第47話 アンボルタンとの戦い④

 自我を失ったクローズは、セリスが焼き払ったはずの翼が再生をさせる。


「おいおい……再生能力もあるのかよ」


「先ほどまでとは違う存在と考えた方がいいな」


「そうだな」


 高速で飛び回り、俺やセリスに襲い来るクローズ。

 俺は手にした剣で攻撃を受け止め、町人を守る。

 奴の腕力も信じられないほど上昇しているようだ……

 やはりあまり時間をかけたくはない。

 

 決着は一瞬で付ける。


「フェイト! こいつを倒す手段があるんでしょ? 私がフォローするからあんたが止めを刺して!」


「ああ、任せてくれ!」


 メリッサは強いと言えど、しかし現在は『能力強化ポーション』を使用していない。

 あれに止めを刺すには少し力不足だと思うし、自分でもそう判断したのだろう。

 彼女はクロードの動きを止めるために前に出る。

 前に出たと思ったら、クローズが反応できない速度で奴の後ろについてしまう。

 

 疾風迅雷。

 

 彼女は誰よりも迅く、そして手も早い。


 一瞬で五発の打撃を浴びさせ、こちらにクローズの体を吹き飛ばす。


「なんて迅さだ……あれが人間の出せる速度なのか」


 メリッサのスピードに唖然とするセリス。

 セリスもセリスで、人外クラスの腕力の持ち主なんだけどね。


「後は頼んだわよ!」


「頼まれた!」


 俺は両手で剣を握り、剣に宿りし力を解放する。

 

 それは『ルーンブレイド』と『ヴォルトの雷球』を【融合】によって組み合わせた剣。

 自身の魔力を上昇させる『ルーンブレイド』。

 そして雷の力を宿す『ヴォルトの雷球』。

 さらに【魔力上昇】と【専用化】を【付与】しており、俺が今持つ中で、最強の武器となっている。

 どれぐらいの火力が出るのかは、自分自身でも見当がつかない。


 剣全体に雷が走り、魔力が肥大していく。


 俺はこちらに飛んで来るクローズを見据え、剣の先端を奴に向ける。

 剣が輝きを放ち、一瞬だけ洞窟内が激しい光に包まれる。


「雷よ! 轟き、敵を穿て――」


 稲妻が解き放たれる。

 常人の目では捉えられない速度で天を貫く閃光。

 クローズの肉体を貫き――そして奴の体は稲妻に包み込まれる。


「――『雷鳴剣サンダーブレイド』!!」


 人間を軽く飲み込んでしまうほど大きな稲妻の束。

 クローズの体が稲妻によって踊り狂うように弾け、そして壁の方へと突き刺さる。

 天井にはポカリと大きな穴が出来上がり、月明かりが外から降り注ぐ。


「す……すげー! あの化け物を一撃で!?」


「他の嬢ちゃんたちも強いと思うが……この男は別格じゃないか!?」


 俺の一撃に大騒ぎする男たち。

 メリッサも驚き、そしてポカンとしたまま口を開く。


「フェイトは何か力を隠してるって思ってたけど……まさかここまでだなんて……」


「う……ううう……」


 自分の意思を取り戻したのか、クローズが朦朧とした瞳で俺を見上げる。

 俺は『雷鳴剣サンダーブレイド』を肩に担ぎながら奴に近づく。

 するとクローズの体から『転魔の宝玉】が吐き出されるかのように飛び出して来る。

 俺はそれを拾い、クローズの前に立つ。


「てめえ……何者だ……こんな化け物、初めてだぜ」


「俺はただの【アイテム師】。化け物なんて言い方は止めてほしいな」


「へ……てめえみてえな【アイテム師】がいてたまるかよ……ドアホが」


 魔人と化したクローズ。

 彼の肉体は、灰のようにサラサラと崩れていく。 

 そのまま月の光に導かれ、静かに天へ上る。


 相手は極悪人。

 同情をするつもりはない。

 奴はこうなるだけのことをしてきたのだ。 

 ただそれだけのことだ。


「……さあ。早く外に向かおう。まだ敵のアジトの中だか――」


「――そうアジトの中だ」


「!?」


 クローズを倒したことに、その場にいる全員、気が抜けていた。

 町の人たちもミューズもメリッサもセリスも。

 そして俺も。

 戦いは終わったと油断してしまっていたのだ。


 突然天井が崩れ、一人の大男が天面から現れる。

 そしてそのまま町の人を三人、人質に取ってしまった。


 男の登場に、町の人たちが左右に逃げるように分かれる。

 ミューズ側とこちら側。

 丁度半分半分ぐらいになっていた。


 その中心に男がおり、人質となった三人……全員女の子だ。

 彼女らは恐怖に泣き叫ぶ。


「油断するには早すぎたんじゃないかい?」


「そうみたいだな」


「……グレズリー・アンボルタン!」


 セリスの体が小刻みに震える。

 それは怒りか。

 または恐怖から来るものなのか。

 俺には計り知れなかったが、セリスは奴を睨み剣先を向ける。


「貴様のことを忘れる日は一日とてなかった……覚えているだろ? 十年前、貴様が滅ぼした村のことを!」


「そんなに俺のことを想ってくれてたなんて、嬉しいねぇ」


「気持ち悪い……そんなことより村のことを聞いているのだ、私は」


「村ねぇ……滅ぼし過ぎてどの村のことか分からねえな」


「……今すぐ殺してやる。そこへ直れ」


「へへへ……この女らが見えねえのか? 見えるよな? だったら俺を殺すなんて真似できるわけねえよな?」


「貴様……相変わらずの外道のようだな」


「ありがたい褒め言葉だ。人の道を外すことなんて、普通の人間にはできねえんだからさ」


 ゲラゲラと大笑いするグレズリーと呼ばれた男。

 奴は笑いながら話を続ける。


「お前らみたいな甘ちゃんは、人質一つで手出しできなくなるんだ。これまでの経験上、そういうことが多い。でだ。この子たちを解放してほしけりゃ……仲間同士で殺し合え。嫌ならこの子たちを道連れに俺も死ぬ。それで終わりだ」


「この……クソ野郎が!!」


 俺は怒りのままに吠える。

 だが奴はニヤニヤ笑うだけ。


 状況は最悪。

 どうする……どうやって彼女たちを助ける?

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