Short Peace

もち

死に場所

「ええっと…、今どこにいるんだろう」

 様々な人が行き交う都会。僕は、都会の真ん中ですっかり迷子になっていた。

「事前に下見してくれば良かったなぁ」

 ただでさえ電車に乗る機会なんてあまり無いのに、こんな都会に自分一人で来てしまうと見渡すもの全てがわからず焦ってしまう。

 スマホで時計を確認すると15時過ぎ。急がなければ時間に遅れてしまう。


落ち着け落ち着け。


 昔から焦ってしまうと頭が真っ白になってしまう癖を抑えるため、心の中で自分に言い聞かせる。

 しょうがない。こうなったら誰かに場所を聞こう。あまり人と話すのは苦手な方だけど今更そんな事は言ってられない。

 数人に声をかけてみたが見事に誰も相手にしてくれなかった。

 やっぱり自力で探すしかないかな。

 そう思っていると、僕はある男性に目がとまった。服装は全身灰色で、建物の壁に寄り掛かって煙草を吸っているようだった。頭は下を向いていて帽子を被っているため顔や表情が分からない。でも、あの人に聞いてみたいとという思いが強くなっていた。

「あの、すみません」

「ん?君、私が見えるのか?」

「え?」

 妙な事を聞く人だなと思った。私が見える、とはどういう事なのだろう。

そんな事を思っていると男性は何かに気づいたかのように少し目を見開くと、咳払いをし、

「いや、すまない。気にするな。ところで私に何か用かな?」

 不思議な人だなと思ったが、ようやく話を聞いてくれそうな人が見つかったので聞いてみた。

「ここに行きたいんですけど、道に迷ってしまって。宜しければ、ここの行き先を教えて貰えませんか?」

「どれどれ。…ここなら、そこの信号を左に曲がってしばらく真っ直ぐ歩くと右手に見える所がそうだよ。」

「そうでしたか。ありがとうございます」

 遂に場所がわかった。どうやら近くにあるとのことだった。これなら間に合う、時計を確認して安堵する。

「ところで君、何歳?」

急に年齢を聞かれたので思わず答えてしまった。

「…えっと、昨日で23歳になりました。」

「そうかぁ…若いねぇ。最近は若い奴らも随分と集まって来ちまって…まぁ、お疲れさん。」

「…ありがとうございます。それでは」

 最後にお礼を言い、その場を去った。

 不思議な人だったな。そう思いながらちらりと後ろを振り返る。

 さっきまでいた男性はいなくなっていた。


 後日、男は壁に寄り掛かり、煙草を更かしながら新聞を読んでいた。

「やっぱり、この前話しかけてきたのはそういうことだったのか。どおりで私が見えたわけだ」

 新聞を畳み、男は煙を上へと吐いた。


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