04_変わる生徒会

■葛西ユージの視点

生徒会の仕事の引継ぎが出来ていないのが気になるな・・・


でも、役員ですらない僕が生徒会室に入ることは、ウルハが許さないだろう。

何となくだけど、『会計ソフト』が気になる。


実はあれ、3つのアプリを使ってエクセルにまとめるようにしたソフトだ。

一から作り上げるのは高校生の僕にはハードルが高すぎた。


そこで、フリーのOCRソフト(文字読み取りソフト)を使って、レシートの文字を読み取り、フリーの家計簿ソフトにデータを送るようになっている。

データ自体はクラウドにアップロードするようになっているのだが、2つの弱点があった。


1つ目、レシートの画像データもクラウドにアップロードするので、容量がいっぱいになったら新しく取り込めないこと。

2つ目は、各フリーソフトがアップデートされたら、手元のエクセルのマクロを修正しないといけない場合があること。



要するに、『時々面倒を見ないと拗ねるソフト』と言う感じだろうか。






エクセルの入力は、生徒会の誰でもできるようになったので、問題ないが、マクロは扱える人がいなかった。

そのため、もしもの時にために『引継ぎ資料』を作成していた。


来年、再来年になっても、マニュアルに沿って作業するだけで、マクロの知識なしにアップデートできるようにしているのだ。




元々は、『勘定科目』が難しいというところから始まったアプリだった。


例えば、『水』を買ったとしても、1本だと生徒会のためのもので、『福利厚生費』となる。

しかし、10本も買うときは、各部活への差し入れなどになるため『接待費』として計上する必要があった。


そのため、品目、量、時期などの情報を元に自動的に勘定科目を決定する命令をエクセル内に作った。

これにより2人工 (1人分の作業量で2日分)の節約に成功したものだ。


生徒会のみんなには伝えたのだけれど、覚えていなさそう・・・

まあ、困ったら聞きに来てくれるよね・・・






■中野ウルハの視点

生徒会室では、ほんの少しだけ、ほんの小さな問題が起きた。


経費の帳簿ソフトが壊れたのだ。

いつもは、1ヶ月分のレシートをスキャナに並べて、ボタンポンで帳簿になっていた。


しかし、このソフトが壊れたので、手作業でやる必要がある。

1ヶ月分となると、人ひとりが2日から3日、手を取られるだろう。


入力はエクセルだから、それほど難しくない。

ただ、生徒会では文房具など、安価なものをたくさん買う。

厳密には寄付なのだが、それはここではどうでもいい。

それら1つ1つの勘定科目を決めるのに時間がかかるのだ。


過去の帳簿を参考に、判断するので、1行ずつ入力、資料チェック・・・の繰り返しとなる。

いつものソフトは、過去のデータが蓄積されているらしく、スキャナで撮れば自動で勘定科目まで入力されていた。

しかも、その精度98%だったので完全に頼りきりだったのだ。



「直せないの?」


会計の佐藤くんに訊ねてみた。


「これ、ユージ先輩のお手製なんです。ユージ先輩じゃないと・・・そうだ!呼びましょう!」


「・・・ユージはもう、ここには来ないわ」


「え?」


「別れたもの」


「ええ!?そうなんですか!?」



生徒会室がざわついた。

噂になっていて、一部の人間は知っていたみたいだが、公言したことで驚かれてしまった。


「そ、それでも、生徒会役員であることには違いないでしょう!仕事は仕事でやってもらいましょう!」


「彼は元々生徒会役員でもないのよ」


「は!?そうなんですか?!」


「俺、実はユージ先輩が副会長なんじゃないかって思ってました!」


「いや、副会長でしょ!」


「副会長は元々あなたよ、向園くん」


「あ!?そう言えば・・・」


「会長!ユージ先輩にお願いしましょう!」


「いやよ!絶対いや!」



突き放した相手に、早速頭を下げに行くとか・・・絶対に嫌!

私のプライドが許さなかった。


「(おい、お前行ってこい!)」


「(頼むぞ!ユージ先輩だったら、頼めば絶対やってくれるから!)」






■葛西ユージの視点

放課後にやることがないって新鮮。

バイトも辞めたし。

ゆっくり帰るか。


「ユージ先輩!」


放課後の教室に生徒会役員の佐藤くんが飛び込んできた。


「あ、佐藤くん。どうしたの!?」


「経費計算ソフトが壊れて!」


ああ、そろそろかと思ってた。

あれは、市販のソフトふたつを積み合わせて、画面周りだけエクセルで作ったなんちゃってソフトだ。


「でも、僕が行くと・・・ウルハはややこしくなるよ?」


「このままじゃ3日は手がかかるし、結局年度末に手書きで決算しないといけないんです!」


「ああ、そりゃあ大変だ。」


家計簿ソフトは決算書類も自動作成だったから、それを手作業でやるとなると下手したら1か月かかるかもしれない。


「あの、すいません、お願いします!」


頭を下げられたら断れない。

僕は生徒会じゃないけど、後輩の頼みだ。

どうせ暇だし行ってみるか。




佐藤くんと一緒に恐る恐る生徒会室に。

ウルハを見るのも何となく久しぶりのような気がする。


「ごめん、邪魔かと思ったんだけど、引き継ぎ用のファイルの場所間くらい教えておこうかと・・・」


それを見たら、ソフトも簡単に直せるんだけど・・・

生徒会室の前に来ているが、入り口でウルハに止められた。


「要らないわ!あんたの助けなんて要らないのよ!」


ファイルの場所を説明したのだが、彼女はそのファイルを床に叩きつけたので、ファイルの中の紙が散らばった。




紙を集めるのは大変だろうけど、これでみんなファイルの存在を思い出しただろう。

なんとか引き継げただろう・・・

そう信じたい。


生徒会役員たちの手によっての修復を期待する。




僕が生徒会室を去ろうとした時だった。


「会長!ウインドウズアップデートが出ました!更新していいですか?」


「早くしなさい!」


ウルハが答えていた。


「あ、今回のアップデートは一応バックアップしてからのほうが・・・」


「うるさいわね!無関係な人間は生徒会室に来ないで!」


反射的に答えてしまったが、きつく言われ、僕は生徒会室を後にした。

やっぱり、スマートには解決することが出来なかった・・・




「会長!パソコンが起動しなくなりました!」


「なんでそんなことになるの!?いっつも使ってるでしょ!?」


「アップデートとかはいつもユージ先輩が・・・」


「俺達、普段スマホかタブレットしか使わないからパソコンは苦手で・・・」



ダメだ・・・アップデートのときはバックアップしようね。

心の中で思ったけれど、ウルハの状態を見たら、もはや口も手も出せない。

今度こそ、生徒会室を後にした。


データ自体はクラウドに上がっているから全損ではないが・・・


「ダメです!」


「パソコンが壊れました!起動しません!」


ドアは開いていたので、廊下まで声は聞こえていた。


「手書きに移行よ!元々手書きだったんだから、何の問題もないでしょう!」


「それだと今季のもの全部やり直しということに・・・」


「パソコンが壊れたのだからしょうがないでしょ!?」


一応ダメ元で・・・引き返して生徒会室の入り口でウルハに声をかける。


「あのー・・・」


「あんたは黙ってて!今忙しいから、部外者は出ていってちょうだい!」


ぴしゃり言われてそのまま帰った。


引継ぎファイルもあるし、生徒会の人たちは優秀だから大丈夫だよね・・・?

不安はあるものの、もう僕には何もできないのだと思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る