第18話 泣く女の子

 装備が完成する頃には外はもう真っ暗。

 買い物をしたりなんかで結構時間がかかったしな。

 それにセリスの寝起きも悪かったし……


「もう夜だな。食事の用意をしてもらおう」


「そうだな……じゃあ食堂に行くとするか」


「何を言っているんだ。部屋で食べるに決まっているだろ」


「部屋? 別にいいけど、どっちの部屋で?」


「別々の部屋だ」


「…………」


 まるで仲の悪い夫婦かのよう。

 一緒のところに住んでいるのに食事は別々。

 そんな悲しいことある?


「いや、一緒に食べたらいいだろ」


「一緒に食べるわけないだろ」


「なんでさ?」


「……食べている顔を見られたくない」


「ああ……なるほど」


 食事を取るとなれば、どうしても顔をさらけなければいけないからな。

 顔を見られたくないセリスからすれば、当然そう考えるだろう。

 でも寂しくない? 同じ仲間なのに一緒に食事を取らないなんて。


 俺の考えを読んだのか、セリスはため息をついて言う。


「私は誰かと食事をするなんてことはまともにしたことがない。昔は両親と一緒に食べてはいたが……今はずっと一人だから、気にすることないよ」


「一人だから気にするんだよ。前のセリスの仲間はさぞ冷たかったんだろうな。それが当然だって、距離を置いて……でも俺は嫌だね。セリスと一緒に食事がしたい。だって仲間なんだから」


 俺が真剣にそう言うと、セリスはクスリと笑う。


「お前は本当に面白いな。そこまで仲間思いとは思ってもみなかった……でも気にするな。私は恥ずかしいだけだから」


「恥ずかしいか……なら、顔を見られなかったらいいんだよな?」


「まぁ……そうだな」


 顔を見ずに一緒に食事をする。

 当たり前のことを難題にするなんて、どうかしてるぜ。

 

 食事は用意すればいいから、問題はどうやって顔を見られないようにするか。

 今セリスは仮面をかぶっている。

 仮面を外すのも嫌がるだろうし、かと言って兜をかぶられたら話が悪化する。

 また誰かに変態扱いされそうだし、それは勘弁願いたい。


 となると……仮面のままでどうにかして食事を出来るようにしたい。

 顔が見えないように天井からカーテンでも吊るすか?

 でも毎回そんなことをするのも面倒だ。


 だったら……仮面を加工するとか?

 口元だけ出るような形になれば、表情を見ることなく食事は可能になるはず。

 うん。これなら悪くないかも知れないな。

 後はセリスが嫌がらなければ問題はない。


「なあ、その仮面をいじるのはどうかな? 食事をできるように、口元がでるようにさ」


「ああ。それなら食べれるな。だが、どうやってこの仮面を加工するつもりだ? お前のスキルを持ってしても、そんなことは不可能だろ?」


「ああ。だからそれを可能な人間に頼めばいいんだよ」


「ほう? それができる知り合いでもいるのか?」


「いないよ」


「いないのか」


 セリスは落胆した様子もせず笑う。

 俺は微笑を浮かべ、そんな彼女にハッキリと言った。


「いないなら探せばいいだけだ」


「なるほどな。ここはそれなりに大きな町だし、適当な鍛冶屋を探せばいいか」


「ああ。そうと決まれば明日にでも探しに行こう」


 今日は残念だけど、別々で食事だな。


 だが明日からのことを考えると、一人の食事も寂しくなかった。

 誰かと食事を取れるのは楽しいものだ。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 翌日。

 曇り空の中目を覚ます。

 時間はまだ午前中。

 急ぎの用事でもないので、セリスが目を覚ますのを俺も寝て待つ。

 もう彼女の寝起きには付き合いたくない。

 あれならまだ化け物じみたモンスターと戦っている方がマシというものだ。


「おはよう」


「おはよう。って言ってももう午後だぞ」


「午前だろうと午後だろうと夜中であろうと、起きたらおはようだろ?」


 それ、屁理屈に近い気もするんだが……

 だがまあいい。

 

「じゃあさっさと探すとするか」


 俺たちは町をぶらぶらしながら鍛冶屋を探す。

 まぁ大掛かりな仕事じゃないし、それなりの腕があれば問題ないだろう。

 

「ここならどうだろう?」


「いいんじゃないか? 仕事さえしてくれればいいんだからさ」

 

 セリスが店に入り、加工ができるか尋ねている。

 すると仕事は可能らしく、彼女がこちらに親指を立てそれを伝えてきた。


「少し時間はかかるらしい。どこかで時間潰しでもするか」


「そうだな……どこに行こうか?」


 セリスは黒い鎧を身に纏っており、先日よりも目立っている様子。

 だが俺が変態扱いされないのでそれでよし。


 しかし、こんな格好じゃ物騒だし、行ける場所も限られるよな。


「うえぇえええええええん! うぇええええええええん!」


「?」


 そんな時、突然女性の泣き声がどこからともなく聞こえてくる。

 何事かと思い、声の方に向かう俺たち。


 すると商店がグルリと取り囲む広間があり、そこで女の子が泣いているではないか。

 周囲にいる人たちも心配しているらしく、彼女に声をかけている。

 俺も彼女に近づき、何事かと尋ねてみた。


「何かあったのか?」

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