義母や兄たちからの暴言、それに暴力だ。


 屋敷に来て数日後の朝食の時間、こんなことがあった。

 鹿苑寺家では朝から豪華な料理が出て、デザートまでついてくるのだけれど、体の小さい僕にはとても食べきれなかった。

 すると義母が怒ってこう叫んだ。


「いいから早く食べなさいよ! 幼稚園遅れるでしょ!」


 ピシャッ! と平手打ちが飛んできた。

 僕が驚いて泣き出すと、今度は僕の頭をつかんで皿に押しつけてきた。


「なんで泣くのよ! 私が悪いみたいじゃないのよ!」

「ごめんなさい……ごめんなさい……っ」

「もういいわよ! 出てって! あんたなんかいらない子なのよ!」


 いらない子……?

 どうしてそんなヒドイことを……?

 僕はショックだった。


 ショック過ぎて、それからというもの食事の時間が苦痛になってしまった。

 毎日泣きながらテーブルに着いては、義母に顔を叩かれ、罵声を浴びせられる。


 僕が十五歳になった今でもガリガリに痩せ細っているのは、多分そのせいだと思う。 

 兄たちからの暴力も酷かった。

 廊下ですれ違いざまに、


「ジャマ」


 といちゃもんをつけられ蹴飛ばされたり。

 ゲームをしていると、


「うぜーんだよっ!」


 と難癖をつけられゲーム機を壊されたり。

 僕が父さんから小遣いをもらうと、ハイエナのようにやって来て、


「おいお前、さっき小遣い入っただろ?」

「俺たち欲しい物があるんだ」


 カツアゲは当たり前。

 パシリやリンチ、プロレス技をかけられたり、虫を食べさせられたり、飼っていた子猫を殺されたり、学校のトイレで自慰を強制されたり、その動画をネットに拡散されたり……。


 そんな感じで、僕は毎日義母や兄たちからの暴言・暴力に脅え暮らしているのだ。

 そして現在いまも。

 届いたばかりの高校の制服に袖を通していたら、兄たちが部屋に来て、


「おい、約束した10万よこせ」


 と言ってきた。

 僕が「まだ用意できてません」と断ると、庭先でリンチが始まった。


 最初は「土下座したら許してやる」って言ってたのに……。

 僕はワイシャツの袖で鼻血を拭いながら、兄の顔を見上げる。

 兄たちは笑っている。


「ホント無能だなぁ、オマエは!」

「さすが愛人の息子だなぁ!」

「ほら、あやまれよ?」

「ご、ごめんなさい……」


 僕は庭石におでこを擦りつける。

 そうして土下座する僕の頭を、兄たちはローファーで踏みつけてきた。


「んんっ? 聞こえねーなぁ?」

「ご、ごめんなさいっ……!」

「うるせーよ!」


 つま先で顎を蹴り上げられ、視界に火花が散った。


「「ギャハハハハッ!」」

「これで目が覚めただろ~?」

「ちゃ~んと明日までに金用意しとけよぉ? 大金持ちのボンボン、鹿苑寺けいく~ん?」


 遠ざかる兄たちの背中を見つめながら、僕はこみ上げるものを堪えられなかった。

 ……どうして生まれちゃったんだ、僕なんか。


 望まれない愛人の息子。

 勉強も運動も出来ない無能な三男坊。

 誰からも必要とされない、いらない子。


 いっそ死ねたら、どんなに楽になれるだろう……。

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