奇神物語(くしがみものがたり)

いも男爵

第1話 鬼影

 千超京せんちょうきょう

 そこは千年を超え栄える人の都。

 今は超暦ちょうれき四年の戌の刻(夜の七時)。

 超都(千超京の略称)の中心には、帝の住まいである皇居に朝廷の庁舎が建ち、周囲を水で満たされた円形の壕に囲まれている。

 皇居周辺は、多くの店が軒を連ねる繁華街になっていて、大勢の都民で賑いをみせていた。

 「うちの生地は霊力を込めれば好きな色に変えられる新素材だよ」

 「引き車の引手をどんな動物にも変えてみせますぜ~」

 「この店は式神十体で厨房仕切ってるから出来立て料理が出るまで全然待たなくていいわね」

 「うち一番の踊手の式神百人による華麗な躍りはいかが~?」

 都民達は、左手から出す光で、服の色を変えたり、使役した式神で様々をなことをしていた。

 都民達が使っているのは、霊操術れいそうじゅつという自身の霊力で物の色や形を変える術で、霊力を有する霊力者が九割を占める超都では、能力に応じて使える術や就ける職業まで決まるなど、人生を左右する重要かつ必須技能なのだ。

 「こちらの品は二十玉になりやす。まいどあり」

 「ちょっと早く迎えに来てよ~」

 霊操術を使う一方、左手の甲に埋め込まれている勾玉が投影する文字を右手で操作し、売り買いに通話などを行っている。

 勾玉は霊操術の使用許可証にして、霊力を左手のみで使えるよう制御し、札や形代といった紙を使わず術や式神を行使でき、それだけでなく特定の相手との通信や売買にも使えるなどの幅広い機能を有し、朝廷が都民全員に支給する承認勾玉と呼ばれる身分証なのだ。

 霊力は人だけでなく、千年の間に確立された疑似霊力生成技術で開発された霊力機関によって、乗り物の動力や地下に設けられた大型機関とそれと繋がる霊導線が地中に張り巡らされていることで、超都全体に安定した電力供給を持たらし、街灯など都民の生活を根底から支えているのだった。

 わお~ん!

 超都の各所に設置されてる極彩色に塗られた狛犬の像が大きく口を開け、犬のような声で鳴き始めた。

 「お、おい。これってまさか・・・・」

 「鬼陰警報きえいけいほうだ!鬼が、鬼が来るぞ~!」

 鳴き声を聞いた都民達は、大声で喚きながら右往左往し、道路では混乱した乗り手達が操作を誤って、引き車同士がぶつかり、店に突っ込むなど交通が大きく乱れていく。

 「何やってる?!危ないだろうが!」

 横転した引き車から放り出されて、激怒する男の文句を無視して、運転手は走り去ってしまう。

 「なんて奴だ。お~い!どこだ~?!」

 男が、呼び掛けると、連れの女は車体に挟まれて動けなくなっていた。

 「大丈夫か?!誰かっ!誰か手を貸してくれ~!」

 必死に助け求めるが、他の都民達は二人に目もくれず、我先に走り去って行く。

 ついさっきまで笑い声で溢れていた超都は、叫び声が飛び交う混乱の場と化したのだった。

 そのような慌ただしい状況の中、夜空に現れた一点の黒い染みのようなものが、渦を巻くように広がって星明かりを遮り、超都全体を暗闇で包む。

 「お、長巫女様、鬼影探知機が、き、鬼力を探知いたしました」

 黒髪を水引で縛り、小袖と緋の袴を着た巫女が、振り返りながらたどたどしい口調で、状況を報告する。

 「声が震えているぞ。落ち着いて報告しろ」

 長巫女と呼ばれるのは更け女の面を被り、裾に銀色の刺繍が施された千早を着た巫女で、抑揚を欠いた平坦な声で、報告してきたた巫女の口調を注意した。

 「申し訳けありません」

 「お前達にとって初任務になるが焦らず日頃の訓練通りに遂行すればいい。鬼道妨害波を出して鬼道を逸らせ。皇居に鬼を近付けてはならぬ」

 「承知しました。鬼道妨害波発生装置起動」

 返事をした別の巫女が、文机が投影する透過文字盤を操作するのに合わせて、皇居の北東にして、鬼門の方角に建つ剣の形をした妨害装置の刃が輝き出す。

 「妨害波発射」

 文字盤の操作と巫女の声に合わせて、刃から稲妻の形をした妨害波が暗雲に向かって発射された。

 超都の防衛設備の操作は、文字盤操作と霊力が込められた言霊との同時入力方式なのである。

 妨害波を浴びた暗雲は、皇居から離れた場所に、巨大な鬼の顔を浮き上がらせた。

 「鬼道の降下地点の妨害成功です」

 「降下地点は?」

 「南西中地区です」

 「皇居に霊圧障壁れいあつしょうへきを張り、中地区には囲防護壁かこいぼうごへきを上げ次第、避難隊を派遣させ都民を避難させよ」

 長巫女が、次の指示を出していく。

 「承知いたしました」

 巫女達が、やり取りをしているのは、妨害装置の横に建ち、対鬼機関にして巫女のみで構成された守巫女隊もりみこたいの庁舎内にある司令室で、長巫女を上座にして、横並びに三列で十人ずつ畳に敷かれたざぶ団に座る巫女達が、多目的文机が表示する情報や数値を前にして、各機関へ必要な命令を出していく。

 守巫女隊は、鬼が出現する時のみ機能し、その際には他所への命令権を行使できる超法機関なのである。

 障壁担当の巫女が入力を行う間で、皇居の南側に掛かり、繁華街とを繋ぐ橋が内側に上がった後、周囲を円状に囲んでいる壕の水が吹き上がって全体を半円状覆い、物理と鬼力の攻撃から守る壁となった。

 囲防護壁担当の巫女が超都の平面図内の南西中地区に手を触れると、普段は地区ごとの仕切りかつ街道として運用されている鉄路がせり上がって、巨大な壁となって地区内を囲う。

 鬼を囲い内に捉え、皇居への進行阻止と超都への被害を最小限に留める為の防衛機構である。

 囲いが済むと、区画内に観音開きの門が次々に現われていく。

 朝廷の役人が用いる霊力を使った移動術で、異なる場所を繋いで長距離移動を可能にする異繋門いけいもんである。

 「こちらから囲いの外へ避難してください!」

 門が開いて中から出てきた白い服を着た避難誘導隊員達が、大声で避難を促すと、都民達は近くにある門目掛けて、他人を押し退けながら我先へとくぐっていく。

 騒がしく避難活動が行われている中、浮かび上がった鬼の顔が大きく口を開けた。

 「鬼道開きます!」

 巫女が言い終わる間で、開いた口から稲妻が放たれ、地面に直撃して爆音を鳴らし、真下に居た都民や民家に街灯などを吹き飛ばす。

 街灯が破壊されたことで灯りが失なわれ、代わりに落雷によって発生した火事による炎が、辺りを赤く照らしていく。

 稲妻が落ちた地点には、大柄で頭には乱髪と角、口に鋭い牙、一体ごとに体の色が赤や黄に青と色分けされ、右手には色ごとに棍棒や刺股といった武器を持つ鬼の群が立っていた。

 「鬼甲集の鬼代だ~!」

 落雷から免れた都民が、鬼の群れを見て名前を叫ぶ。

 鬼代おにしろと呼ばれる鬼達は、目は赤黒く輝き、生き物にあるはずの皮膚や筋肉は見られず、炎の明かりを受けて硬質な反射を放つ体は、鉄や鋼で作られた外装を合わせたように角ばっている。

 固そうな口を開けると大きな唸り声を上げ、目の前の都民や避難誘導隊に襲いかかって、頭を叩き割る、首を斬る、腹を突き刺しえぐるなど、持っている武器で惨殺しながら皇居へ向かって進侵し、囲い内を混乱から大虐殺の場へと変えてしまう。

 「現れたのは鬼代千鬼です」

 「区画内の自防武神像じぼうぶしんぞうを全柱起動させよ」

 「承知しました」

 返事をした巫女が、増長天などの名前と囲い内に存在する数を示す画面に触れていくと、周辺に建つ武神像達が目を光らせて一斉に動き出し、持っている武器で鬼代群に攻撃を仕掛けていく。

 機械の鬼と神が武器を打ち鳴らし、激しい戦いを繰り広げている中、生き残った誘導員達は避難活動を再開する。

 数で圧倒されていることで、武神像は次々に破壊されて数を減らされ、形勢は不利になってしまう。

 「星巫女様、お助けを~!」

 「星巫女様~!」

 鬼に襲われている都民達が、星巫女という言葉を口々に叫んで助けを求める。

 「都民から星巫女へ助けを求める声が上がっています」

 「帝、星巫女の覚醒をお願いいたします」

 「承知した。今すぐ星巫女を覚醒させ鬼代の討伐に当たらせよ」

 皇居内にある観戦の間にて、特大映像板(大型のモニターのようなもの)で戦況を把握して長巫女の要請に応じ、許可を出した帝は御椅子に座り、額に金で型どられた太陽の飾りを付け、御引直衣に身を包んだ十代後半の少女だった。

 「仰せの通りに」

 帝と同じく戦況を見ていた紫の服を着た右大臣が返事をして、各省の大臣が一線を切る仕草をした後、障壁の外側に建ち、梯子などの昇降具の付いていない高い櫓の上に建つ五つの社の灯籠に火が灯り、本殿の入り口に掛けられたしめ縄が切られていく。

 その直後、囲い内に五つの異繋門が現れ、中から左胸に星、裾に銀の刺繍が施された千早を着た巫女が飛び出てきた。

 「霊装変化!」

 掛け声に合わせて、五人の全身が銀色の光に包まれ、巫女装束の形が変っていく。

 「我は渡部朔わたなべのさくや哀斬刀あいざんとう!我が刃は鬼を斬る!」

 左側に結んだ髪に桔梗の飾りの付いた簪を刺す朔は、両手に篭手、提灯型に変わった袴から出る両足に脛当、爪先に貫を履いた格好になり、右手から作り出した刀を両手に持って、一鬼の鬼代に飛び掛り、上段の構えから刃を勢いよく降り下ろして、頭から真っ二つに斬る。

 「我が名は坂田梓さかたのあずさ雷神拳らいじんけん!我が拳は鬼を砕く!」

 長身で短く羽上がった髪型の梓は、外側に波状の突起が四本付いた篭手を両腕に嵌め、両足には脛当、足は裸足のまま背中に襷を付けた格好になり、両拳を力強くぶつけ合わせた後、向かって来る一体の鬼代の顔を殴って、頭を木っ端微塵に砕いた。

 「我が名は出雲奏いずものかなで。大扇」

 ふたつ結びで右に白で左に黒の蝶の飾りを付け、祭祀用の化粧をしている奏は、頭と背中に蝶の飾りが付き、両手に身の丈ほどの扇を持つ姿となり、流れるような優雅かつ素早い身のこなしで、鬼代の周りを舞っていく。

 「我が舞は鬼を裂く」

 そう言い終えて扇を閉じる間で、鬼代達は縦に横に斜めにと裂けていった。

 「我が名は那須弦なすのゆずる龍撃銃りゅうげきじゅう!我が銃は鬼を撃つ!」

 もみ上げを肩まで伸ばし、後ろ髪を頭のてっぺんで団子状にまとめ櫛を指している弦は、籠手と脛当に貫を身に付け、両手に出した龍の意匠が施された火縄銃ほどの銃を握り、向かって来る鬼代に銃口を向けて引き金を引き、発砲音に乗せて放たれた銃弾で腹部に大きな風穴を空ける。

 「我が名は安倍要あべのかなめ。岩神。我が岩は鬼を潰す」

 おかっぱ頭で幼女体型の要は、呼び出した要石に座るだけで、見た目の変化はない。

 「岩落とし」

 静かな声の後、一体の鬼代の頭上に出現させた巨岩を落として押し潰す。

 「星巫女様じゃ~!」

 「星巫女様が来れば安心だ~!」

 「星巫女様~!鬼共を倒してくだされ~!」

 都民から喝采を受ける星巫女とは守巫女の実戦隊員で、五人なのは超都内で最も強力な霊力者だからであり、鬼と戦う為に都民や役人にさえ使用が禁じられている、霊力で武器や防具を作り出す霊装術の使用が唯一許されている存在なのである。

 星巫女という名は、守護星の五芒星を司るだけでなく、天照大御神の血を引く帝よりも、下位の意味も含まれているからだ。

 「私達が鬼代を倒している間に残って都民達を避難させてください!」

 「分かりました!」

 朔の命令を受けた避難誘導隊が、出したで都民を避難させていく。

 「火焔剣!三日月斬り!」

 朔が、声を出しながら親指、人差し指、中指を突き立てた左手で刀身をなぞると、唾から炎が吹き出し、炎に覆われた刀を袈裟懸けに振ることで、刃から放った三日月形の炎が鬼代を包み、瞬く間に焼き尽くしていく。

 「右近!左近!」

 梓が、両腕から放出した稲妻は、狛犬の形をした雷獣へ変化する。

 「獣拳形態!雷神地打撃らいじんちだげき!」

 雷獣を宿した両手は獣顔に変わり、飛び上がって両拳で地面を叩くと、電流が波紋状に拡散し、周囲の鬼代を痺れさせながら爆裂させていった。

 「大扇!竜巻の舞!」

 奏は、両腕を伸ばし、その場で回転して竜巻になり、鬼代を吸い込んで巻き上げ、あっという間に粉々にして塵にする。

 「龍撃銃百砲の陣!」

 弦が、右手を前に出し、前方に呼び出した龍撃銃を持つ百人の式神が一斉発砲して、向かって来る鬼代達を蜂の巣にしていった。

 「岩槍」

 要が、掌を表にした両手を上げる仕草をすると地鳴りが起こり、地面を突き破るようにして槍のように鋭く尖った岩が突き出し、鬼代群を串刺しにしていく。

 星巫女の参戦により、劣勢だった戦況は完全に覆ったのだった。

 

 「終わりましたね」

 刀を消した朔が、全滅させた鬼代の残骸を前に、戦闘中と打って変わって穏やかな声で話す。

 「都の名前が変わって四年振りに起きてみればあたしらが全滅させた鬼代相手じゃ肩慣らしにもなりゃしない」

 梓が、目の前に転がる鬼代の首を、右足でいじりながら不満そうに言う。

 「わたくしは四年経ってもあなたの口の悪さが直っていないことに呆れますわ」

 奏が、袖から出した扇子を口に当てる優雅な仕草で、皮肉を口にする。

 「お前の嫌味な所も相変わらずだな。その口に拳ぶち込んで黙らせてやろうか~?」

 梓が、右拳を上げながら奏に詰め寄っていく。

 「そういう所が品が無いと言うのですわ」

 「なんだと〜」

 「お前達の変わらないやり取りを見ると怒るどころか安心する」

 弦が、二人のやり取りを見て微笑む。

 「星が綺麗」

 要が、言う通り鬼道を出した暗雲が消え、代わりに顔を出した月と星が超都に光を注いでいる。

 「星と月を見るのも四年振りですね。さあ、戦いの後始末をしましょう」

 「まずは火を消してそれから避難誘導隊を戻して怪我人を運ばせないとな」

 「やはり半世紀前の遺物など微塵も役にも立たんな」

 怪しげな声が、五人の会話に割り込んでくる。

 「そこかっ」

 朔が、声を上げながら鋭い視線を向けた先には、一人の女が浮かんでいた。

 火に照らされて黒光する漆黒の着物、見せ付けるように露わにしている白い肩と胸元に太ももからつま先にかけての生足、踵まで伸ばした艷やかな黒髪、顔は口元が割れてる般若の面を被り、全身からは妖艶な雰囲気を漂わせている。

 「鬼力を感じさせるところをみますと鬼ですわね。鬼甲集の生き残りかしら?」

 「あのような愚か者共と同じにするでない。妾は鬼動集きどうしゅうの長である鬼姫おにひめ。お前達を葬り都を滅ぼす者ぞ」

 顔の中でただ一つ露出し、血を滴らせたような真っ赤な唇から出る怪しくも色気を感じさせる声で言い返してくる。

 「鬼は千年経っても滅びず都の支配を諦めないようだな」

 「それより前に自分達の過ちで滅びかけた者共がよう吠えるわ」

 「へっ何が鬼動集だよ。こんながらくたじゃあたしらには勝てねえぞ!」

 梓が、鬼姫に向かって、鬼代の首を蹴り飛ばしながら大声で言い返す。

 「そのがらくたはお前達が寝起きで力が弱っていないかを試す為の小手調べ。我が鬼動集の力を見せてやろうぞ。出でよ。鬼力機関」

 その呼び声に合わせ、鬼姫の左脇に鬼道が開き、無数の角を外側に突き出し、禍々しい光を放つ物体が出現した。

 「鬼身創造!」

 鬼姫の両手から放たれる黒い稲妻を受けた鬼力機関は、強烈な光を放ちながら鬼代の残骸を吸い寄せ、瞬く間に巨体を形成し、頭に一本角、右手に金棒を持ち、二十七間(約五十メートル)を超える巨鬼になり、月明かりを背に受けて浮かび上がらせた巨大な影を星巫女達に落とす。

 「なんだよ。あのばかでっかい鬼は~?」

 梓が、巨鬼を見上げながら驚きの声を上げる。

 予想もしない巨大なものを、目の当たりにしたからだ。

 「これが我ら鬼動集の主力の鬼械きかいじゃ!」

 鬼姫が、自慢気に紹介する鬼械は返事の代わりに、鬼代と同じ赤黒い光を宿す両目を星巫女達に向ける。

 「•••••」

 作り物と分かっていても、鬼代の何倍も大きい目から放たれる強烈な威圧感を前に五人は圧倒され、誰一人声を出すことができない。

 「やれい」

 鬼姫の指示を出すと、鬼械は星巫女に向け、巨大な金棒を勢いよく振り下してくる。

 「避けてください!」

 朔の声で、我に返った四人はその場から飛び退くと、金棒は落雷以上の爆音を上げて地面を深く沈ませ、それに合わせて起こった強烈な衝撃波と地響きが、周辺の建物を崩壊させた上、辺りの明りが一斉に消えていく。

 金棒が地面を沈めた際、地下の霊導線が切断され、霊力の供給が途絶え、街灯が消えたのだ。

 「岩壁」

 要が、巨大な岩の壁を作りだして、巫女達を衝撃波から守る。

 「見た目通りの馬鹿力ですわね」

 「馬鹿力だけではないぞ」

 鬼姫が、余裕たっぷりで返事をした後、鬼械は牙の生えた口を大きく開け、中から吐き出す炎で周辺の物を燃やし、あっという間に火の海に変えてしまう。

 「どうじゃ。鬼械の凄さは?恐れ入ったであろう」

 「それで引き下がる星巫女ではない。みんな、五芒星の陣形を取れ!」

 弦の指示に合わせ、五人は定められた五芒星の配置に付いていく。

 「五色破鬼矢ごしきはきや!」 

 五人の掛け声に合わせて、陣形の中心から溢れる霊力の光が、星の形をした矢じりの付いた巨大な五色の矢となって、鬼械へ飛んでいく。

 鬼械は、避けようとせず、指を広げた左手で矢を受け止めて握り潰し、指の間から光の破片をまき散らす。

 「う、嘘だろ?あたし達の究極奥義が効かないのかよ?!」

 「あっははは~!五十年前に鬼甲集を破った技が鬼械に通用するわけなかろう。鬼械の恐ろしさをもっと味合わせてやろう。やれ」

 鬼械は、口を大きく開けて唸った後、金棒を皇居へ向け、先端から稲妻を発射した。

 「あんなことまでできるのか!」

 弦が、声を上げる中、稲妻は障壁に直撃したが、形は維持したままで、効力が弱まる気配はない。

 「一回では破れぬか。ならば直接攻撃してやるわ。その前に邪魔なお前達を始末してくれる」

 鬼械は、鬼姫の命令通り、巫女達に炎を吐き出す。

 「ただ逃げるだけかよ!」

 「あの鬼姫を倒せば止まるんじゃありません?」

 「それよりも鬼械そのものを止めるのが先だろ」

 「皇居から離すのが先」

 攻撃を避ける星巫女達は気が動転し、早口で言い合う。

 「さっさと死ねば楽になるものを」

 鬼姫が、悪戦苦闘する五人を見て嘲笑う。

 「くっそ~!どうすりゃいいんだ~!」

 「星巫女達よ、聞こえるか?」

 星巫女達に、長巫女からの通信が入る。

 「長巫女様、なんでしょうか?」

 「今よりそちらに巨神体きょしんたいを送る」

 長巫女は、星巫女達が初めて耳にする名前を言った。

 

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