第3章 初めての依頼編
第22話 別の都市へ
足りない、これでは足りない。
赤き結晶は堂々と光っておられる、足りないと仰られる。
「私こそは本当の忠実なる下僕、真なる忠臣であると証明してみせましょう」
そうだ、忘れはしない。
「そしていつかは彼の地に......」
そして最後に発光すると光は消失した。
「そろそろコゴートでも活動がしにくくなってき――」
瞬間、頭上から爆音と共にガレキがなだれ込んできた、咄嗟に防御魔法を行使した。
そいつは紫のローブに赤紫の長い髪に杖を持っている。
「っ......ここを何処だと思っている」
「コゴート連邦共和国の廃神殿の地下でしょう?あ、それ、似たの見た事ありますよ」
奴は指を指すが振り向かない、隙を見せてはいけない。
「貴様......どうやってここを」
「ここに何かがあるのはいくつか組織潰して大体は把握できましたので」
「誰の差し金だ」
「極めて個人的な事情です、貴方最近数々の誘拐を行っている組織の首領ですよね?」
怪物、怪物だ、この女まさか個人でいくつも組織を潰していたのか?軽く10を超えていた情報網をしらみつぶしに潰していったというのか?......だが
「......なるほど、つまり貴様以外はいないという訳だな」
ここで戦闘をするわけにはいかない、この結晶を傷つける訳にはいかない。
「故にここでやる事は一つ、『アイスコンドル』」
氷を纏うコンドルを召喚し鮮血結晶を回収してすぐに自ら乗る、そうだ逃走する。
「ッ逃がすか!『黒薔薇』」
黒き薔薇は蛇の如く動き追尾してくる、地下洞窟の為に高く飛び立つ事は出来ない。
「小賢しい奴だ」
しかも奴は後ろからもうスピードで近づいてきているのがわかる、こっちは地下とはいえ飛んでいるんだぞ、頭がおかしい怪物だ、しかしあの女どこかで見た覚えがあるはず、誰であったか。
「しかし、その怪物ぶりは仇となる」
出口付近には兵士を幾人も見かけた。
おおよそ想像がつく、あの女が好き勝手に動いていたから国もう我慢できなくなったのだろう
「た、助けてください、魔導士に追われているのです!」
そういうと兵士はこっちにではなくあの女に剣や杖を向け始めた、それでいい後に嘘だとバレようがもうこの国に来る事はない。
「次はギロス半島に行こう、その為には――ッ」
っな。
足に何かが突き破っていた、これは棘だ、なんだ、誰のだ。
ふり返ると兵士に取り囲まれた女とあの薔薇、まさか薔薇の棘を飛ばしてきたのか「っ、おのれ、これは何処かに潜伏し肉体を回復せねば......」
これはただの棘ではないだろう。
ッただこの鮮血水晶さえ無事なら晩回のしようはある、今は時を待てばいい、時間だけは誰よりもある、だからそれで良いのだ――
◆◇◆◇
【
大きなテーブルを前に俺と受付嬢が座っていた。
「はは......もう少し待ってて?すぐに来るはずで......」
バウロス=アキ―ス、このギルドのマスターで今回、面接......というよりは顔合わせしてから加入の是非を考えるというのがこのギルドのスタンスらしい。
「あんまり緊張しなくて大丈夫ですよ?マスターは良い人で、来る人拒まずですから」
受付嬢はそう言ってくれたが、まぁ緊張しない訳はなく。
「はい」
「人形みたいに固まらないで......」
駄目なんだ、こういう会談とか畏まった雰囲気。
「マスター、来ます」
通路から男が話してかけて来た。
「ッ」
「あ、はーい」
心臓の鼓動が早くなっているのを感じてる。
「っグッモーニンッ」
ドアをバンッと開けたのは茶色の長いコートに帽子とサングラス。
髪こそは白髪と化しているが、それ以外はメイ婆に見せてもらった写真と体格も変わりない大男。
「名前は聞いているぞアキラ=フジワラ。お前さんには悪い事した」
「大丈夫でしたよ」
「固くならなくて結構だ、俺も固くならないように気ぃ使ってるんだからな」
「気を付けます」
「敬語もなくていい、苦手でな、ハハハハハハッ」
バウロス=アキ―スは紙をドンと机に上に叩いた。
「ようし、んじゃあここにサインを書くんだ」
「え、もう?」
「もうだよ、もう。何せお前さんを入れてからやる事があるからな」
やる事?新人研修的な奴か。
「......名前だけで?」
「あぁ、最後に印押してくれや、親指で良い」
大体元の世界と同じだ、違うのは朱肉には魔力が独自に組み込まれている事。
特にこういう重要な場面に対して使う朱肉は何処の何の朱肉を使ったかをわかるようにしてあるらしい、だから朱肉も大事に保管している。
とはいえそれでも偽造を図る者はいる、だから魔術刻印だ、自分自身が朱肉であり朱印だって押せるんだ!という訳で偽造なんてまず出来はしない。
ただし魔術刻印は高度な技術が求められる、だから完全に出来てる人は少なくて、
他の人のを模倣してからオリジナルに変えていくというのが定番のようだ。
「はい、書いた」
「よぅし、んじゃ」
バウロスも自分と同じように印親指で押して。
「でか......」
大きなハンコを手に持った。
「これは初めてか?魔術刻印と同じだ、模倣はまずできない」
両者の名前の間にドンッと勢いよく押す。
「おめでとう、これにて【
後ろで見ていた、受付嬢と男の人も拍手で迎え入れてくれた。
案外あっさりだった。
「ようし、んじゃ......やるかのう?」
「へ?」
【
「通過儀礼だよ通過儀礼、俺はお前さんら新入りとは最初に一度は戦うようにしておるからな」
本当の新米で新入りもいれば他のギルドから来ただけで経験者もいるだろう、そう考えればマスターバウロスは相当腕に自信があるようだ。マスターだから当然なのか?
「昨日は熱くなりすぎたからの、熱くならないように注意しよう」
末恐ろしいのは【
渋々、広場の中心地に歩いていく。
「アキラ=フジワラ、お前さんの得意な事はなんだ?」
「得意......魔法の火力はへベルナのお墨付きがある、剣技は......普通だな」
「良いじゃねぇの」
周りには見物客が目に付いた、【
「いつもこんな感じなのか?」
「そうだな。ただお前さんはへベルナとは長い付き合いなんだろ?だったら余計見に来てる人が多いのかもな」
しかし肝心のへベルナは居ない。あの人はこういうものは率先して見物したがりそうだったが。
「始めようか、アキラ、お前さんからやっていいぞ」
いきなりそう言われてもどうすれば良いのかわからなかった、ただ思いついた事。
「『ファイアボール』」
俺の魔法は火力だけはお墨付き、だからこれで決める。
■
「確かにへベルナが推すのはわかるぜ、お前さんがガキだった頃を思い出したよ」
久しぶりに活きの良い新人を相手に出来るしかもこれは厄ネタだな、ギルドに入れれば最後厄介ごとを招き入れる事になるだろう。
「へ、いいねやれるもんならやってみろ」
暴力的な炎の塊、これで基礎魔法。まだ我流の魔法を確立出来ていないらしい、
「火力だけならC級相当か、へベルナめ。また変な育成しやがったな?」
右手を迫り狂う魔法に向ける。
「いいさギルドマスターの力、見せてやるよ」
『魔装≪破魔≫』
白い光が右手を包み込み――
「『発射』」
白い光が魔法を包み込ませる。
――それは一瞬だ。
C級相当の魔物に対しても致命傷を与えられる大火力、大魔力、それを容易く分解して煌めく胞子のような物が待っていた。
■
「俺の勝ちッ、どうだ」
バウロスがガッツポーズをすると俺に近づいて来た、悔しいとか特に浮かばなかった、圧倒的過ぎてね?
「魔法を破壊した、お前さんの魔法は受けるのはしんどそうだからな」
「そんなのあり?」
「ありなんだよな、これが」
■
それからは受付嬢から依頼の受け方などの説明をされる。
「クエストの依頼はここから受付嬢に渡すと......」
へベルナと一緒に勉強したから、まぁ大体わかるな、受付嬢さんは緑の服がトレードマーク、名前はララン=リトリスというらしい。
「最初ですから一番簡単なクエストが良いと思いますよ、後は先輩の誰かが付いていって......」
「そういえばへベルナは?」
「あ、そうでしたねアキラ君はへベルナちゃんと......ただ......」
「何かあったのか?」
「怪我とかそういうのではなくて」
「へベルナは謹慎中だぞアキラ」
後ろから来たのはパレハだった。
「謹慎......?」
「勝手な行動の度が過ぎて、マスターも無視できなくなったのさ、馬鹿だよほんとに」
「最近の事ですよ、謹慎処分を受けたのは」
「どうしてそんなことに?」
「最近起きている連続行方不明事件は知っていますか?」
「少しは、被害者も多いとか」
「その被害者の中には彼女の友達がいたらしくて......」
へベルナはそんな友達の行方を捜すために隣国にまで勝手な活動をしていたらしい、ただそれを良く思わなかったのがアルカディアの北に隣接するコゴート連邦共和国、コゴートはへベルナは正当な手続きを踏まないで地域の諸問題に介入しているとして、冒険者協会に対し苦言を呈したのだそうだ。
「これに懲りて落ち着くと良いのだがね」
パレハはやれやれと言って近くの席に座った。
「なので代わりの人を付添人に......パレハ君は」
「私は無理だ、これから依頼に行くのでね」
「......う~ん、他に手の空いてそうな人......はぁ時期も悪いのかも......」
「時期?」
「みんな『千年大祭』に出たいから、依頼とかこなしたり、修行してたり忙しいんです、元気なのは良いんですけどね」
元は『
ギルド対抗でのチーム戦もあったりして特にこの【
しかも来年には暦が1000年になるという事で毎年行っている『星王祭』は特別に『千年大祭』と呼ばれている。
普段から外国からの要人来ていたが、来年は今まで来たことのない要人や出た事のない強力なギルドも出るという噂など、とにかくそれでみんな活気づいていて今のギルドには冒険者があまりいないらしい。
「まぁアキラには関係ないさ、私だって出た事ないし、観客席で応援してるのが一番楽しいし何より楽だ」
「全員が出られる訳ではありませんからね」
しかし、どうしたものか。この感じだと自分一人で受けてはいけないみたいだ。
「だったら俺の依頼に同行すりゃいい」
狼顔をした、黒いジャケットと黒い長ズボンが特徴的な獣人、ザイルドがいつの間にかいた。
「いきなりC級というのは......」
「大丈夫だって」
「う~ん、良いのかな」
「平気平気、へベルナが太鼓判を押してたんだしな」
「あ、彼が依頼主ですか......」
ザイルドは自分の依頼ついでに俺の付添人を買ってくれるらしい。
「マスターに聞いてみます」
それからとんとん拍子に話が進んで俺はザイルドの依頼に同行する事になった。
明日現地へ向かう事になった、その後はラランに部屋を案内される。
「アキラ君の住む事になる部屋を案内しますね」
【
外付けの階段から上り2Fの一番奥、204の部屋だ。
「荷物は部屋に置いてあると思います、あとは前の住人の物が残っていますが好きに処理してくれて構いませんよ」
部屋は台所、トイレ、風呂。後は部屋が一つ。ラランが言っていたとおり前の住人が残した物がある、タンスや机、本、地図らしき物もあった......今更だがアルカディア帝国はヒュベリア大陸の東南部にあるようだ。
「ザイルド君は結構怖い顔ですが面倒見の良い方で経験も豊富、きっと勉強になると思いますよ」
彼女は笑顔でそういうと「それでは」と部屋を後にした、部屋の隅には俺の私物が置いてある。
「よし、明日から頑張るぞ」
■
そして次の日、ザイルドは笑顔でギルド前に立っていた。
俺が合流するとそのまま依頼場所へと向かっていく。それなりに遠いため便利な交通手段を使うとザイルドは言っていた。
「列車だ」
ある程度歩くと横にはレールが敷かれていて蒸気機関車が時折通り過ぎる。
「すっごいなー、あれも魔石が原料か?」
「そうだ魔石をバンバン使ってる、時速100㎞以上を出せるんだぜ」
蒸気機関車というよりは魔導機関車だろうか。
「わぁ、なんだか懐かしい感じだ......」
駅は東京駅のような赤レンガ造りだった、ザイルドが言うにはこれは何十年も前に建てられてモノで今も現役だそうだ。
「目的地はナリア、ソルテシアから西に横断、アルカディア湾に面する湾岸都市だ」
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