第3話 孤独の才能

えらい苦労しないと、火星まで行けないし、住めない。


じゃあ、どんな奴が選ばれて行くことができるんだ!


そんな喧々諤々けんけんがくがくの議論を耳にしたのは遠い昔のようだ。


僕は、火星移住者エリートとして、現在、火星で過ごしている。


狭い特殊なハウスでずっとゴロゴロしながら、タブレットで漫画を読んでいる。


僕には何の特技も無い。


並み居る、スーパーヒューマンを押しのけて、僕が火星移住権を得た。


温暖化と地殻変動で崩壊寸前の地球には、僕より優秀な奴がわんさかいる。


僕は簡単に言うと、ひきこもり生活を30年送っていた。


年に1,2回家から出れば、いい方だ。


ほとんど、狭く暗い自室でゴロゴロしていた。


食事にこだわりもなく、人と会話をしなくても全く平気だ。


ひきこもり始め10年間は親に面倒を見てもらっていたが、親が死んでからはデリバリーで食いつないだ。


金銭面はベーシックインカムで、月に7万円貰えるので困ったことはない。


生活必需品は全てAmazonだ。


運動しない割りに健康状態もよかった。


虫歯も無い。


ある日、イタズラ気分で火星移住権選考会に応募した。


火星移住権利が年に数人選抜されていたことだけは知っていた。


選考基準が曖昧であり、火星移住を熱望しているエリートたちは苛立っていた。


僕がなぜ火星移住を希望したかというと、火星に行くまでの訓練はほぼ、「孤独」条件をクリアできるかが鍵となっていると、2ちゃんねる情報で噂があったからだ。


人間は孤独に弱い生き物だ。


僕は孤独に強いと自負していた。


どんなに凄い奴でも、孤独で精神を病む。


火星に移住してからも、ほぼ孤独生活が待っている。


多分、孤独に負けても地球には帰れない。


僕は孤独には慣れているし、火星で一生ゴロゴロできるなら、いいかなぁと思った。


欲しいものも特に無いし。


優秀な連中と比較すると、何の特技も無いし、優秀でも無い。


ひきこもりの能力は、地球上では価値が低いが、火星では有能者となりえた。


僕のひきこもり才能を見出した人は凄いと思う。


不思議なこともあるもんだと思いながら、今日も火星でゴロゴロしている。


火星には特に興味がないので、まだ外には出たことはない。


僕みたいな奴らが、その辺の特殊ハウスに数十人いるみたいだけど、多分これからも顔を合わせることはないだろう。お互い興味ないからね。


火星に行きたい人、種の保存を希望している人は「孤独」をまず克服してください。




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