熊エッセイ2021

熊ノ翁

何故、中世ファンタジーではジャガイモを出してはならないのか

「この作品、中世ファンタジーですよね。なんでジャガイモが出てくるんですか? おかしくないですか?」


 いわゆる「ジャガイモ警察」の方々からこういった批判があるというのは、日頃ファンタジー小説を読まれている皆様ならご存知かと思います。


 煮て良し、焼いて良し、蒸かして良し、揚げて良し、炒めて良し。

 カレーに、シチューに、肉じゃがに、コロッケに、ジャガバターに、フライドポテトに、ポテチに、サラダに、ありとあらゆるお料理に姿を変え、食卓で縦横無尽に活躍する我らがお野菜、じゃがいも。


 かつてはヨーロッパ諸国の大飢饉を救ったともいわれ、わが国でも天保の大飢饉に苦しむ農民たちの命を繋いだ食の救世主たるじゃがいもですが、何故か中世ファンタジーに出すとジャガイモ警察の皆様より鬼のようにディスられ厳しい尋問を受けます。


 今回は、そんなファンタジー界における不遇なお野菜「ジャガイモ」について語っていきます。

 どうぞ皆様、ご笑覧頂ければ幸いです。


 さて、ではまずジャガイモの歴史やスペックを確認していきましょう。

 ジャガイモ。

 元は南アメリカのアンデス原産で標高3000メートル以上の高地にて主に栽培されていたみたいです。


 ジャガイモの語源はジャガタライモから来ており、これは日本に伝来したのがインドネシアの首都ジャカルタからオランダ商船が持ってきたという所から来ているようです。


 食物としては紀元前のアンデス文明時代から既に食べられており、その歴史は実に長いです。

 ヨーロッパへは1570年あたりにスペイン人によって当初は観賞用として持ち込まれ、食材として普及していくのは17世紀頃からと言われています。


 石ころのような形をしたでんぷん質を多く含む地下茎の部分が食用となり、地上茎は大体高さ50センチから1メートル程度の高さを持ちます。

 いわゆるジャガイモ本体を種芋として畑に埋める事で栽培が行われていますが、実はちゃんと花を咲かせ、地上部でも果実をつけ、種を作ります。


 ただその種から育てた場合、親株と同じ大きさまで育てるには数年は掛かる上に種ごとに遺伝的性質が異なり品質にムラも生じるため、種芋を植えるという栽培方法が主流となっているそうです。


 収穫時期は栽培の時期によって異なり、春に植えて夏に収穫する場合と夏に植えて秋に収穫する場合が一般的。

 栽培適温は15℃~22℃ですが冷害に強く、稲や小麦がダメになる中でジャガイモだけは生き残り飢饉に苦しむ人々を多く救った歴史的功績があります。

 まあ、その裏で連作障害で多くの餓死者も出したわけですが、それはまた別のお話。


 皆様ご存知の通りジャガイモはソラニンという毒を持っており、特に日光を受けて緑色になった芽や皮には多く含まれています。

 そのため食べる際は変色部分は切り取って調理することが推奨されています。死亡例あり。

 中国、インド、ロシア、アメリカ、ドイツ、バングラデシュ、フランス等々、様々な国、様々な気候下で栽培されていて、日本でも北は北海道から南は鹿児島まで栽培されている何とも懐の深い野菜です。


 纏めると、じゃがいもという作物は世界各国あらゆる地域で栽培されており、歴史も実に長く、毒はあるもののあらゆる料理が考案されており、調理するにあたり特別な技術も要らないと、正にマーベラスな作物なわけです。


 古くから作物として親しまれ、食べられてきた我らがジャガイモが一体なぜ中世ファンタジー世界では出すことが禁忌とされているのか。

 むしろこんな畑のMVP、食材のマーブルスーパーヒーローズみたいな奴、出さない方が逆に不自然なのではないか。


 つーか現にヨーロッパでドチャクソ栽培されて喰われてるやんけ。

 なーにがじゃがいも警察だ。

 なーロッパファンタジー舐めてんじゃねーぞコラ。

 ケツからじゃがいも詰め込んで口から出させる逆コピ・ルアクしてやろうか、おぉ?


 と、お怒りの読者様もいるかもしれません。

 お気持ちはごもっとも。

 熊も過去には出勤時間ギリギリに職務質問を喰らい、会社遅刻して反省文を書かされた身です。あなたの公権力に対する怒りはよくわかります。


 私たちはわきまえない!

 公権力は恥を知れ!

 我々は―、搾取されているー!


 という具合にじゃがいも警察に向かって火炎瓶を投げつけ、ほっくり焼けた所をゲバ棒で叩き潰し、バターと明太子を乗せておいしく頂きたい所ですが少々お待ちください。

 ここで今一度思い出してもらいたい事があります。

 それは、まずジャガイモがヨーロッパに伝来した時期です。


 ジャガイモがスペイン人の交易により南アメリカからヨーロッパにもたらされたのは1570年代、つまり16世紀の事で食材として脚光を浴び出したのは17世紀あたりからとなるわけです。

 そして「中世」の時代の定義は大体西暦500年~1500年までであり、じゃがいもは中世以降の航海技術の発達から来る大航海時代にもたらされた「中世の終わり」と「近世」の象徴となる作物だったわけです。


 だからこそじゃがいも警察は、中世ヨーロッパをモチーフとしたファンタジー世界においてじゃがいもを出すことを禁忌とし、呪われし作物としてその存在を滅することに血道を上げているわけですね。


 まあ、そんな事言ったらファンタジーに出てくる空飛ぶドラゴンやペガサスの存在は海路通り越して空路作っててもおかしくないでしょうし、そもそも「魔法」なんて世界設定のデウス・エクス・マキナ、メアリースー的な存在があるならば、ジャガイモの存在なんてファンタジー世界のどこで知られてどこで栽培されてようと不思議でも何でもないかと思うわけですけども。


 そしてもう一つが「ジャガイモ」の語源。

 インドネシアの首都「ジャカルタ」のイモという事で現実の地名が使われているわけですね。

 それが何故インドネシアもジャカルタも無い世界で「ジャガイモ」という言葉になるのだ、というのが罪状となるようです。


 だったらそもそも異世界について日本語の文章で書き表されている事自体成り立たねえだろ、という話になるわけですけども。

 兎にも角にも、何故じゃがいもが中世ファンタジーで取り締まられているのかについては、以下のような理由のようです。


・じゃがいもの原産地は南アメリカの高地でありヨーロッパへの伝来、食材としての認知は16~17世紀からであるという歴史を無視している。


・大陸間を移動するような長距離航海技術は近世のものであり、中世ヨーロッパファンタジーにおいてじゃがいもを出すのはこれに反する。


・ジャガイモは「ジャカルタのイモ」から言葉が来ているため、ジャカルタという地名が存在しない以上その呼称をされるのは不自然である。


 大きくはこんな感じでしょうか。

 なので、海を超えての交易が何かしらの技術で可能である事や、ジャガイモの原産地やもしくはその普及において「ジャカルタ」と似た響きの地名が存在し関連している事等の補足を入れれば、ジャガイモ警察の目を逃れる事も可能かと思われます。

 以上、サツのガサ入れに悩まされている書き手さんの一助となれましたら幸いです。


 最後に。

 名作映画「スターウォーズ」を撮った世界的映画監督のジョージ・ルーカス様が「宇宙は真空のため音が聞こえないはずなのに、何故スターウォーズでは爆発音等が出るのですか?」とSF警察より職務質問を受けた際の返答をもってこのエッセイの締めとさせてもらいます。


「俺の宇宙では音が出るんだよ。その方が面白いだろ?」


何故、中世ファンタジーではジャガイモを出してはならないのか……END

執筆日、2021年8月1日



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