鎌使いの転生者

Ryu-ne

第1話 神々の茶会

見渡す限りの青。言うならここは天の国だろうか。地面は雲でできており、しかし決して壊れることのない不思議な力がかけられている。


そして、そこでは。たった今から、神々の茶会が行われようとしていた。




「珍しいですね、錬金術神。それに鍛冶神も。あなた達と会うのは『神魔大戦』以来でしょうか。

あなた達も茶会に呼ばれたのですか?」


そう声をかけられたのは体の細い青年と筋肉隆々で身長の小さいおじさんがいた。

青年は白いシャツに黒いズボン。更に白衣を着て、片目の眼鏡をかけている。

おじさんは頭にタオルを巻き、その上にゴーグル。ベルトに金槌のホルダーがついており、彼の愛用の槌はそこにしまわれている。


「そうだね。何の用事かわからないから困惑しているよ。鍛冶神もそうだろう?」


「はっ!儂の作業中に入ってきたかと思えば茶会をするなど!嫌だ、と言っているのにあいつ、儂を引っ張ってここまで連れてきおった!せっかく神器を作ろうと息巻いておったのに、台無しじゃ!」


「僕も同じだね。君も同じなんだろう、魔術神」


そう呼ばれた少女は頬をかき、困った顔を作る。

紺色のローブにピンク色の髪。透き通るような碧眼に丸眼鏡をかけている。小柄な体は白い椅子と机にもたれかかっている。

さらにその手の中には女の子には似合わない無骨で厚い本があった。


「私も新しい魔術の開発をしたかったのですが、火神に言われてしまって…」


「やっぱり。何で僕達を呼んだんだろうね?」


「どういうわけか説明してもらいたいの、火神よ」


雲に目を向ける鍛冶神。するとそこから、空間が歪むように一人の女性が出てきた。肌は日に焼けて黒く、肉体は健康的そのもの。その胸の大きさが何よりも物語っている。

性格は情熱的で、何事にもまっすぐ取り組む姿勢は他の神々から評価されている。単に単純で、面倒くさいことを快く引き受けてくれるのも、彼女のイメージが良い理由の一つだろう。


「あっ!やっぱし鍛冶のおっさんにゃバレちまうか!難しいもんだな、気配を消すのって!」


「姿は隠せていても、神気でバレバレじゃ。もう少し、鍛錬を積むべきだと思うぞ」


「僕も気づいてはいたけど、きっと君から話してもらうほうが早いだろうから待っていたよ」


「二人に同じです…」


「うえっ!?まだまだだなぁ、コレ。もっと頑張んねぇと!」


鍛冶神と錬金術神は喋りながら白い椅子に座った。しかし、火神は椅子に座ろうとしない。それに遠くを眺めて、誰かを待っているようだ。


「あの…他にも神を呼んだのですか、火神」


「まぁな!他ならぬ創造神様からのお願いだったしな!他の神は水神や土神、風神が呼んでいってる。光神や闇神はいつもどおり創造神様の護衛だ」


自慢気に語り、胸を張る火神。それに伴って揺れるたわわな果実。それに目がいく魔導神。彼女の胸は火神よりも小さいというより…貧乳だった。

自分の足元がスッキリ見える。これが持っている者との差か…と少し落ち込んでいるようだ。


すると火神の前に突然少女が現れた。


「火神。呼んできた。剣神と賢神と拳神。それと、護神と弓神も」


「おおっ!流石だな、水神!」


そう言って水神の頭を撫でる火神。水神の見た目は内気な少女である。髪も目も海色。淡い水色のワンピースがチャームポイントらしい。


「一体どういうつもりで呼んだ?私は鍛錬の時間を削ってここに来ているのだが」


「私はぁ〜、別にぃ〜特に用もないのでぇ〜、別にいいですよぉ〜?」


「私もです。それに剣神。私達神にとって、時間というのはさほど貴重なものでもありませんよ?それに急いては事を仕損じます。慌てずにゆっくりと行きましょう?」


それぞれ口にする剣神、賢神、拳神。彼女達は三つ子で上が剣神、下が拳神だが、お姉さん力が高いのは拳神。3人とも髪は亜麻色で、三つ子なので顔が似ているが、見分けやすいのは彼女達の服装だろう。


武士のような鎧と刀を持っていて、髪を後ろで結んでいるのが剣神。

何も持っていないが、首に賢神の大書庫の鍵をぶら下げているのが賢神。

道場着のような物を着て、拳に武器をはめているのが拳神である。


「推測、重要であることは確かである。だが、神々とて時を無駄にすることはあまり良くない」


「………………………はぁ」


大柄で、ゆうに2メートルを超える身長を持ち、背中に大盾を担いでいる男が護神。

だんまりとしていて小柄な少年だが、背中の弓筒と迷彩色の服を着ているのが弓神である。


「あらあら!私が一番遅れたのかしら!…違うわね、この様子だと風神が一番遅れているのね!安心しましたわ…」


「あ、あの!土神さん、な、なんでこんなに人がいるんですかぁ!?」


金色の髪とトパーズ色の瞳を持つのが土神。服装は神らしく白色のドレスを纏っていた。しかし神の中ではそういう服装はむしろ珍しく、意外にも堅苦しいことを守る神々の良心である。

そして彼女の後ろに隠れ、周りの様子を窺っている少年が、愛神である。小柄な体に金色の髪。どこか小動物の様に感じさせる彼は100年に一度、絶世の美少年となり、誰かの愛を手伝うと言われている。


そしてそんな神々の上空から一人の少女が落ちてきた。


「おおっ!妾はこの中で一番遅かったのか…。まあこういうこともあろうて。大体、妾が遅れたのはコヤツのせいじゃ」


体の一部、腕や足などに風の紋様がついている少女。緑色の髪の金色の目を持つ、風神である。


そしてその後ろに、一人の少女がいた。

白銀の髪に、紫紺の目。小柄な体ながらもその背には少女が持つにはふさわしくない、大鎌があった。

その表彰は暗く、感情が抜け落ちたようなさまだった。そう、彼女こそが最後にこの場に集まった神、鎌神だった。


「……………………」


全員が用意された椅子に座る。


「皆揃ったみたいだね。それじゃ神々の茶会を始めようか」


天からの声。それは聞くものが聞けば天啓だと泣いて喜ぶようなものだろう。光が差し込んだかと思ったら、3人の神がそこに現れていた。


右と左に2人、それぞれ白と黒の軍服を着て、一人の神の従者のように立つ二人の神。

白色の髪の女性が光神、黒色の髪の女性が闇神だ。


そして彼女達が守る主こそが、星を創り、神々を創り、生命を創った存在。人族は彼を創造神と呼ぶ。

創造神は眩い後光により、姿は見えない。だが、そのオーラが、神気が、そこにいると告げている。


「今回、皆に集まってもらったのは他でもない。今度、僕は異世界から人族を転生させる。いわゆる、転生者を創る。これを実行する理由として挙げられるのが、『魔王の誕生』だ。

たった今、世界に魔王が生まれてしまった」


告げられる驚きの事実。それも無理はないだろう。なぜなら、魔王が誕生するのは『神魔大戦』以来、2000年前のことだった。魔王とはこの世界に存在する魔族という種族の中で、高等な存在へと進化した者のことをそう呼んだ。

かつて神々と魔王とその配下との間で『神魔大戦』と呼ばれる戦いが繰り広げられた。魔王は配下とともに天界へと侵入し、創造神を殺すつもりだった。

だが。そんな魔王とその配下はある一人の神が自らの命を賭した一撃で、消滅した。


そうして『神魔大戦』は伝説の戦いと呼ばれる程の出来事であり、神々達の中で記憶に鮮明に残るほどの出来事だったという。

そんな魔王の誕生。魔王を倒した神はもういない。さらに、神は力を地上で使ってはいけない。生命を持つものに神が介入して力を振るえば、どうなるだろうか。もちろん、地上の被害は甚大であるため、下手に戦いを挑むことはできない。


そのため、神々は、半神デミゴッドを地上に送った。半神デミゴッドとは転生者達が神々よって鍛えられた存在。神ほどの力は持たないが、それぞれが一騎当千の力を持つ最強の人族である。

だが、それでもなお足りない。それほどまでに事態は深刻である、ということを神々は理解した。


「そこで皆にお願いがある。転生者を鍛えてほしいんだ。君達以外に他の神にも話をつけてある」


創造神はこの事態を見越して、神々達に転生者を鍛えてさせよう、と考えていたのだった。


「儂から質問じゃ。具体的に何人転生者を連れてくるんじゃ?」


鍛冶神が手を挙げ、質問を創造神に問いかける。


「成功して40人。だけど半分くらいは世界を超える移動をする影響で消えてしまうから、大体20人くらいだと思う。他に質問は?何か反論はない?」


創造神が周りを見渡し、反論する者を探す。そしてその中から一つ、手が挙がった。


「…………私は、やらない」


「どうしてなのか、教えてくれるのかな、鎌神」


「………………もう二度と、この鎌の使い方を教えたくない」


そう言って自分の持つ鎌に抱きしめる鎌神。その顔は何か昔のことを後悔をしたような、泣くのをこらえているような、そんな顔だった。


「鎌神。あなたの師匠については私もとても悲しいことだと思っています。けれど、そうやってずっと後ろを向いていても、きっとあなたの師匠は喜ばないですよ?」


生まれた日が近く、昔は鎌神のお姉さん代わりをして、仲が良かった魔術神。泣きそうになる鎌神の頭を撫でようとしたが、その手は鎌神によって払われた。


「…先代鎌神は、師匠は神の中でも最強と言われていた。私はまだ弟子で未熟な存在だった。だから師匠の役に立つことができなかった。でもそれじゃあどうして!師匠が死ななければならなかったの!?師匠は創造神を守るために命を落とした!けれど元はと言えばあなた達神々が魔王よりも弱かったからでしょう!?師匠はあなた達の、私の力不足で死んだんだ!なぜ実力を持たない私を神にしたの!?なぜ魔王に負けるような神々を創ったの!?私は、私の力は!創造神の命を守る盾じゃない!!」


小さい子供のように泣きながら叫ぶ鎌神。しかしその感情は、小さな子供が持つには余りにも重く、悲愴な感情。自分には到底できないことへの責任と重圧が、自身の未熟さによって師匠を失った後悔が、誰も師匠の力になれなかった神々への憎悪が、彼女自身を2000年もの間、縛り続けた。


神々も自分達の力が足りなかったことに少なからず責任は感じていた。だから、鎌神の言うことに反論ができなかった。


「……今回の事は、勝手にしておいてほしい。私は誰とも関わりたくない」


そう言って、鎌神は席を立ち、何も言わず去っていった。どこか重たい空気が流れる。


神々も自分達の力不足はわかっていた。だが、先代鎌神は傷つく仲間を見捨てるような人物ではなかったのだ。

自分を犠牲にしても守りたいものがあった。その存在は今、先代鎌神がいなくなり、泣きじゃくるただの子供になってしまった。


その罪悪感は神々に残っている。


「……とりあえず、続きの話をしようか。転生者を鍛えると言っても、期間は特に定めない。むしろ転生者がこれぐらいでいいかな、と思ったら自主的に地上に降り立ってもらう。鍛える内容についても、君達が決めてくれて構わない。2人の神から同時に鍛えてもらうというのも可能だ。…というわけで僕からの詳しい話は以上だ。反対意見は…無くはないんだろうけど、不在者は意見に賛成にカウントするからね」


それぞれの神は自分達がやるべきことをしっかりと見定めたようだ。



「それじゃあ、神々の茶会はこれにておしまい。2日後、転生者を呼ぶからそのつもりでいてくれ」



そうして神々の茶会は終わり、神々は転生者を迎え入れる準備をした。





そして2日後。創造神は神の力を使い、転生者を呼び寄せた。



これはそんな転生者の中にいる、一人の少年が後に伝説として語られる『鎌使い』になる物語。

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