リピート

 月花と優香は合コンという意識などすっ飛んでしまい、おぼつかない気持ちのまま会を終えた。

 優香とも別れ、月花が一人JRガード下の新梅田食堂街を歩いていると、一杯飲み屋で煽るように飲んでいる木根の後姿を見かけた。気づかれないようこっそり通り過ぎようとすると、

「おいコラ、遠藤おおお!」

 と呼び止められた。仕方なく月花も店に入り、木根に挨拶した。

「こ、こんばんは……」

「ふん、知らんふりしても無駄や。あんたさっき、あたしの修羅場見てたやろ」

 気づかれてたんだ。どう答えようか、頭をフル回転させていると木根の方がクダを巻き始めた。当然相手の男についての愚痴であるが、同じ話が何度もリピートするので聞いていて疲れる。ひとつわかったのは、木根が日頃不機嫌である原因は、その男との関係にあるらしいということだった。

「あんたも男はちゃんと選ばなアカン」

 そう言ってから、

「そうや。男はちゃんと選ばなアカンねん」と、また何度もリピートする。いい加減うんざりしてきた月花は大袈裟に時計を見て、

「では私はそろそろ……」

 といとまを告げようとしたところ、木根にガッチリと腕を掴まれた。

「何が〝そろそろ〟や。どうせ帰っても何もすることないんやろ」

「いや……その……」

「『オバハンの愚痴なんか聞きとうないから帰る』って言うたらええやろ!」

 そんなこと言って怒るのは当の本人だ。本当に困ったオバハンだと思う。

「あんた、いつもそうや。発表の時も頭ん中にあるのは人との距離。何を言えば私がほめるか、辺見に勝てるからそんなことばかり考えてるやろ。そやからあんたがホンマに言いたいことが伝わってけえへんのや……単純な話や。いいたいことゆうたらええ。誰が何といおうとドーンとしとったらええんや、ドーンと!」

 月花の中の何かが変化するのを感じた。酒をグイと飲み干し、立ち上がった。

「あなたのくっだらない恋愛トラブルのとばっちりなんてごめんですから、これで帰ります。それとあなたのゼミは嫌いです。大学も嫌いです。でも勉強は好きだから続けます! そのうち読めば腰抜かすようなすっごい論文書いてみせます!」

「ふん、ゆうてくれるやないか。期待せんと待っとるわ」

 木根は上機嫌で囃し立てたが、それを聞くことなく月花は店を出た。

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