第29話 誠也と優香の母


 勉強をし始めてから約二時間が経ち、徐々に集中力が途切れてきた。


 主に優香と健吾だが、むしろその二人しかいないが。

 問題集から目を離すことが多くなり、明らかに時計を気にしている。


「ね、ねえ、お兄ちゃん、そろそろ休憩しない?」

「そうだな、誠也。まだ昼も食べてないしな」


 優香が我慢できずにそう口にすると、健吾も間髪を容れずに賛成する。


「まあそろそろ一時くらいだし、昼ご飯を食べるために休憩にするか」

「やったー! はぁ、疲れたよぉ……」


 俺が休憩というと、優香が喜びを全身で表して伸びをした。


「お疲れ様、優香ちゃん。問題集も二周したし、あと一周したら違う教科をやろうね」

「えっ!? お、お義姉ちゃん、問題集を三周したら終わりじゃないの?」

「そんなわけないでしょ? 中間試験は数学だけじゃないんだし」

「うへぇ……受験がこの間終わったばかりなのに、なんでまたこんなに勉強しないといけないんだぁ……」

「高校受験ほど難しくないし範囲も狭いんだから、大丈夫だろ」

「それは出来る人の言い分だよ、お兄ちゃん……」


 机に突っ伏して、俺をジト目で見てくる優香。

 普通に毎日授業をちゃんと受けて、復習をしてれば大変ではないと思うが。


「なあ誠也、昼ご飯はどうするんだ? どっかコンビニに買いに行くか?」

「うーん、そうだな。俺が作ってもいいと思ったけど、五人分も作れるほど冷蔵庫に食材がなかった気がするし」


 そんなことを言っていたら、玄関のドアが開いた音がした。


「ただいまー」

「えっ、母さん?」

「あれ、お母さんが帰ってきたの?」


 玄関から聞こえてくる声で、俺と優香がすぐに母さんだと気づいた。

 そして廊下を歩く音が聞こえ、リビングのドアが開いて母さんが入ってきた。


「ただいまー、愛息子一人と、愛娘二人!」

「おかえり、母さん」

「おかえりなさーい」

「……真紀さん、私は娘じゃないですからね」


 香澄ちゃんをナチュラルに愛娘と数えて帰ってきた母さん、いつも通りだ。


「あら、かすみたん、今日も可愛いわね! 私の娘にならない?」

「むりです」

「うっ……フラれちゃったわ」


 母さんもフラれた、可哀想に。


「誠也、早くかすみたんと結婚しなさいよ! そうしないとかすみたんが私の娘にならないでしょ!」

「ああ、頑張る!」

「うん、頑張って!」

「……ここまで血筋を感じるものなのか」

「すごいねー、さすが誠也くんのお母様って感じ」


 母さんを初めて見た健吾と汐見さんがそんなことを言っていて、驚いているようだった。


「あら、高校のお友達かしら?」

「あ、初めまして、小林健吾です。誠也とは高一からの仲で」

「そうなのね。私は三条真紀、見ての通り誠也と優香の美しい母です!」

「お母さん、恥ずかしいから自分で言わないで」

「娘に恥ずかしいって言われた……」


 また落ち込んでしまった母さん、可哀想に。


「健吾くん、めんどくさい息子だと思うけど、これからも仲良くしてくれたら嬉しいわ」

「こちらこそ」

「そちらの可愛い女の子は?」

「初めましてー、汐見奈央です。真紀さんの娘の香澄と仲良くさせてもらってますー」

「あら、そうなの! いつも私の娘のかすみたんがお世話になってますー!」

「いえいえー、こちらこそー」

「奈央、私は真紀さんの娘じゃないから。それに真紀さんも」


 やはり汐見さんは空気が読めるというか、誰にでも合わせられる能力を持ってるのがすごいな。

 うちの母親は少し個性的なのに……俺が言えることではないと思うが。


「お母さん、今日は仕事じゃなかったの?」


 優香が母さんにそう問いかけた。


「仕事だったけど、午後はお休みなのよ。だからお買い物して帰ってきたわ」

「そうなんだー、お疲れ様」

「優香達はお勉強中でしょ? お昼ご飯は食べた?」

「食べてないよー」

「じゃあ私が作ってあげるわ!」

「えっ、いいの?」

「もちろん! フォアグラでいい?」

「なんで世界三大珍味が昼飯なの? というか買ってきたの?」

「いいえ、キャビアは買ってきたけど」

「なんで!?」

「スーパーで半額セールやってたから、買っちゃった」

「キャビアがスーパーで売られてるの? それに半額セールだったの?」


 優香が母さんと親子漫才みたいのをやっているが、どうやら母さんが昼ご飯を作ってくれるようだ。

 その後、母さんが料理している間、俺達は勉強をせずに休憩して適当に話していた。


「誠也の母さん、初めてお会いしたが……誠也にそっくりだな」

「そうか? いつも俺は父さん似って言われるが」

「いやまあ容姿は似てないが、性格がな」

「容姿でいえば、優香ちゃんが似てるよねー」

「まあ確かに似てるかもですけど……あの胸の遺伝子は私にはこなかったようで……!」

「あはは、まだ成長期だからいつか来るよー。香澄もお義母様に好かれているみたいでよかったねー」

「……なんか言い方に含みがあった気がするけど、まあ嫌われるよりはね」

「私はかすみたん大好きよ! 娘にならない?」

「むりです」

「うっ……フラれちゃった。かすみたんのスパゲッティにだけタバスコいっぱいかけちゃおうかしら」

「やめてくださいよ!?」

「冗談よ」


 うん、母さんと香澄ちゃんが仲良いようで、俺も嬉しいな。





――――――――――


本日から、またラブコメの新作を書き始めました!


「お堅い堅石さんは、僕の前でだけゆるえろい」


本作と同様に、甘々のイチャラブコメに仕上がっています!

ぜひ読んでください!


よろしくお願いします!

(こちらの作品も投稿頻度は遅くなりますが、しっかり続けますのでよろしくお願いします)



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る