可愛い子猫

「んん……っっっ!!!」


ママの悲痛の叫びにも、その化け物は無視だった。


「ん、あ……っ」

「あ、あ、あぁ……リク! ごめんっ! ごめんね!!! リク、喋れないのに、僕……」


その化け物は溺愛する甘い面だけでなく、狂気の面も持っていた。普段の優しい面を合わせると、三面性を持つ……オレの知らない人だった。


「ほ、ほんと、ごめんね! リク。と僕怖いからさ……アヤとは違う感じに拘束したんだ。それで、イラついて、お腹蹴っちゃったんだけど……」


他の国の言葉みたいに、言っていることが全く理解できなかった。


「……」

「リクのことはもちろん可愛いよ!! だって、アヤが生んだ僕の愛する息子だもん!! あの夜、僕たちが、重なっ、」

「んんっ!!!」

「……は? 何? アヤ。あの夜のこと、満足してないわけ? は? 僕だけだったの……? え……え、アヤは僕のこと愛してないの……? え、嘘でしょ、嫌だ。嘘だそんなの、嘘嘘嘘嘘嘘……嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ、嫌だあああ!! そんなの許さない……そんなの許さないから、アヤっ!!!」

「んんっ!!!」


化け物は、今度はママを、その顔を拳で殴り始めた。


カオスだった。この部屋はカオス状態だった。


でも、それはこの部屋の中だけのことで、外にいる人には……誰にも……届いていなかった。


オレたちには互いに、「んんっ!」と叫ぶことのしかできない力しかなった。


なんとも皮肉だった。


「アヤが、リクにアヤが取られてっ!! リクのことばっかりで僕のことを愛してくれなくなるのが怖かった…………許さないから、許さないから。アヤがリクにとられるのも、リクがアヤのことを好きになるのも、全部全部許さないからあああっ!!!!!」


鼓膜が破れそうだった。


「リクぅ!!! 次、一度でもアヤのこと、見てみろ。その目んたま、布でグルッグル巻きにして、何にも見えないこわーい暗闇の中で、フォークでぶっっ刺して!! ぶっっっっ潰して!! 引っこ抜くからな!!!」

「っ!?!?」

「アヤもだよっ!! リクのこと好きになったりしたら、また、あの夜みたいにっ!! 強引に……犯すから♡」

「!?」


子供の作り方は、中学生のオレでも知っている。


マ、ママは強引に犯され……た、のか……?


「……っ」

「……リクももうすぐ……アヤみたいに声が出なくなるよ……。あーあ。もう一回だけでも、お父さんって呼んでほしかったなー? ま、外す気ないけど」


何もかもが屈辱的だった。その耳障りな甘い声、怒鳴り声、笑い声に耳を塞ぎたかった。でも、拘束されているせいで出来なかった。


「アヤは、バッカな鼠の~可愛い子猫ちゃんが~に迷い込むための、えさだったねぇ~~! リクのバアアアアアーカ! あ! でも、やっと家族三人揃ったね! なんか一人だけあれだし、僕も縛られようかな??? なーんてね! そこで骨の髄まで……反省してろ!」


その化け物はそう吐き捨てて、この薄暗い部屋から明るい世界へと出て行った。

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