第12話 今市香澄は、自信がない



 中学の時に、誠也が告白されているのを見た。


 卒業式の日、私が誠也の卒業アルバムに書き込みをした後のこと。

 誠也がいつの間にかいなくなっていたから、校舎の中を探して誰もいない教室の前を通った時。


「好きです、誠也くん。よければ、私と付き合ってください」


 そんな声が聞こえてきて、私の身体は魔法をかけられたかのように止まった。


 誰もいない教室で、誠也が告白されている。


 確かこの声は、私達の学年でも人気がある女子の声だったはずだ。

 可愛くて運動も出来て勉強も出来る、私達よりも良い高校に入学する予定の女の子。


「気持ちは嬉しいけど……ごめん。俺、香澄ちゃんのことが好きだから」


 いつも明るくてうるさい誠也、だけど告白を断る時は静かで優しい声だった。

 あまり聞いたことない声色で私のことを好きと断言したので、少しドキッとした。


「うん、知ってるよ。だって毎日毎日、今市さんに告白してたもんね。でもさ、一回も受け入れられたことないんでしょ?」


 その言葉に外で聞いていた私の心臓が跳ねた。


「うん、そうだね」

「だったら、もう諦めてもいいんじゃない? 脈なんてないってわかってるんだから、諦めた方がいいと思うよ?」


 心臓がドクンドクンっと大きく跳ねる。

 確かに側から見たら、私がずっと断り続けているように見えるだろう。


 いや、実際にその通りだ。


 だけど私は、誠也のことが……!


「いや、諦めないよ。俺は香澄ちゃんがずっと好きだから」


 その言葉を聞いて、私の心臓は少しだけ落ち着きを取り戻す。

 しかし誠也に告白した女の子はフラれたくないからか、早口で喋る。


「な、なんでそんなに今市さんのこと好きなの? 誠也くんが高校も今市さんと同じなのも、誠也くんが高校のレベルを落として今市さんと同じ高校にしたって、私知ってるよ」

「えっ……」


 私は思わず声が出てしまい、慌てて口を塞いだ。

 初めて知った。誠也が私に合わせて、入学する高校のレベルを落としてるなんて。


 確かに誠也は頭が良く、中学の期末試験とかでもほとんどずっと学年一位だった。


「そんなことするくらい、今市さんに価値なんてあるの? 私だったら――」

「もういいよ」


 告白した女の子がまだ喋ろうとした時、誠也が少し怒ったような声で止めた。


「毎日告白してフラれている俺を馬鹿にするのはいいけど、かすみちゃんを馬鹿にするのはやめてくれ。とても、腹立たしいから」

「あ、あの、ごめんなさい……」

「……もういいかな? 俺、香澄ちゃんと一緒に帰りたいから」


 その言葉を聞いて、私は教室の外で盗み聞きしている状況に気づく。

 ここにいたらバレてしまうと思い、音を立てないように小走りでその場から離れた。


 その後、校舎の外で誠也を待っていると、誠也はいつものうるさい感じになって「一緒に帰ろう!」と言ってきた。


 私も平静を装いながら頷き、中学最後の日を終えた。


 そのことをキッカケに――私は、自信がなくなった。


 私は、誠也と釣り合っているのだろうか、と……。

 高校が一緒になったのは、誠也が合わせてくれたからだ。


 告白した子が言っていたのは本当で、現に誠也は高校でも学年一位を取り続けている。


 私は特に勉強が得意じゃないし、運動神経も結構悪い。

 誠也は勉強も出来るし、運動神経も並の男子高校生よりも全然良い。


 どう考えても、私の方が釣り合ってないのだ。


 だから、私、今市香澄は――。



 太陽の暖かい光を感じ、私は目を覚ました。


 どうやら私は中学の時の夢を見ていたようだ。


 懐かしいと思いながら、私は学校へ行く準備をする。

 小さい頃から、私と誠也はずっと一緒にいる。


 そしてずっと、誠也に「結婚しよう」と言われ続けた。


 いつのタイミングかはもう覚えてないけど、その言葉をいつか受け入れて、誠也と結婚するんだろうなぁ、と思っていた。


 だけど私は、誠也のために何もしていない。

 誠也は私にずっと想いを伝え続けてくれて、勉強も運動も頑張っているのに。


 だから私は、誠也の「結婚しよう」を簡単に受け入れていい女じゃないんだ。


 もっと私が、頑張らないと。

 だから私は――。


「香澄ちゃん、おはよう! 結婚しよう!」

「おはよう、誠也。むり」

「ぐふぅ……!?」


 私は、自分が誠也と釣り合うと思えるくらいにならないと、「はい」と言わない。


 だから……待っててね、誠也。




――――――――


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