第9話 サマダ、ライゴウ国へ宣戦布告

 ある日、ライゴウ国に宣戦布告の文が、貿易の貨物馬車に挟まる形で届けられた。差出人はサマダ、対岸の火事と思っていたこの国の王、ライオンは、冷や汗をかき始めた。

 「しかし、ニンジン国のサマダのことだが、彼は何が目的なんじゃ。英雄となった今、自国に歯向かう理由がないじゃろ。しかも、恨みがあるならニンジン国を徹底的に潰すもんじゃが、殺しは中途半端。娯楽で人を殺す、狂人としか思えん。ふ〜む、この国への宣戦布告も遊びかのう。」この王の発言に、側近の将軍ヒョウが反応した。「間違いなくそうでしょうな。サマダは、確かに魔王を倒した英雄ですが、その本当の正体は、サイコパスの狂人。魔物となんら変わらん、獣ですよ。ニンジン国の姫ピーマン殿は、彼に**されたそうですよ。ああ、可哀想に。」

 ライオン王は、ヒョウの言葉を聞き終わると、王座から立ち上がり、「今回のサマダ戦は、ヒョウお前に全て任せる。500年続く大国の安泰を守ってくれよ。」と言うと、王宮から出て、寝室の間に入っていった。それを見ながら、ヒョウは、元気よくハッと敬礼して見送った。

 いつ訪れるかわからないサマダの襲来に、ヒョウは次の日の朝、早速、軍の上層部全員を集結させた。

 ヒョウが会議室に入ると、呼んだ5人の豪傑達が既に集まっていた。1番右に立っているのが、ハルバード使いのガタイの良い英雄、サイである。右から2番目が、長剣使いでとんがった髪型をしている英雄、ツル。真ん中が、引退した英雄シマウマの息子であり、まだ10代の青年、ウマ。その次が、元最強防御魔道士で年寄りのウサギ。最後が、この国が作った勇者一団のリーダー、如意棒使いのサルである。

 彼らは、ヒョウを見るなり談笑をやめ、全員机についた。

 5人の顔を見るとヒョウは、「皆んなも噂で知っているだろうが、ここに集まってもらったのは他でもない、サマダの事だ。やつがこの大国を落とそうと、昨日宣戦布告をしてきた。彼が、隣国ニンジンを実質崩壊したのは知っているな?どうやら、魔王の力を手に入れたらしい。ハハハ、だが、小国のニンジンを落とすのが精一杯だったらしいぞ。うちは、ニンジン国の5倍は力がある大国だ。まともにやりあえば、負けはせん。」と言った。続いて、作戦についてアイデアを募ると、真っ先にウサギが手を挙げた。

 「ワシは、もう前の戦争の時のように、戦地には赴かんぞ。腰がいとーうて、いとーうて。町を含めた国の警備をするつもりじゃ。」このウサギの発言に反応してウマが、「前の戦争から学んで、城に2人豪傑を残すべきではないか?ウサギさんが行くなら、戦争経験のない私が残ったほうがいい。」と言った。すると、子供嫌いのひねくれツルが、「ガキは、黙ってろ。前の戦争とは、状況が違うんだよ。バカ。サマダは、莫大な破壊力を持ってるんだよ。城に近づけないように、戦わないといけない、だから、城に2人も残す必要はねえんだ。」とキレ気味に言った。それに対し、「他国の抑止力にもなるんだよ、2人残すと。」とウマは、言い返すも、すぐにツルが、「ウサギさんがいれば、それだけで抑止力になるだろ!この人の知名度を知らないのか?」と怒鳴った。ヒョウは、まあまあと2人をなだめ、彼の結論をまとめた。「私は、ツルの言い分を採用しよう。前の戦争だとウマの意見も一理あるが、今回は前線で決着を決めた方がいい。」ヒョウの言葉に、ツルはフッとドヤつき、ウマはむすっとした。

 次に、前線の配置について議論した。ヒョウは、まず、一つの案を提示した。ニンジン国から、ライゴウ城に向かうには、二つの道順がある。一つが、ワンワン村などがある森林、二つ目が、テンジン川の支川のライタ川である。他は険しい山々になっていて、サマダが空を飛べるのは知っていたが、MPの消費を考えて、地上で来るだろうと断定していた。森林側にはサイと森林得意なサルが、川側には川得意なツルとウマが待ち伏せをする。

 ツルとウマは、この案を聞いた途端、怒涛の反論を示した。「なんで、実践経験のないガキと俺が組まなきゃならねぇんだよ。俺がガキ嫌いなの知ってるだろ?」「将軍!こんな性格の悪い、女にモテないダメ男なんかと組みたくありません。ベテランと若手を組ませたいのは分かりますが、コンビネーションがそれ以上に大切です。」ツルは、ウマの悪口にピキーッとしたが、ヒョウになだめられた。そして、ヒョウは、2人にお願いするようにこう言った。「2人の言い分は分かるが、ここは騙されたと思って私に従ってくれないか?私は、総指揮として後衛にいるわけだが、どちらかというと川側に極力居ようと思っているんだ。2人が喧嘩したら、なだめにいくよ。決戦までの数日間だ、耐えてくれないか?」

 ツルは、渋々了承し、ウマは、またむすっとして、「いいですよ。」とだけ答えた。

 ヒョウは、念のため、サイとサルにも意見を聞いたら、彼に賛成したので、早々と会議を終えた。

 その後、各々が細かい作戦を立て、その2日後には、軍が城を出た。

 

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