第17話 ギャップ?


 私にとっては長い、だけどおそらく一瞬の沈黙がその場に流れた。

 後ろにいる誠也とずっと目が合っていたのだが、その後ろに小林くんがいることも気づいた。


「誠也くん、ついでに健吾、どうしてここに?」


 気まずい沈黙を破ってくれたのは、奈央だった。

 彼女はいつも通りといった感じで、いきなり登場した二人にそう話しかけた。


「ついでってなんだよ。放課後に友達とカフェに来ちゃ悪いかよ」

「いや悪くないけど、タイミングを考えて欲しかったなぁ」

「タイミング? なんか悪かったのか?」

「うーん、健吾には関係ないから、黙っててね」

「なんでカフェに来て早々にこんな扱いを受けないといけないの?」


 どうやら小林くんには、私のさっきの発言が聞こえていなかったようだ。

 だけど誠也には、聞こえているのは確実だった。


「マジで何かわからないけど、とりあえず一緒の席に座っていい?」

「いいよー。だけどここ四人席だから、健吾は床に座ってね」

「側から見たらイジメすぎるだろ。他のところから椅子借りてくるわ」


 ということで、まだ少し気まずい雰囲気のまま誠也と小林くんが合流した。


 私の隣に誠也が、奈央の隣に小林くんが座る。


「……」

「……」


 さっきから、いつもうるさい誠也がずっと黙っている。

 なんで誠也はずっと黙っているのか、全くわからない。


 だけど私は恥ずかしくてそんなこと聞けないし、誠也の顔も見ることが出来ずにいた。


「それで、そっちの子は? 見たところ同学年じゃなさそうだけど」

「あっ、初めまして! 今年から高校に入った、三条優香っていいます!」

「やっぱり一年生か。初めまして、小林健吾だ……ん? 三条って言った? あれ、もしかして」

「はい、そっちの三条誠也の妹です」

「マジか!? へー、誠也にこんな可愛い妹がいるなんて知らなかったなぁ」

「新入生をいきなりナンパってキモいよー」

「どこがナンパに見えたんだよ!?」

「優香ちゃん、健吾は顔は怖いし性格もキモいからあまり近づいちゃダメだよ」

「最悪な他己紹介ありがとな。優香さん、奈央は顔ではニコニコとしてるけど腹ん中は真っ黒で汚いから、自分も汚れる前に離れた方がいいぞ」

「お二人が汚い同士で仲が良いってことはわかりました!」


 目の前で横並びに座っている三人は、いつも通りの会話を続けている。

 というか優香ちゃん、すごいぶっ込んだわね。


 そんな中で私と誠也だけが、まだ気まずい雰囲気を纏ったままだ。


 な、何か会話をしないと……いつも誠也がこういう時はうるさく話しかけてきてくれたから、何を話せばいいかわからない。


「というか、マジでこの空気は何? 今市さんもそうだけど、誠也の様子がおかしすぎるんだが」

「ふふっ、そうだねぇ」

「私も、お兄ちゃんのこんな顔初めて見たかも」


 誠也の様子がおかしいのはわかってたけど、顔?

 さっきからずっと誠也の方を見れなかったけど、どんな顔をしているか気になりチラッと見てみると。


「っ……!」


 頬が赤くなっていて、耳まで真っ赤だった。

 それに表情もほとんど見たことがない、照れてるような感じで視線も下を向いている。


 まさか誠也がそんな顔をしているとは思わず、驚いて誠也の顔をジッと見てしまった。


 すると私が見ていることに誠也が気づいて、私から顔を見られないように顔を背けた。


「いや、その……香澄ちゃん、ちょっとこっち見ないで……」


 とても恥ずかしそうに、いつもより小さく細い声でそう言った誠也。


 初めて見る誠也の様子に、私は……。


(か、可愛いっ……!)


 心の中でそう叫んでいた。


 えっ、なに、今の顔……感情豊かで喜怒哀楽が顔によく出る誠也だけど、こんな照れて恥ずかしそうな顔は初めて見た。

 それに声も、いつもハキハキして大きな声なのに、か弱くて消え入りそうな声……。


 なんというか、そのギャップが……私の心臓を貫いてしまっていた。


 いつもは男らしくてカッコいいと思ってたのに、こんな可愛らしい誠也を初めて見た。


 もしかして、いや、もしかしなくても、私が褒めたことでめちゃくちゃ照れてるの?


 そういえば私、誠也から褒められることはほぼ毎日あったけど、私から褒めることってそんなになかった?

 運動や勉強の結果とかを見て「すごいね」とか言うことはあったけど、あれはいつも「ありがとう香澄ちゃん! 結婚しよう!」とかで流されてた。


 だけどあからさまに容姿を褒めたりとかは、ほとんどしてこなかった。


 まさかあれだけの褒め言葉で、こんなに照れるの?


「せ、誠也?」

「待って……一旦、落ち着かせて」

「大丈夫?」

「不意打ちすぎて、心の準備が出来てなかった」


 誠也の顔を覗き込むように見ると、やっぱりまだ顔が真っ赤だった。

 まさか誠也にこんな弱点というか、可愛らしいところがあったなんて……。


「……誠也、可愛いね」

「っ……! ちょ、ちょっと待って香澄ちゃん」

「そんな顔もするんだ、可愛い。いつもカ、カッコいいと思ってたけど、可愛いところもあるんだ」

「うっ……!」


 誠也はさらに顔を真っ赤にして、私から顔を見られないように片手を上げて顔を隠そうとする。

 ……なんだか誠也の今の顔とかを見てると、いけない気分になってきた。


 私の中の何かが、新しい扉が開かれようとしている気がする。


「おーい、香澄―、戻ってきてー」

「はっ……!」


 奈央の声が聞こえて、私はハッとして目の前に三人がいたことに気づく。


「香澄、なんだかダメな顔してたよー」

「奈央、俺に今市さんの顔を見るなって言いながら目を潰しにくるのはやめてくれる? 普通に言ってくれたら今みたいに目を瞑るんだけど」

「誠也くん以外の男にあんな香澄の顔は見せられないよー」

「そうですね、香澄お義姉ちゃん、なんだかえっちな顔してました!」

「な、なっ……!」


 今度は、私が顔を真っ赤に染める番だった。

 私と誠也は揃って顔を赤く染めながら、互いに顔を見合わせることなく下を向いていた。




――――――――


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