第30話 美しき母娘が経営する宿・ドウォンブーリ※♥

 シルファン王国の「安宿・ドウォンブーリ」の女将、シド・ドウォブーリは憂鬱な表情をしていた。

 早くに夫を亡くし、娘を二人も育てながら、夫が残してくれた自分たちの家であり、宝物である宿屋を守り続けてきた。

 15歳で結婚して長女を産み、次女もその数年後に産んだ。

 幸せの絶頂。家族四人でこれからも……のはずが、次女がまだ物心つく前に夫は亡くなった。

 しかし、まだ幼い二人の娘がいる彼女に悲しんでいる暇はなく、子育てをしながら、懸命に働き続けた。

 シドは昔から体が弱く、レベルも女性の中でも特に低いレベル3。

 ちょっとしたことで体を壊しそうになるも、それでも子を持つ母の強靭な精神力で生き続けてきた。

 そして今では、娘たちも19歳の長女と14歳の娘も母であるシドと同じようにレベルが低く力も弱いが、協力し合って仕事を手伝ってくれるようになり、彼女の負担も少し楽になった。

 まだ20代ぐらいにしか見えない34歳の熟れた女将と、美人な姉と可愛らしい妹……いつしか美人な母娘たちが経営するドウォンブーリは王都でも評判で、いつも母娘たちに想いを馳せる男たちが宿を覗き見たり、時には手助けをしたりして、彼女たちは今日まで過ごしていた。

 だが……


「折れてはいないが、足首の腫れはしばらく引かないだろう。安静にしておくことだ」

「まいったわ……足をくじいてしまうだなんて……」


 鼻の下を伸ばしたいやらしい表情をしながらも、コホンと咳払いして診察内容を告げながら、シドの腫れた足首に包帯を巻いていく中年の医者。


(くぅ~、なんてイイ女だぁ、ハメたい……こ、この体を犯したいものだ……私がもう少し若ければ間違いなく口説いていただろう……私の妻も既に肥えた豚になり、夜の営みなんてもう何年も……この体……これが未亡人で何年も誰にも使われていないなど、何ともったいない……)


 長く美しいブラウンの髪を頭の後ろでまとめている、街でも評判の未亡人。まだ若々しく、それでいて柔らかそうな胸や尻などは熟した魅力と色気溢れるもの。

 ちょっと屈むだけで覗き見れる柔らかそうな豊満な谷間や、すべすべの足に医者の男は興奮が止まらない。

 対してシドは顔が暗かった。



「先生……その、どうにかすぐに治る薬や、治癒魔法はないものでしょうか……私には仕事が……」


「ん、あ、あぁ、いや、無理は……薬もすぐに治るようなものは、やはり強い薬になってしまい、法律上ではレベル4以上でなければ服用してはいけなくてね……シド……君はレベル3であろう?」


「ッ……レベルが一つ……足りない……からと……」


「魔法も同じで……気の毒だが……」


「そうですか……」



 シドの体の弱さは遺伝のようなものであり、それは娘たちにも継がせてしまった。

 そのレベルによる壁によって、今まで多くの苦労をしてきた。

 シドも、娘二人も、「あと一つでもレベルがあれば」……そんな想いを抱いたことは数えきれないほどであった。

 そして、今もそうである。


「で、でも、今は繁盛期でして……どうにかならないでしょうか? 今ここで頑張らないと、経営が……娘たち二人だけでは、部屋の掃除から洗濯にシーツの交換、食事の準備や皿洗いまでは……私一人なら慣れていたので何とかなりましたが、まだ娘たち二人だけでは……お手伝いを雇う余裕もなく……何とか……何とかあの宿を残したいのです! 先生、どうか……」


 中年の医者に縋りつく涙目のシド。

 その触れられた温もりと、意図せずに腕に接触してしまった未亡人の柔らかい乳房に、中年の医者はゴクリと唾を飲み込み、そして悪魔のアイディアが浮かんだ。


「な、ならば……シド……こういうのはどうだろうか?」

「え?」

「も、もしだ……もし君が……わ、私のだね……私の、その、言うことを何でも聞いて……私の妻や周囲には『内緒の関係』になってくれるのであれば……金銭的な援助をするというのは……」

「ッッ!?」


 その男のいやらしい笑みに、シドは顔を青くしてバッと中年の医者から体を離す。


「せ、先生……な、なにを……」


 その悪魔の提案。それはシドに男の愛人になれというものであった。


「い、いや、例えで言っただけでだ……いや、君が嫌ならそれでよいのだ。ただ……そうすればお互いに得をするのではないかとなぁ……君もだいぶ……ご無沙汰であろう?」

「ッ、な、なんてことを……ッ!?」


 冗談では済まされないゲスなことを口にした医者を睨みつけるシド。

 しかし、医者はもうここまで打ち明けたのならと、大胆にシドに距離を詰め始めた。


「娘のレミちゃんもファソラちゃんも大変だろう? それに、結局宿屋が潰れてしまったらどうなるのかな?」

「そ、それは……」

「まぁ、レミちゃんは君に似て素晴らしい体つきの美人で、妹のファソラちゃんはまだ未成熟だがとても可愛らしい……二人とも『そういう』仕事には困らないだろうが……それは君も嫌だろう?」

「ッ!?」


 そのとき、シドは怒りに任せて医者の頬を叩きそうになった。

 自分の命よりも大切な愛すべき二人の娘のことを穢すような発言に。

 だが一方で……


「しかし、君が私一人だけの相手をたまにしてくれるのなら、私が援助を約束しよう」


 絶対に嫌だ。汚らわしい。こんな男の愛人になるぐらいなら死んだ方がマシだ。

 しかし、もし宿屋が潰れ、家族が路頭に迷うようなことになったら?

 自分一人だけならいいが、娘たちは……それこそ死ぬよりもつらい未来が待っているかもしれない。

 だが、今なら……


「わ、私は何をすれば……」


 今なら自分が目の前の男に抱かれるぐらいでどうにかなるのなら……


「ぐふ!! そ、それはもちろん、わ、私と……夜遅くにこの病院のベッドで、わ、私を、お、おおぉおおお!」


 医者は激しく興奮し、悦びに満ちた表情でまくし立てる。

 その言葉にシドは眩暈がしそうになった。


「そ、そうだな、ま、まず差し当たっては……スカートを捲りなさい」

「ウッ、せ、せんせい……」

「ほ、ほら、スカート捲って、パンツを私に……」


 もはや医者と患者という立場すら忘れている男は鼻息荒くしてシドの股間を凝視。

 その要求にシドはこみ上げる涙や亡き夫への想い、娘たちへの想い、あらゆる葛藤を抱きながらも、震えた手で長いスカートの裾を捲り上げる。

 平民の質素な服は、既に男や恋愛ごとを意識しなくなった地味な緑を基調としたワンピース。

 しかし、それを捲れば、色気のある紫のショーツが顔を出す。

 仕事と苦労を積み重ねた女の蒸れた体臭と共に……



「むほぉおおおお、お、おおお、よい! よいぞ、シド! なんだこんなパンティーを穿きおって……き、君も、いつでも男とシてもいいようにセクシーなものを穿いていたのか!?」


「ち、ちがいます……も、もう、顔を近づけないで……ください……」



 蛙のような顔をした太った中年がショーツに顔を近づけて凝視し、匂いも嗅いでいる。

 恐怖と鳥肌でシドも震え上がる。 

 が、こんなもので許されるはずがない。


「な、何を言っているのかね? さぁ、全部中身を見せなさい」

「ッ!? う、あ……あぁ……」


 そう、ショーツを見せるだけで済むはずがない。

 そして、ここから先へ行けば、本当に後戻りが出来なくなる。

 しかし、もうどうすればいいか分からなくなったシドは、自身のショーツに手を添えて、ゆっくりと……



「先生ぃ、診察はまだ終わらないでしょうか~? 本日は王宮で医師会の予定ですが~」


「「ッッ!!?」」



 そのとき突然、診療室の外から診療所の受付の女性から声が聞こえてきた。

 その声と共に、慌てて二人は離れて、シドも服を整える。


「く、そうであった……ぐぅ……もう少し……」


 ここに来て、医者の男は外せない用事を思い出した。

 それは美味そうな御馳走を目の前にして、見ただけで食べることができなくなったような悔しさ。

 一方でシドも俯いて……


「……きょ、今日は……帰ります」

「う、うむ、そうだな! 今日は私もこの後用事もあるし、明日以降……私はいつでも待っているので、いつでも来るとよい!」


 とにかく今日は助かった……が、医者の男にとってはもうシドは愛人になることを了承したものと認識したような態度で、そのことにシドも何も言うことができなかった。

 シドは唇を噛みしめながら、松葉杖をついて診療所を後にする。

 そして、診療所の入り口では……


「セツカ、本当にエイセイは大丈夫なの? 連れてこなくて」

「はい。自分で大丈夫と言っているのですし大丈夫なのでしょう。骨折などしているようにも見えませんでしたし、彼は怪我には慣れてますから」

「い、いや、そうじゃなくて……宿の部屋にその……アクメルと二人にして……本当に気絶しているアクメルに、その……」

「何度も言うように大丈夫です。何だかんだで、彼は意識を失っている相手に強姦はしません。和姦と言い張っても、起きていない相手にはしませんよ。エッチするのであれば、女騎士様が起きて、ちゃんと口説くか交渉してから……まぁ、意地悪な発言で追い詰めるのでしょうけど……」

「そ、そうなんだ……まぁ、ちゃんと口説くのであれば私からは……でもなぁ~、あいつ最低な奴だしなぁ~、なんか今になって色々と心配に……」

「随分と気にされていますが、カミラさんはあの女騎士様とお知り合いなのですか?」

「ん~……ま、昔……のね」


 そこには、額や顔に傷を負った刹華と付き添うカミラが居た。

 さらに、チョコンとその二人と一緒に……


「あっ、おかーさん!」

「ファソラ!?」


 ファソラも一緒に居た。

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