第37話 友と勧告と

 雨が降りしきる中、ゴブリン大隊の副隊長、ロッドは部下に待機命令を出した後、ずっと将が帰るのを待っていた。今回は随分と時間がかかる。敵には元仲間がいるから遊んでいるのだろうと、奔放な隊長にうんざりしていた。

 閃光が走った。


「聞け‼ ゴブリンたち!」


 攻城用のやぐらの上に稲妻が走り、その中から二人の男女が出てくる。一人は『異能騎士団アルタクルセイダーズ』がたまに着ている学生服という服を着た少年で、もう一人は稲妻を放つ琥珀色のドレスを身にまとっている。

 少年は腕に持つ巨剣を掲げて言った。


「お前たちの隊長『陽炎のショウ』は俺の手によって倒された! 『異能騎士団アルタクルセイダーズ』の一人が倒されたのだ。この剣が何よりの証拠だ!」


 馬鹿な……だが、少年が持つ剣は確かに隊長が持っていたブラッドソードだ。


「俺は神から異能の力を与えられ、『異能騎士団アルタクルセイダーズ』の元仲間でありながら、魔王に反逆する勇者、ベニオだ! 俺の異能は『時間凍結フリーズ』よりも強い! そして、隣に立つ女はこの国が誇る守護十傑聖騎士の一人、ライカ・ギャレック・ストレリチア!」


 ゴブリンたちがどよめき始める。

 隊長を超える異能を持つ人間、プラス守護十傑聖騎士ガーディアンパラディン。どちらも一騎当千の能力を持っているはずの人間だ。

 ロッドの頬に汗が垂れる。


「降伏しろ! 俺は他の『異能騎士団アルタクルセイダーズ』と違って無駄に殺す気はない! 降伏し、『陽炎のショウ』が捕えた女を差し出せば、命まではとらない!」


 部下たちが判断を仰ぐように一斉にロッドを見る。


「………総員」


 ロッドは赤い目でやぐらの上の少年を睨みつけ、手を挙げた。

 上げた右肩には魔族の証であるコウモリの刻印が施されている。これがある限り、魔王に絶対順守。魔王がその気になれば、魔族は意思を奪われ、自らの命さえいとわない操り人形と化してしまう。

 ここで降伏しても、道はないのだ。

 手を振り下ろせば、部下たちは少年と守護十傑聖騎士に攻撃を仕掛け、全滅するだろう。それがわかっていてもやらねばならない……。

 手が震える。

 やぐらの聖騎士の体から稲妻がほとばしり、まっすぐロッドを睨みつけていた。そして、その隣の少年は悲しい目をして、「やめろ」とつぶやいた。距離があるので声は聞こえなかったが、確かに口の形がそう言っていた。


「総員……!」


 震えるロッドの手がゆっくりと降りていく。


「降伏しろ……!」


 ロッドは赤い目を伏せ、膝をついた。


「おぉ………おぉ………」


 ロッドから広がるように膝をついて首を垂れるゴブリンたち。一万の軍勢が皆一様に一人の少年に向けて首を垂れていた。

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