棄てられた完成品

 

「っつ!」

 シュウイチが痛みで目を覚ますとそこは白い天井だった。

 右手に仄かに温かさを感じて顔を向けるとかりんが手を握りしめて眠っていた。

 その傍らではアサラがにやにやとした笑顔をシュウイチへ向けていた。

「おはよう、シュウ。早速だけど右手、痛むか?」

「痛い」

「かりんちゃんの手の温かさは?」

「……感じる」

「動くか?」

「動く、と思う」

「なら治る」

 アサラはそう断言した。

「お前は医者か?」

「医者だよ」

 嘘だろ? そう言いながらシュウイチは左手でかりんの頭をなでる。

 そうすると、かりんはあうあー、と寝言を出した。

「喋った!?」

「ああ、すごかったぜ。雄叫びとカエルアッパー。あいつ、あごが砕けたらしい」

「そう、か……。そうか」

「お前が刺されたのをみて本能が声を出したんだろうな」

「そうか、声が、出るようになったんだな。かりん」

「で、だ。シュウ。すまなかった」

 アサラは椅子から立ち上がり腰を折った。

「なんだよ、いきなり」

「オレの、せいなんだよ。お前が襲われたのは」

「お前の? なんで」

「言ったろ、カエルコミュニティに連絡するって」

「ああ、閉鎖的なコミュニティだろ?」

「そこの一員だったんだよ」

 あいつは、とアサラがうつむいた。

 シュウイチはアサラとかりんを交互に見つめた。

「だから、オレの責任。お詫びになんでもするぜ?」

「いいよ、お前にはいつも助けられてる。それよりもそいつがかりんの、この子のご主人なのか?」

 シュウイチは当たり前の疑問を口にした。

 しかし、その疑問を受けてアサラは視線を泳がせた。

「なんだよ、いきなり黙って。まあ、言いたくなければ言わなくてもいいぞ」

「いや、関係者だし、言うよ。知る権利は、ある」

 アサラは椅子に座り直してまだ微睡みの中にいるかりんの頭をなでながら語り始めた。

「この子な? あいつが作ったんだよ」

「作った? 人工交配って事か?」

 アサラは首を振った。

「いいや、違う」

「人工交配じゃなくて作った……。意味がわからん」

「この子は、試験管ベイビーなんだよ。聞いたことはないか? 人工授精させた受精卵を試験官に入れて栄養を送って育てる、って話」

「まさか、いや、でも個人でできるのか?」

「個人でやり遂げたのははじめてだろうな」

「本当に、できるのか?」

「できる。つーか、できたんだ。いるじゃないか目の前に、完成品が」

 いつの間にか目を覚ましていたかりんがシュウイチの右手をぎゅっと握った。

「あいつは自分の飼っている子の卵子と精子を受精させて受精卵をつくり、それを入れた試験管を大量につくった。理想の娘ができるようにいじりまくってな」

「で、できたのがかりん、か」

「結局、できあがったのはかりんちゃんだけだった。ある程度育てて醜いと思って川に捨てた」

「で俺が助けた、と」

「そ。それでコミュニティに連絡が来て慌てて見に行ったら仲良くお前らがいてカッとなって襲った、ってさ」

「包丁は、なぜ持っていた?」

「おれの娘がどうのこうのって叫んでいたし元々さらう気だったのかもな」

「棄てたのに自分のモノ扱いか……」

 シュウイチはかりんを見た。

 視線を向けられてかりんはその握る手の力をまた強くした。

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