第7話 アイ帰還

ニンジン城ではオノの死で、以前よりも一層、人の動きが慌ただしくなった。

 モモは、病室で目を覚ましたが、右手、右足を骨折しており、立って指揮をとれるような状態じゃない。キュウリは、普段大人しく、人の前に立つタイプではない。しかし、モモの代わりに兵士のまとめ役を務めなくてはならなかった。彼は、まず、兵士に城下町の支援と、元ニンジン城の瓦礫の撤去を命じた。

 町人達はここしばらく、ニンジン城の方によく目をやっては、その珍しい景色を眺めていた。しかし、2週間もすれば、それに慣れてきたようで、日常の風景として、気にしなくなった。

 城下町には、それほど荒れた箇所がなく、人々は以前通りの生活を送っていた。しかし、ひびが入って倒れそうになっている石壁が幾つもあり、それらの修繕は、国に求められた。

 1番酷いのは、姫のピーマンだった。サマダに***された彼女に、見るに耐えない怪我は見られなかった。しかし、彼女は、自室に籠り、口を閉ざすようになってしまった。

 彼女の執事、カカオは、そんな彼女を不憫に思った。彼は、彼女が涙を流した際には手をとり、心が落ち着いたように見えた際には、面白い話を振ってあげたりした。それでも、彼女からは、以前のような天真爛漫な笑顔を見ることができなかった。カカオは、王に相談をしたが、そのことが王を追い詰めることとなり、王の怪我の治りが遅くなった。

 その頃、アイはというと、自宅に着く直前に、肩に停まった閃光伝書鳩の手紙を読むと、即効ニンジン城に進路を変えていた。

 砂漠をひたすらに歩き、丸4日間、オアシスの町で寝泊まりしつつ、たどり着くのがワンワン村だ。そして、さらにそこから山を2つ超えたところにニンジン城がある。往復はきつかったが、アイは、急いで、ワンワン村まで戻ると、しばらくそこで停泊し、ニンジン城からの2度目の連絡を待った。

 クロが、サマダに敗れ、殺されたという知らせが来、アイは「とうとうここまで落ちたか。」と、呟いた。

 彼女から見ると、サマダとクロの関係は非常に良く映っていた。慎重なクロと、リーダーシップのとれるサマダ、クロが裏で頭脳で、サマダが表で大車輪。そういった関係性だった。また、それと同時にサマダが魔王を取り込み、強くなったという知らせはアイを深慮させた。

(サマダは、旅の途中、よく魔王の力が手に入るとか、魔物が体の一部になるとか言ってたっけ。サマダは、私たちを騙してたのね。だけど、人間を襲うなんて、とてもそんなことができる人間にはみえなかった。なにか、、なにか、深い理由でもあるのかしら。)

 アイは、数日間、ワンワン村に留まっていたが、体がむずむずしだしたので、結局ニンジン城へ行くことにした。

 2度目の閃光伝書鳩がやってきたのは、アイが城に着く直前だった。

[オノ 彼の故郷にて サマダに暗殺される]

 アイは、嫌な予感が的中したと、頭を抱えた。(オノは、防御力と通常攻撃が安定しているタイプだ。だから、2人が戦うとすれば、長期戦になるに違いない。そして、長期戦になれば、オノへ援護が送られ、サマダは不利になる。しかし、オノの自由気ままな性格を考えると、隙をつかれ、戦わずして負ける)

こんな最悪の展開になるのではないかとも思っていた。そして、今回は、後者が的中した。

 アイは、残りの1人としてより一層、サマダ打倒の決意を固めるのだった。

 アイがニンジン城に着くと、城は完全崩落、王族はボロボロだった。

 魔王討伐を達成した名誉ある国とはとても思えないその姿に、彼女は、思わず涙を流した。

 彼女は、門番の兵士に案内してもらい、王の元までたどり着いた。

 王は、彼女を見るなり、口を開いた。「アイか、、、わざわざ帰ってきてくれて、すまないね。わしの命ももうわずかじゃ。この国の指揮は、本来英雄サマダに渡すつもりじゃったが、彼は、今となっては国の反乱者。ピーマン姫も口のきけん有様じゃ。そこでじゃ、英雄アイ殿にしばらくこの国の指揮をとってもらいたいんじゃ。お主らは、国の象徴。上に立てば、必ず他国の抑止力になるじゃろ。」彼女は、ためらいつつも、王の意見に賛同することにした。

 アイは、国の主としてキュウリと相談し、軍事力の強化と城壁、城下町の修繕を施し、サマダの到来に備えた。

 

 

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