43:永遠に

3月17日 朝

(眩しいな。。。寝てたのか?伴田に噛まれ意識が飛んだのか?。)佐久間が粗末なベッドで目を覚ました。痛みを感じる肩には布が充てがわれており、その上に手を重ねる、少し微笑む佐久間。(伴田に会いたい。)慌てて起き上がり伴田を探した。建物を探す、一室に感染者達が集まっている。(ここ、牧野さんを弔った部屋だ。。。)感染者を分け入ると、伴田が横たわっている。「、、、え?、、、なんで、、、いや、どういう事?。」何が起こっているか分からないが、良くない事だけは分かった。静かに伴田を見ている住人達に「どうしたんですか?なんで?なんで?、、、。」と震える声で佐久間は問いかける。伴田の亡骸を挟み向かいに居る老人が佐久間の様子を憐れむように語り始めた、「ここにはルールがあって、人を襲ったり感染させた者は処分します。」「え、、、。」言いようのない悲しみが一瞬で佐久間の感情を覆い尽くす。老人は無表情ではあるが目を潤ませていた、そして静かに続ける。「ルールを破り処分された者に尊厳は向けられず、身も清めずに首を切り、首と胴体を別々に埋めます。死後の世界で首を探し彷徨い続ける苦悩を与えるためです。」佐久間は両手で頭を抱える、老人の声は手で塞がれた佐久間の耳に響き、深く反響し、佐久間の心を揺らす。佐久間はゆっくり膝から崩れた。佐久間は泣いた、生まれた赤ん坊のように、泣く事以外を知らないかのように。老人は泣き続ける佐久間の横に来ると肩に触れ、封筒を差し出した。佐久間は力なく開いた口、重さに耐えられない瞼で老人の手元に顔を向ける。その封筒を受け取ると老人の寂しげな目を見つめ黙礼した、封筒の中には三つ折りにされた手紙、そして小さな十字架のネックレスがあった。

ネックレスを見て伴田の胸元を思い出した、そして震える手で手紙を丁寧に開いた。

『佐久間さんへ

見た目も変わり名を変えても、分かるものなんですね。櫻井という本当の名前を取り戻してくれてありがとう。君に漢文を教えた頃が懐かしいです。此処で会った時、すぐに君だと分かりました。君が元気で嬉しかった、君は弟に似ていたから。

私は妻の命を奪い、死に場所を探して彷徨いました。そして気が付くと君に出会った思い出深いこの学校に辿り着きました。学校は様変わりしてレビスのコミュニティーになっていました。ここの住人達は絶望にさえ疲れ、ただただ力なく死を待ってました。病より見えない差別に殺されようとしていました。それを見て私は弟と君を思い出し、まだ自分に生きる意味があることを感じ、住人達の役に立とうと考えました。』


佐久間は書かれた文字から、櫻井の声を聞き、その声に肩を抱かれているような感覚を覚えていた。


『君の望み、感染させる事が正しいかは分かりません。ただ、君の望みを叶える事が罪なら、その罪を背負おうと思いました。これから私は罰を受けます。差別され続け、人と認められず生きていましたが、君と再び出会えて全てが報われました。昨夜、久しぶりに夢を見ました、よく覚えていないのですが、幸せな気分の夢でした。私の体は引き裂かれても、君と私は結びついています。ありがとう。櫻井』


十字架のネックレスをそっと手で包み、ゆっくり立ち上がると亡骸を見つめた。「李白の詩、君を思えど見えず、、、渝州に下る、、、。私より先に分かっていたんですね、、、。」枯れ果てた目から、また涙が溢れる。「あなたは、、、私の、初恋の人でした、、、ありがとう、ございました、、、。」と布に覆われた櫻井の顔を愛しむように両手で包んだ。真上に近い陽射しが窓から溢れ、櫻井の二つに別れた亡骸と佐久間を中心に大勢の感染者の悲しみが照らされている。皆の荒れた肌は歴史を経た銅の彫刻のようで、伝う涙はキラキラと光を反射し、奇跡のように気高くも悲しい光景であった。



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