短編だからこそ素晴らしい


 話の構成、話を理解するのに必要な情報量、全てが良いバランスで纏められていて短編小説の完成度としてはかなり高いと言わざるを得ない。
 本筋の物語に文章の大部分を注力、冒頭とオチの配分がまさに適格。物語として成立していない言わばエッセイや日記のような、短編小説としての強みが薄れた作品が跋扈するこのネット小説において、これほどまでに鮮やか且つ丁寧な作品はそう見たことがない。

 構成などについて多く語ったが、内容自体も負けず劣らず素晴らしいものだ。
 作者の癖――性癖をいかに大々的にそれでいて滑らかに文章にするか、この技術力も高い。
 動的なところも心的な概念も、全てを語らず、自然に共感できる程度の言葉で表し、“必要なもの”の配分が作者様の中で完成している作品。

 短編としての面白さとしても、短編を書く上での基礎的かつ重要な技術を読み解く面でも、お勧めしたい作品である。