第27話 高校生の勉強



 みんなでアラウンドワンから遊んでから一ヶ月近く経った。

 俺や香澄ちゃんは高校二年生、優香は高校一年生になって、いろんな授業が始まって慣れてきたところだ。


 特に二年生になったからといって変わったことはないが、勉強は少し難しくなったかもしれない。


「せ、誠也……助けてくれ……!」


 いつも赤点ギリギリの健吾が、中間試験の時に死にかけているくらいには。


「はいはい、今度は何がわからないんだ?」

「ほとんど全部の教科だが、一番は数学だ。何を言っているのか、全くわからない」

「別に数学に限らず、教科書を見れば大体わかると思うが」

「それは天才のお前だからこそだ、俺には教科書なんて眠気を誘う道具にしかならん」

「そっちの方が何を言っているのかわからないけどな」


 健吾はバスケ部のエースとして活躍しているが、勉強は本当に出来ない。

 まあこの学校は結構偏差値は高めだから、入学できた時点で頭が悪いってほどじゃないと思うけど。


「健吾をバカにしたいのは山々だけど、私も今回は危ないかもなぁ」

「奈央はいつも定期テストの時に出来ない感じで言ってるけど、平均点くらいは取るでしょ」

「あはは、健吾ほどバカじゃないからねぇ」

「くそっ、勉強に関しては何も言い返せねえ!」


 汐見さんも特に勉強ができる方じゃないのか、意外だ。


 だけどバスケ部に入ってて、中間試験の一週間前まで部活で頑張ってるから、それを踏まえると結構頭はいいのかな。


「香澄、今回も一緒に勉強しよー」

「いいけど、私は勉強教えるのは下手だからね」

「学年順位で十位くらいを取る香澄と一緒に勉強してるだけで、頭良くなった感じするから、別にそれでいいよー」

「それはよくわからないけど」

「えっ、今市さんもそんなに頭良いの!?」

「まあ、部活も入ってないし、それくらいはね」

「香澄ちゃんは努力家だからね、そういうところも大好きだ! 結婚しよう!」

「むり」

「ぐふぅ……!」


 フラれた、悲しい。


「というか誠也、お前はいつも学年一位だろ」

「まあ、そうだな」

「くっそ、なんでお前みたいな奴が頭良いんだよ! 高一の時は、絶対に同類だと思ったのに!」

「同類ってどういうこと?」

「試験前とかに『マジで勉強してねー』って言って、裏切ることなく一緒に赤点を取って笑い合うと思ってた」

「嫌だなそれは」

「それなのにお前は、俺が『勉強してねー』って言っても『大丈夫か? 俺は普通にしてきたが』って言って、満点取りやがるし!」


 健吾はいつも試験の時になるとこうして情緒不安定になるなぁ。


 そういうところも見てて楽しいんだが。

 汐見さんも健吾を見てニヤニヤとすごい楽しそうに笑っている。


「誠也は平均点が百点、つまり全教科満点になることもあるしね」

「まあ時々ね」

「本当にすごいねー。そこで虫みたいに机に突っ伏している人とは大違いだねぇ」

「誰が勉強ができないゴキブリだ!」


 そこまでは言ってなかったと思うけど。


「とにかく! 誠也、今回も一緒に教えてくれ!」

「わかった、今日の放課後でいいか?」

「ああ、もう一週間前だから、部活もないしな」

「あ、じゃあさ、私と香澄も一緒に勉強してもいい?」

「もちろん、俺も香澄ちゃんと一緒にいたいし」

「う、うん、じゃあ私も一緒にしようかな」


 久しぶりに香澄ちゃんと一緒に勉強会をするなぁ、楽しみだ。



 そして、放課後。


「お兄ちゃん! 助けてください!」

「優香、お前もか」


 俺達の教室に来た優香が、俺に抱きつき縋りながらそう言った。


「高校の勉強、本当に意味不明! 特に数学が、もう、数学なのに英語の授業してるのかなってくらい、意味がわからないよ!」

「それはもう日本語が理解出来てないんじゃないか?」


 数学の教師も日本語を喋ってるはずなんだから。


「わかる! わかるよ優香さん!」

「はっ! こ、小林先輩! あなたも、同類ですか!?」

「おお! 俺達はおそらく、同類だ!」

「試験前は?」

「寝ずに徹夜で勉強する」

「その日学校に行った時のセリフは?」

「『やっべー、全然勉強してねぇわー』」

「小林先輩! 私達は、同類です!」

「やっぱりだな、優香さん!」

「健吾、俺の妹と変な同調の仕方をしないでくれ」


 ただでさえ優香は時々意味わからないことを言い出すのに、健吾も一緒になるとさらにめんどくさい。


「優香ちゃん、勉強あまり得意じゃないんだねぇ」

「奈央先輩、そうなんですよ。この高校に入学できたのも裏口入学で……」

「えっ、マジか!?」

「健吾、そんなわけないだろ。俺がつきっきりで勉強教えたんだよ。優香もしょうもないことを言うんじゃない」


 今時、裏口入学なんてもんはないだろ……多分。

 少なくともこの学校はないはずだ。


「優香ちゃん、今日はみんなで勉強しようって話になってるけど、一緒にする?」

「香澄お義姉ちゃん、いいんですか!?」

「もちろん」

「ありがとうございます! 今度お兄ちゃんのお風呂上がりの写真送りますね!」

「っ……い、いらない!」

「優香、香澄ちゃんが困ってるから」


 めちゃくちゃ迷った風に見えたけど、多分俺の前だから即答で「いらない」と言えなかっただけだろう。

 香澄ちゃんは優しいからね。


「だけど五人となると、どこで勉強会するのー? 学校の図書室だとうるさくなっちゃいそうだしね」

「そうだな、近くのファミレスとかか?」


 汐見さんと健吾がそう言うと同時に、優香が「あっ」と言って提案する。


「じゃあうちの家でやります? 両親はいないですし、リビングも広いですよ!」

「えっ、優香ちゃん、それに誠也くんもいいの?」

「もちろんです! 私はみなさんの勉強会にお邪魔するわけですし、場所くらいは貸さないとです!」

「まあいいんじゃないか、みんながうちの家でいいって言うなら」

「私はもちろん大丈夫よ」

「私もー、誠也くんと優香ちゃんの家とか気になるなぁ」

「俺はどこでもいいから大丈夫だ」


 ということで、俺の家で勉強会をすることに決まった。


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