第3話 回想:桁外れの魔力量

精霊の加護

Zu-Y


№3 回想:桁外れの魔力量


 10歳になると教会で魔力量の測定をするのがこの国の習いだ。

 このとき俺は村で一番、いや、おそらくこの国で一番の魔力量を有することが分かり、一時期はそれこそ神童と持て囃された。あの数週間が俺の人生の絶頂期だったと言っていい。


~~回想・ゲオルク10歳~~


「神父さん、今日で10歳になりました。魔力量の測定をお願いします。」

「おお、ゲオルクはもう10歳になったか。ついこの間、産まれたと思ったのになぁ。わしも老いる筈じゃて。ふぉっふぉっふぉ。」

 立派な真っ白い顎鬚をしごきながら、神父さんが笑っている。この人、いっつも笑ってるよな。優しくて大好きだ。俺もこう言う大人になりたい。


 神父さんは丸い水晶玉を出して来て、神に祈りを捧げた。俺も横で一緒に祈る。どうか、魔力量がいっぱいありますように。

「ではゲオルク、この水晶玉に両手をかざしての。触っちゃいかんぞ。触るとすぐ曇りよってな、磨くのが大変なんじゃ。」

「はい。こうですか。」俺は水晶玉に両手をかざした。水晶玉がもの凄い勢いで輝いたと思ったら、そのままパーンと粉々に砕け散った。

「こりゃまた魂消たの。容量オーバーじゃわ。」

「神父さん、ごめんなさい。」

「よいよい。この水晶玉は魔力量を1000までしか測れんのじゃ。ゲオルクの魔力量は1000をはるかに超えるようじゃの。こりゃ村長に報告せねばな。それと東府の大司教様のところに連れて行かねばの。あそこには10万まで測れる水晶玉があるゆえの。」


 それから神父さんから村長さんへ報告が行き、村長さんから両親が呼び出されて俺の東府行きが告げられた。


 東府へは、数日に1度来る行商人の馬車に乗せてもらうそうだ。行商の馬車が来るまでの間、狩人の両親はもとより、村中から大魔術師の誕生だと大騒ぎされた。同年代の男子からは、俺とパーティを組もうぜと誘われ、何人もの女子からは、私をお嫁さんにしてと言われた。


 皆からちやほやされて悪い気はしない。なんたって、それまでの俺は変な奴扱いで、どちらかと言うとボッチだった。ぶっちゃけ、気味悪がられていたのだから。


 と言うのも、俺にはもうひとつの特技がある。皆は見えないようだが、俺はいたるところにいる精霊が見えるのだ。


 最初は誰でも見えるものと思っていたのだが、5歳の頃だったか、両親に話したらどうも違うらしいことが分かった。

「ゲオルク、そりゃ多分精霊だよ。父さんは見えないがな。精霊を見られる人はほとんどいないぞ。よかったな。」

「あらあら、それは素晴らしい力ね。母さんも見えないけどね。多分他の皆も見えないから、そのことを言っちゃだめよ。変な子って思われちゃうわ。」

 母さんから言われた「変な子」と言うのが結構効いた。それ以来、俺は両親にその話をしていない。


 精霊は、小さな光の珠でそこら中にふわふわと漂っている。俺が住むラスプ村やそのまわりの大森林では、ほとんどが緑の光だった。手を出すと逃げて行くものもいるし、寄って来るものもいる。中には俺のまわりをくるくる回ったりもするものもいる。

 たまに話せる奴がいるのだが、道端で話していたりすると、他の人からはひとりで会話をしている変な奴となってしまう。

 このせいで、ちょっとおかしいとか、気味が悪いと言われていたのだ。


 それが桁外れの魔力量で将来は大魔術師と言う噂が立った瞬間に、あれは呪文の練習だったのか。となってしまうのだからまったく現金なものだ。


 行商人が来て、俺は喜び勇んで東府に向かった。

 東府への旅は、連れて行ってくれる行商人の小父さんの他、神父さんが付いてきてくれた。

 大司教様への取次と、俺が粉砕してしまった水晶玉の代わりを買うためだ。神父さんは気にせんでいいと言ってくれたが、将来、大魔術師になったら必ず何倍にもしてお返ししようと誓った。


 行商人の小父さんは、途中のいくつかの村にも寄って行商をしたので、俺は行商のお手伝いをしたのだが、これがなかなか面白かった。将来、大魔術師として冒険をしながら行商と言うのもありかもしれない。


 そうこうしてるうちに東府に着いた。東府、正式名称はベルリブルク。東部公爵領の首府だ。

 いや、マジでぶっ魂消た。それまで村しか見たことがなかった俺にとって、東府の大きさといったら。地の果てまで町が続くのか?と言う第一印象だった。地の果てまで続く訳ないのに。笑

 そして人が多い。これも驚きだった。


 神父さんから東府の教会に連れて行かれたのだが、これがまた凄かった。ラスプ村の教会の何十倍もある建物で、高い塔がいくつもそびえ立っていたのだ。


 神父さんと一緒に教会内に通され、建物内の回廊を延々と歩いた。とにかく凄い広さだ。神父さんとふたりなのに結構広い部屋に案内されて待っていると、何人かの神官がやって来たが、先頭の人が一番偉い人だなと一発で分かった。雰囲気が違うのである。

「これは御師様、遠路ようこそいらっしゃいました。」

「これは大司教様。ご丁寧にありがとうございます。今は小さな村の司祭ですよ。ふぉっふぉっふぉ。」

「ああ、懐かしい。御師様のその笑い方、変わりませんなぁ。で、この子でございますか?」

「そうですじゃ。1000まで測定できる水晶玉が、まばゆく輝いて粉々に砕けましてな。

 ゲオルク、大司教様じゃ。ご挨拶せよ。」

「こんにちは。大司教様。ラスプ村のゲオルクです。」

「おー、よい子じゃ、よい子じゃ。

 では御師様、念のために大玉の方で測りますか?」

「大司教様、大玉は御蔵の中です。持ち出しできる中玉しか持って来ておりません。」横から若い神官が告げた。

「そうですか、では中玉にしますか。持って来た中玉をお出しなさい。」


 若い神官達が運んできた大きな箱から出した水晶玉は、村の教会の水晶玉よりもずっと大きかった。

「うわ、でっかい!」

「ふふふ、ゲオルク、驚いたようだね?これは魔力量1万まで測れる水晶玉なのだよ。めったに使うことはないがね。

 ではゲオルク、両手をかざしてごらん。」


 大司教様に言われるまま、水晶玉に手をかざすと、水晶玉は物凄い光を発して、ピシッと音を立てた。

 俺は慌てて手を引っ込めたのだが遅かった。光が収まるとそこにあったのは、きれいにまっぷたつになった水晶玉だった。

「あの、ごめんなさい。」

「ちゅ、中玉が割れた…。小僧、何と言うことをしてくれたんだ!」若い神官のひとりに怒鳴られたが、大司教様が庇ってくれた。

「お黙りなさい。この子のせいではありません。大玉のある御蔵まで連れて行かなかった私の判断ミスです。この程度で動じて子供を叱るなど、もっての他です。あなたは手をかざしただけのこの子のどこに非があると言うのですか?」

「申し訳ありません。」

「謝る相手が違いますよ。本当にすまない気持ちがあるのなら、この子に謝るはずです。あなたは自分の非を悔いたのではなく、大司教である私に叱られたから謝ったに過ぎません。もう一度、一から修行をし直しなさい。

 ゲオルク、すまなかったね。気にしなくていいのだよ。」

「はい。大司教様、ありがとうございます。」

「御師様、とんでもないお子ですね。魔力量は1万越えです。あれだけ見事に中玉を割ったのですから、おそらくは5万も超えるでしょうね。当教会でお預かりして、東府の魔法学院で学ばせませんか?」

「おお、それはよいの!

 ゲオルク、どうする?このままこの教会にお世話になって、東府の魔法学院で学ぶか?」

「神父さん、魔法学院で学ぶと大魔術師になれますか?」

「それはお前の努力次第じゃよ。ふぉっふぉっふぉ。」違ったけどね。


 こうして俺は教会に厄介になって魔法学院に通い出したのだが、ものの1週間で魔法学院を除籍になった。

 大玉で俺の魔力量はおよそ8万と言うことが分かったところまでがピーク。

 その後は転落の一途だ。なぜなら、魔法学院で教わった初歩の魔法すらもまったく使えなかったのだ。魔力を放出するための理屈は理解できたし、体内で魔力を自在に循環させるなど、体の中で魔力を練る=コントロールすることもできた。

 例えば両手に魔力を集め、部分的に高濃度にすることはできるのだが、それを放出することがどうしてもできないのだ。この事実は魔法学院の教授達を大いに悩ませたが、精密検査の結果、魔法を放出する能力がまったくないことが判明したのだった。


 つまり大量の資源が埋まってるのに、それを掘り出すことができないと言うことだ。これではその資源はないのと一緒だ。結局、俺の大魔術師への夢は断たれた。

 俺に魔力放出能力がないことを突き止めた先生~確かルードビッヒ教授だったかな?~は、それでも研究対象として残れるように交渉してみるから、残れたら一緒に魔力放出の道を探そうと言ってくれたし、大司教様は大層慰めてくれた。


 結局、魔法学院には残れなかった。大司教様から路銀をもらって馬車に乗り、ラスプ村へ帰る道中の切なかったこと。絶望と情けなさで打ちひしがれていたところへ、村ではまるで詐欺師扱いだったのは本当に堪えた。騙されたのは俺だよ!と言いたい。

 俺とパーティ組もうぜも、私をお嫁さんにしても、まったくなくなったのは言うまでもない。


 いじけていた俺を、父さんが狩りに連れ出してくれて弓矢を教えてくれた。ラッキーなことに、俺には弓矢の才能があって、嫌なことを忘れるために弓矢に打ち込むとめきめき上達した。

 父さんは俺を狩人にするつもりのようだったが、成人を迎える15歳になったとき、俺はラスプ村を出ようと思っている。

 流石に詐欺師扱いは、神父さんが庇ってくれたおかげで、間もなくなくなったが、この村での俺の信頼度は地に落ちている。掌返しをした同世代の連中との交流はほとんどない。する気もない。


 俺はいわゆるボッチだが、精霊の中でたまに話せる奴がいるからそれほど寂しくはなかった。話せると言っても二言三言だけど。ちなみに、話せる精霊は光の珠が大きい。

 実は森の奥に森の主のような木の精霊がいる。それまでに見た中では一番大きい特大の光の珠で、普段はぼうっと緑色に光っているのだが、たまに人型に近い形をとることもある。だいたい幼児くらいの大きさだ。その精霊はツリと言う名だった。話し掛けてみると、ゆっくりではあるが普通に話せて、俺とツリはすぐに友達になった。


 俺はツリに、大魔術師になりたかったことや、その夢が叶わなかったこと、15歳になったらこの村を出ることなどを話した。

『ツリも、ゲオルクと、一緒に、行く。』

「この森を離れて平気なの?」

『まだ無理。でも、人型に、なって、契約したら、平気。精霊魔法も、使えるように、なる。』

「へぇ、いいなぁ。魔法が使えるように頑張ってね。」

『ゲオルクと、契約して、ゲオルクの、魔力で、ゲオルクの、代わりに、木の精霊魔法を使う。』

「契約ってどうするの?」

『こうする。』と言ってツリが寄って来てそのまま俺の顔をすり抜けた。

『ごめん、まだ無理。実体化、できない。』

「焦らなくていいよ。そのうちできるようになるんでしょ?ずっと魔力を放出できない俺よりましだよ。」


 東府へ行こう。そして冒険者になるんだ。魔法は使えないが弓矢がある。幼心に俺は誓った。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


2作品同時発表です。

「射手の統領」も、合わせてよろしくお願いします。

https://kakuyomu.jp/works/16816927859461365664


小説家になろう様にも投稿します。

https://ncode.syosetu.com/n2050hk/

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る