やっつ。1年後、私の好きな人

 秋と別れてから一年が経ち、気づけば私は27歳となっていた。

秋はショートカットの子が好きだと前に言っていて、その時の私は「そうなんだ」とただ頷いておきながら、髪を短く切ってしまったことがある。

今はやっと胸の辺りまで伸ばせた。

 「まあ、その人に似合った髪型が一番良いけどね」と秋は付け加えていた。秋は短くなった私の髪を見て「随分短く切ったんだね」としか言わなかった。

 秋と別れた後の私は早く次の人を探したくて仕方がなかった。早く秋のことを過去にして、早く大好きな人を見つけて恋愛がしたかった。全ては辛い気持ちから目を逸らすため。私は暫く泣かなかった。

 その時の私は暇が大嫌いで、考えてしまう余地を自分に与えないよう必死だった。隙間を埋めようと、スマホを操作する。

映画を見ようと検索をかけようとしていた刹那、指が止まった。視聴中の映画一覧——その映画はあと30分ほどで終わるところで静止したまま。

『ユウくんが変わっちゃったんだね』

 秋が画面の中を見つめて、ぽつりと言った。ユウくんとは、主人公の恋人だ。

『菜乃花、眠い?もう寝ようか』

 秋に寄りかかってしまうと、秋は私の頭を何度か撫でて柔らかくそう言うと、私をベッドまで運んでくれた。

「——。」

 ほろ、と涙が一粒落ちたのに気づいた時には、すでに胸の奥が熱くなっていた。苦しい、と心の中で言葉が落ちていき、体中に広がっていく。

 映画の結末は知っていた。出会って恋に落ちて幸せな時を過ごした男女は、時の流れと共に少しずつずれていき、最後には別れてしまう。

 私と秋は、彼らの最後を二人で見届けないまま別れてしまった。

 別れてからの一年間、秋を過去にできなかったわけじゃない。

秋を忘れられなくて、今でも好きで一途に想っているなんてこともなくて、ただ恋愛をすること自体が重くて辛いものになってしまった。

 出会って付き合ったとしても別れてしまったら辛いし、またマッチングアプリをして一から関係を構築していくことも億劫だ。

「すみません、試着いいですか?」

 今日は結婚式に出席するためのドレスを買いに来た。

 ——試着室で思い出す人が好きな人だ、と、なんとなく思い出してしまう。

 私は試着を素早く終わらせ、お手頃な価格のドレスを購入した。

「由紀ちゃん、久しぶり!」

「菜乃花!元気だった?」

 結婚式当日。式場に着き、由紀ちゃんを見つけて駆け寄った。最近は忙しくてなかなか会えていなかったから嬉しい。

 由紀ちゃんの指には結婚指輪が嵌められ、それは光を内包していた。由紀ちゃんは半年ほど前に颯くんと結婚して、今、お腹には赤ちゃんがいる。

「お腹触ってもいい?」

「どうぞ。まだ全然わからないけどねー」

 由紀ちゃんは顔を綻ばせて笑った。私はまだ膨らんでいない由紀ちゃんのお腹に触れる。

 ここに小さな命が宿っているんだ。

「由紀ちゃんの赤ちゃん、早く抱っこしたいな」

「もちろん、抱っこしてね。楽しみ」

 由紀ちゃんとチャペルへ向かう。

 今日は高校の同級生の結婚式だ。

 美久ちゃん、というクラスのマドンナ的存在だった子だ。性格も優しくて、みんなのことを気遣える子。そのうえ可愛い。

 こんな完璧な子、本当にいるんだと高校生の私はひどく驚いたものだ。

 美久ちゃんの友達付き合いは広く、こうして私と由紀ちゃんも結婚式に呼ばれるくらいだ。たまにある同窓会でしか顔を合わせない間柄で、連絡先も知っているだけで何気ないメッセージを送るような関係性でもない。

 高校のクラスのグループラインで「今度結婚式をあげる予定です。みんなに招待状を送りたいので住所教えてください」と、可愛い女の子のまわりにハートがいっぱい付いているスタンプ付きでメッセージがきた。

 すぐに「予定があるので行けません」と、美久ちゃんから日程のお知らせがある前に返事を送っている子達が数人いた。

 私と由紀ちゃんは特に断る理由もなく出席したわけだけれど、美久ちゃんは必ずしも良い子としてみんなの目に映ってはいなかったのかもしれない。

 私から見て完璧な女性だったとしても、他人からみれば自意識過剰な女性に見えているのかもしれないと、その時、気づいた。

気遣いが上手な子は、きっとあんなメッセージを送らない。私は所詮、美久ちゃんの上辺しか知らなかった。

 パイプオルガンの音がチャペルを満たしていく。私は顔を上げて、入場してくる美久ちゃんを見つめる。純白のドレス。幸せそうな美久ちゃんはすごく綺麗だ。

 「幸せ」は羨ましい。

「わあ、美久ちゃん綺麗だね」

 隣の由紀ちゃんが感嘆の声を上げた。私は「本当だね」と頷く。

 どうしても想像してしまう。視線を上げたその先に自分の大好きな人が待っていてくれる幸せを———。

 友達はみんな、愛する人を、愛してくれる人を見つけて笑い合っているのに、私は。

「菜乃花?大丈夫?」

「え?」

「ほら、移動するよ」

「う、うん!」

 考え事をしていたら反応が遅れてしまった。由紀ちゃんの後を追って会場へと移動する。

「受付でご祝儀を渡さないと」

 そうだね、と頷いて、新婦の受付で順番を待っていると、隣の新郎の受付のところに三人、スーツを着た男性が来た。なんとなく顔を上げてしまったのは、声が、似ている人がいたから。

「幸せそうでよかったな。美久ちゃん綺麗だし、羨ましいよ」

「お前の奥さんも綺麗だろ」

「最近は化粧っ気がないけどな」

「相手がいない俺からしたら羨ましいよ」

「何言ってんだよ、秋。お前、さっきから新婦側の女の子たちからチラチラ見られてんぞ」

 目を見開いて、固まってしまう。

 ——秋。目元が優しく緩む笑い方。背格好、声。柔らかい、その、声。

「次の方、どうぞ」

「は、はいっ」

 秋がこちらを見た気がした。私はご祝儀を渡して、由紀ちゃんの元までぎこちなく歩いていく。秋。秋だった。あれは、秋だ。

 嬉しいよりも、心がざわついた。心臓が嫌な鼓動をたてている。気持ちを落ち着かせなきゃ。

「由紀ちゃん、ごめん。お手洗い行ってくるから先に行っててくれる?」

「うん、わかった。菜乃花、なんだか様子が……。」

「ごめん、ちょっと、ひとりになりたくて」

 由紀ちゃんは眉を下げて「わかったよ」と頷いたけれど、心配そうに私のことを見つめていた。トイレで一人になって、落ち着いたら会場に戻ろう。

 いっぱいいっぱいだ。

 この一年間、私は誰とも付き合わなかった。ううん、付き合えなかった。

 何でもかんでも秋と比べてしまうから。それは良いことも悪いこともだ。

 例えば、杉本くんとデートに出かけてみた時なんて、最低だけれど秋のことばかりを考えてしまっていた。秋とならゆったり言葉を交わせるのにな、って。

 杉本くんの好意には気づいていた。だからこそ、申し訳なくて私の方から離れた。まだ秋が好きだったから。それでも杉本くんは一生懸命に私と向き合おうとしてくれた。けれど、私には杉本くんとちゃんと向き合う心の準備さえままならなかった。

 最近はやっと思い出にできて、ただ恋愛をするのが億劫なだけだと、そう思っていたのに。

 一年間、ちゃんと辛かった。

大好きな人が目の前からいなくなる辛さなんて、もう二度と経験したくない。

 始まりは、どうしても願ってしまう。どうかこの人とずっと一緒にいれますように、って。

 化粧室でぼんやりしてしまう。

 動揺している。心臓がはやいし、何度も何度も、秋の横顔を、私の好きな鼻の形を思い出してしまう。

 別れたあの日から秋とは会っていない。

 秋に話しかける?——どうして?復縁を望んでいるの?——私達はあの時、もう終わったのに。

「……早く戻らなきゃなのに」

 披露宴が始まる。それなのに、足が動かない。

 菜乃花、と呼ぶ声が彷彿して、俯く。

「私は、秋の、彼女でも、なんでもない」

 ひとつずつ、唇をしっかり動かして、言葉を、声を、自分の耳に入れる。

「行かなきゃ……。」

 ふらふらと化粧室を出て会場へと向かう。ヒールがカーペットに埋もれていくようだった。足取りは重い。

自分でもどうすればいいのかわからず、気持ちの言語化ができない。会いたい気持ちと会いたくない気持ちとがぶつかり合い、混ざり合う。

ふと人の気配を感じて顔を上げる、と。

前からスーツの男性が歩いてくる。

秋だったらどうしよう。

胸がギクリと痛み、足を止めてしまう。

彼からやっと目が離せたのは、秋じゃない、と顔を認識するまでだった。

「……あの、大丈夫ですか?顔色が悪いです」

 男性とすれ違う時、彼は私の顔を窺うように声をかけてくれた。

「……すみません、大丈夫です」

 助けを求めているように見えたのかな、とも思ったが、知らない女が自分のことを凝視しているだなんて怖すぎると気づいた。

 私があまりにも視線を注いでしまった所為で、彼は声をかけざるを得なかったのだろう。

「でも、どこかで休まれた方が」

「菜乃花?」

 彼の声と重なった男の声に、息を呑んだ。

 すらりとして、私が知っている秋よりも大人びた顔をした秋がこちらへ近づいてくる。

 足が動かなかった。

「やっぱり菜乃花だった。受付の時、似てるなって」

「……秋、」

「顔色が悪いな。体調悪い?」

 秋は目の前まで来ると心配そうな顔をして、付き合っていた時と同じ柔らかい声を出す。

 私は秋の所為でこんなふうになっているのに。そんなことなんて露知らず、秋は普通に接してくる。こっちは貴方のことばかりを気にしているのに。

「ん?こちらの方は?ああ、もしかして旦那さん?」

 顔色ひとつ変えずに秋は男性へ目を向ける。

再会して動揺しているのは私だけなんだ。

それに気づいた途端、恥ずかしさが這い上がってくる。顔が熱くなって俯いた。

「いえ、僕は通りすがりの者で。体調が悪そうだったので」

「そうだったんですね。お気遣いありがとうございます」

「では、僕はこれで」

 心配してくれた男性は軽く会釈をして去って行った。

 残された私と秋の間には沈黙が流れている。

 どうしよう。秋の顔が見れない。

俯いたまま、なんとなく秋の手に視線がいってしまった。左手の薬指に指輪は嵌められていない。そういうことをチェックしてしまう自分があざとくて、自分のことが少しだけ嫌いになる。

「やっぱり体調が悪そうだ。そこに座ろう、菜乃花」

 秋の手が私の背中に触れそうな気配を感じて、反射的に一歩後ろに下がった。

 目を丸くした秋と目が合って、私は自分の行動に、はたと気がついた。

 秋に触れられたくない。

秋は一瞬悲しそうな顔をした後、眉を下げて優しく笑った。それから目を伏せて「……ごめん」と呟く。

「ごめん、あの、私……。」

 言葉が出てこない。上手い言い訳を、なんでもいいから。

 ——菜乃花。

 ああ、おかしいな。

 彷彿するのは、あの頃の優しい秋の声。目の前の人と同じはずなのに。

「菜乃花、落ち着くまで座っていよう」

 体の内側が静まっていく。胸のあたりに手を置いて、俯いた。

 秋といると居心地が良くて、落ち着いたあの頃を思い出してしまう。

「……秋、元気そうでよかった」

 伝えなきゃ、とあの頃は必死で言葉を紡いでいた気がするのに、今は静かに緩やかに、私の内側が言葉となっていく。

「うん、元気だよ」

 秋は目を細めて微笑んだ。柔らかいままなんだな、となんだか安心してしまった。

 ゆったりとした沈黙の中、私が落ち着くまで秋は隣にいてくれた。

「もう大丈夫だよ。ありがとう。披露宴、行かなきゃ」

「一緒に、」

 ううん、と首を横に振る。秋は動きを止めて、「そっか」と小さく呟いた。

「今日、会えてよかった」

 ちゃんと笑えていたかはわからないけれど、その言葉を言えた自分を褒めてあげたいと思った。

 秋は「俺も」と少し寂しそうに笑った。



「菜乃花、やっと戻ってきた。大丈夫?」

 姿勢を低くして披露宴の席に着くと、隣に座っていた由紀ちゃんが小さな声で心配してくれた。前では新郎側の友人がお祝いの言葉を述べている。

「ごめん、実は秋がいて」

「っ!?大丈夫だったの!?」

 名前を聞いて由紀ちゃんは口元を手で押さえ、ひどく驚いていた。まさかその名前が出てくるとは思っていなかったのだろう。

「大丈夫だったよ」

 自分に言い聞かせるように言葉を発した。大丈夫。私は、大丈夫だ。

 左隣からふと視線を感じて目を向けると、男性が心配そうに私を見ていた。

「……本当に大丈夫でしたか?」

 この人、誰だろう。新婦側の友人席に座っているから美久ちゃんの知り合いなんだろうけど……。

 微かに煙草の匂いがした。

「さっきの方とあまり話したくなさそうだったので大丈夫だったかな、と」

 『さっき』と聞いてハッとした。秋と会う前に凝視してしまった人だ!

「さっきはすみませんでした!ご迷惑をおかけしてしまって」

「いえ、そんな」

「あっ……すみません」

 声のボリュームが大きくなってしまい、恥ずかしさに体を縮ませる。

「体調が優れなかったら遠慮なく言ってくださいね」

「ありがとうございます」

 彼は柔らかく微笑むとグラスに手を伸ばして私の方はもう見なかった。

 いつの間にかスピーチが終わり、周りは食事を楽しんでいる。新郎新婦と写真を撮っている人達もいた。

 もう一度隣の彼を見ると、食事へ目を落とし、前菜を食べようとしているところだった。睫毛が長い。前髪はわけられ横へ流されている。ワックスできちんとセットされた髪は黒く傷みがない。

「大晴(たいせい)くん、久しぶり」

「優子さん!お久しぶりです」

 違うテーブルにいた女性が彼に話しかける直前に、私は慌てて自分の食事へ視線を動かした。

 なぜだろう、この人のことをすごく見てしまう。

「菜乃花、隣の人と知り合いなの?」

「さっき気分が悪くなっちゃって声をかけてもらったの。それだけだよ」

 由紀ちゃんは納得したように頷いてから「しんどかったら言ってね。帰ってもいいんだし」と付け加えた。

「ううん、今はとりあえず大丈夫そう。ありがとう」

 秋がどこに座っているのかはわからないけれど、もう話すこともないだろう。

 ——。秋のことを考えてしまいそうになって、食事に集中しようと思い、フォークとナイフを握る。

「え!やっと弁護士になれたんだ!おめでとう!バイトも勉強も頑張ってたもんね!」

 彼と話していた女性が高い声をあげるものだから、会話の内容が聞こえてしまった。

 この人、弁護士さんだったんだ。すごいな。気遣いもできて、笑い方も綺麗だし、さぞモテるんだろうな。

「やっと夢が叶って嬉しいです」

「ねえ大晴くん、よかったら連絡先交換しない?」

「でも優子さん、この間ご結婚されたばかりじゃないですか?」

「うん。したばかりだけど、関係ある?」

「昔のバイトの後輩と連絡先交換なんて旦那さんはよく思わないですよ?」

「昔の後輩と連絡先の交換くらい許してくれるよ?」

「でも——」

 彼の言葉が止まり、私へ視線が——と、勘違いをして顔が熱くなった。彼は私の後ろへ目を向けていて私を見ているわけではなかった。

「優子さん、すみません。これ以上は」

 スパッと冷たい声で彼女を制すると彼は今度こそちゃんと私を見て目を合わせた。

 驚いて固まってしまう。

「あの、体調が悪そうですね?」

「え?」

「外に出ましょうか」

 彼は緩やかに微笑を浮かべて、私に立つよう促した。

そんなに気遣ってくれなくても。そう思い、「いえ、大丈夫です」と声を出そうと顔を上げると、彼はどこか違う所を見ていた。

視線を辿っていくと——秋の姿を見つけた。秋は、こちらを見つめていた。

「一旦外に出ましょうか」

「はい……」

 彼に促されるまま、会場を出る。

 彼に話しかけていた女性は不機嫌な顔をして彼に何かを言っていたけれど、彼は全く気にしない様子で私と一緒に外まで出てくれた。

「すみません、気遣って頂いて」

「いえ。あの男は元彼ですか?」

「そうです。たまたま再会して」

「貴方に未練がありそうでしたね」

「未練なんてないと思います。多分あれは、ただ見ていただけなんじゃないかな」

 と、笑ってみせたけれど、彼は全く笑わなかった。

 外のベンチに座って、そよそよと柔らかい風に目を細める。緊張が少しだけ解けて、息が吸えた。

「男は別れてから、良い女性だったと気づくバカが多いから」

「貴方も男性じゃないですか」

 ふっと笑ってしまうと、彼も小さく笑う。

 心地良い沈黙が流れる中、私はふう、と息を吐いた。

「……でも、」

 彼は声を出した私を一瞥したけれど、すぐに自分の膝へ目を落として「でも?」と言葉をなぞる。

「彼がもし本当に未練があって『やり直したい』って言ってきたら私はどうするのかなって。私の方がまだ未練があるのかもしれなくて。でも自分自身でもよくわからないんです。ただ、幸せな恋愛がしたいだけなのにな……。」

 んー、そうですね、と彼はさっぱりとした声で首を傾けた。

「でも、今の貴方の表情は暗いから、戻ったとしてもその幸せな恋愛とやらはできないような気がするな」

 さらりと口にする。私を気遣う素振りはなく、思ったことをそのまま言葉にしたようだった。

「あの男と別れてよかった。そう思う時が必ずきますよ」

「……ありがとう、ございます」

 私はふわふわしたままお礼を口にした。

 明瞭な声で、私を真っ直ぐに見つめて、彼は断言した。

人のことなのに言い切れるなんて変なの。

ふふっと笑ってしまうと、彼と目が合った。瞳の色が茶色っぽくて、優しい目だな、と思った。

「よかったら連絡先、交換しませんか?嫌なら断って」

「……え?はい?」

 どう?と小首を傾ける彼はこちらを窺っている様子で、私をからかっているわけではないようだった。それどころか真剣な眼差しで——顔がぱっと熱くなる。

「嫌じゃないです」

顔を上げる時にふと目に入った耳たぶには、ピアスの穴が四つほど空いていた。ピアスは付けていないようだけれど。

「ピアス、いっぱい空いてるんですね」

「え?ああ、両耳に十個空いてます」

「じゅっ!?」

 こんなに真面目そうなのに。いや、でも連絡先の聞き方とか真っ直ぐだったし、案外手慣れているのかもしれない。

 この間、私の好きなイラストレーターさんがイラストをネットに上げていた。真面目で優しい紳士の男性に実はピアスホールがいっぱい空いているのはギャップ萌えだよね、というイラスト。

 それを見た時は「わああ!かっこいい!こんな人絶対いない!」ってなったけれど。

「交換、しても大丈夫?」

 彼はスマホをひらひらとさせてこちらを窺っている。

 私はすぐさまスマホを出して「お願いします」と彼を見上げた。そうすると彼も「よろしくお願いします」とスマホをポケットから取り出して笑った。

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